僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ

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ぴかぴか




 さくり、さくり、ムニャが雪を踏む。
 ちらちら冬の朝のひかりが射して、緑の葉が揺れる。

 ドササ──!

 落ちる雪に、びっくりしたように、りすが駆けた。

 ふたりで顔を見あわせて、笑う。
 くすぐったい、しあわせが、降りてくる。


 鳥のさえずりの響く森を見回した僕は、ムニャの服を引っぱった。

「むーちゃん、あしょこ」

 僕が指したのは、朽ちた大樹の陰だ。

「ここ?」

 日かげの、じめじめしたところに、ムニャが目をみはる。

「むーちゃん、ゆき、しまって、くれゆ?」

「もちろん」

 長い指が、ひらめく。

 シャ──!

 降りつもる雪がなくなって、びっくりしたように、りすが跳ねた。

「かわいー!」

 こしょこしょ、ムニャとささやいて、笑う。

「日かげになってるけど……ここに香草が、あるの?」

 ムニャが僕を濡れた大地に降ろしてくれる。

「みて、みゆね」

 すべる地面で転ばないように気をつけながら、僕は大樹の陰を探した。

 大きなうろのなか、朽ちた樹の近く──

「……あった!」

 とげとげの草が生えている。
 鼻を刺すような、涼やかな香りが立ちのぼる。

「このこ!」

「おお! すごい、つんとする香りだね」

 ムニャの瞳がまるくなる。

「さっきん? ばいきん、なぃなぃ、してくれゆの。
 はんしょく、りょく、たかぃ、から、ちょこっと、もらっても、へぃき」

 ひとつの株から根こそぎ、もらうことのないように、ひと房だけ。

「いたぃ、いたぃ、ごめんなしゃい。いっぱぃ、のびてね」

 祈りをこめて、そうっとちいさな指でふれる。

 緑のひかりが瞬いて、とげとげ草に緑のひかりが宿るようにきらめいた。

「?」

 首をかしげる僕に、見つめていたムニャも首をかしげる。

「どうかした? ぽて」

「ぴかぴか、してゆ」

 きらめく緑の草に、ムニャがうなずく。

「してるね。そういう草なんじゃないのかな?」

 ふるふる僕は首をふる。

「やくそぅ、ぴかぴか、しなぃ、とおもぅ?」

 もしかしてこの地域では、草は、ぴかぴかするのが、当たり前なのかな?


 ……僕、まちがった?

 ちがう草をもらっちゃった……?


 あわあわ考えてみたけれど、香りも、特徴も、生えてる場所も、とげとげ草だ。

「た、たぶん、あってゆ!」

「間違ってても、いい香りだよ。ありがとう、ぽて」

 ふうわりムニャが笑ってくれる。


「えへへ。ありがとう、むーちゃん」

 そうっと、ぴかぴかの草にふれる。


「いっぱぃ、のびてね。ありがとぅね」

 ひと房つんだ瞬間、緑のひかりが弾けた。

 きらきら舞うひかりを、ふたりで見あげる。


「しゅごぃ!」

「きらきらだね」

 ふたりで拍手して、ふたりで笑った。


 きらきら緑に輝く草を、ちいさな指で、ひと房ずつ摘んでゆく。

 ひと房、摘むごとにムニャの長い指がひらめいて、香りの草を影のなかへ、しまってくれた。



「これくらぃ、で、いーかにゃ?」

 くるりと周りを見回した僕は、ぴょこんと跳びあがる。

「やくそー、あった!」

「おお!」

 とげとげ草の近くによく生える、解熱と沈痛効果のある、熱さまし草だ。

「ねちゅ、さまし! ぽて と むーちゃんのぶんと、やくそー、くみあぃ、もってゆくの、ちょこっとだけ、もらう!」

 もわもわ生えている、熱さまし草に、胸に手をあてる。

「いたぃ、いたぃ、ごめんな、しゃい。いっぱい、はえましゅ、ように! ちょとだけ、くだしゃぃ」

 むーちゃんの力になれるように。
 むーちゃんの役に立つように。

 傷つけてしまう熱さまし草が、傷ついた分、もっとよくのびて、もっと元気になるように。

 祈って、そうっと手をのばす。

 ひと房、ちいさな指がつまむ瞬間、緑の光が弾けた。

 きらきら舞いあがる緑のひかりが、熱さまし草に舞い降りる。


「わあ!」

 ムニャが拍手してくれる。

 僕のちいさな手のなかで、ひと房が緑に、きらめいた。







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