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がんばれ理性
しおりを挟む勿論ゲォルグは、セバと話したい。
しかしこの恐るべきぽんこつになった頭で、ちゃんと尊敬してもらえる受け答えができるだろうか。
というより、セバが話してくれたことが今ひとつ内容が耳に入ってこないんだが、だいじょうぶか?
脳内の言葉がダダ漏れないだろうか。
まだ『セバ、かわいいね』ならいい。
『色っぽくて可愛いね』も、まあいいだろう。
『うっとりするほど細い腰だね』は危険だ。
『とってもかわいい、ちいさなお尻だね』これはかなりだめだ!
間違って『ちょっと乳首を見せてくれないかな』とか言いだしたらお終いだ!
犯罪だ! がんばれ理性!
『こんな人に仕えたくない!』
叫ばれたら泣いてしまう。
涙ぐむ暇はなかった。
セバの緊張をとかすためだろうか、背をさする院長の指が、毎夜の愛撫のように淫靡に動いた。
思いだしたのだろう、セバの喉がひきつけを起こしたように鳴る。
ちいさなかんばせが痛ましく歪んだ瞬間、手を伸ばしていた。
「セバ──!」
腕のなかに閉じ込めたかったが、背に庇う。
こんの犯罪者め──!
こんなに可愛いセバになんてことを──!
『可愛くてたまらないからつい』とか、そういう言い訳は聞きたくない!
「申しあげます! 私は、されたい方です──!」
………………最初から言ってよ。
激おこ、ごめんよ。
セバの背を撫でるのが、はらわたが燃え千切れそうなほど羨ましかったからとか、そんなことある。
「領地巡りに? 同じ馬車に同乗させろと?」
ゲォルグは低く淀む自分の声を聞いていた。
セバのよい知見になるだろう。
言われなくてもよく解る。
しかし
しかしだ。
同じ馬車で、ふたりきりだぞ?
こんなに愛らしいセバと、密室で長時間、ふたりきりになるだと?
セバが18歳なら、なんの問題もない。
いや、セバに拒まれるという涙が溢れる選択肢はあるが、もし合意のうえなら倫理的に問題にはならない。
セバは8歳だ!
さっき院長に吐いた言葉が、ぜんぶ自分に返ってくる──!
可愛いから、つい髪を撫でたり、ほっぺを撫でたりするついでに、ちょっと服を脱がしたり、ちょっと乳首を噛んでみた──ぁあぁアァ──! 想像したり勃つことさえ犯罪だから!
涙で滲みそうなのを隠すように、目を眇める。
「だめだ」
無理だ。
犯罪者にしないでください、お願いします。
セバが被害者になるなんて、絶対にだめだ──!
ほんとうなら、連れて帰りたかった。
教育のためとか、将来右腕となって支えてほしいとか、そんな目的じゃない。
愛くるしいセバが身の回りの世話をしてくれるなんて、至福だから。
ふわふわ揺れる蘇芳の髪を、きらめく蘇芳の瞳を、いつまででも見ていたい。
こんなぱーぷーな頭になってしまっては、連れて帰るのは無理だ。
手を出さない自信がない。
拒まれたら回避できると思うが──セバは、俺のものだ。
たぶん、いや、絶対、拒まない。
自信があるから、余計に無理だ。
「……18歳になったら、そのときにまた──」
迎えに来ようと思ったのに院長が首を振る。
「10年もございます! 若いときの学びは得難い糧となりましょう、どうかセバに教育を! この子は孤児院で埋もれる子ではございません!」
言い募る院長の隣で、唇を噛んだセバが、ふるえてる。
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