【完結】ずっと、だいすきです

  *  ゆるゆ

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10年

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『……セバ……』

 名を呼んで、抱きしめて、その髪に口づけたい。

 きみを傷つけるすべてのものから、守りたい。

 きみを泣かせたくなんて、ないのに。


 ゲォルグの前で、セバが、ふるえてる。


「……どんなことも、いたします。靴磨きも、水汲みも、厩舎の掃除も、よろこんで。……無能かもしれません、それでも、ゲォルグさまに捧げる忠誠は、真の気もちです。
 ──どうか、お傍で、使ってくださいませんか……?」

 あふれる涙で、すがるように見あげてくれる。


 ──ああ、俺の傍にいたいと泣くセバは、なんて愛らしいのだろう。


 夢かな。

 思わず頬を引っ張った。
 痛かった。

 痛い夢だな、わかったぞ。

「ゲォルグさま、そろそろお時間にございます」

 護衛の衛士が声をかけてくれる。
 涙のセバに、ゲォルグは恍惚をのせた笑みを浮かべた。

「そこまで院長が優秀だと言うなら、この春に俺が入学する帝立学院の一般入学試験に合格しろ。できたなら俺とともに通う従僕として使ってやる」

 尊大な物言いをした。
 できるわけがないと解っていたからだ。
 それでも挑戦しようとしてくれるかもしれないセバの意志を挫きたかったからだ。

 優秀な家庭教師に教授を受けていない8歳の孤児院の子が、ドディア帝国中の精鋭のみが集まる帝立学院の入学試験を突破するなど、猛暑に雪うさぎをつくるようなものだ。

 ありえないことを提示しないと、優秀だというセバを断る口実を見つけられない。


 見た目は可愛い。最強にかわいい。ど真ん中とかやめてくれ。
 振る舞いも見様見真似なのだろうが、よくできている。
 品がある。これは後天的に身に着けるのは難しい。
 頭もよいのだろう。目を見ればわかる。

『セバ』その名のとおり、忠誠を誓ってくれる。

 ──求めれば、きっと、どんなことにも頷くだろう。


 どこにも、従僕に採用しない要素がない。

 18歳なら、大歓迎だ。
 狂喜する。

 だが8歳はだめだ。

 絶対、だめだ。


 主に、理性が。


 本能と対決してたけど、闘いにならなくなってきた──!
 犯罪者になる未来しか見えない。
 セバが被害者になるなんて絶対だめだし、代々が必死に守ってきたジェディス家をゲォルグが潰してしまう事態だ。

 それは何としても回避せねばならない。

 次期侯爵に選ばれたゲォルグの最たる使命はジェディス家を繋ぐこと、できれば発展させられたらいいが、潰さないことが最優先だ。

 巌の決意とともに、ゲォルグは告げる。

「通常は18歳の成人から帝立学院に通うことになる。10年後、入学試験に合格したなら、執事候補の従僕として採用する」


 ごめん、セバ。

 今の俺は、きみの傍にはいられないけれど


 10年後に、また逢おう。



 今より可愛く、つややかに、おいしそうに育ってくれたらうれしいが、そうじゃなくても構わない。

 いや、俺にだけ可愛さが解るように育ってくれたらうれしい。

 恋敵が少なくなるから。


 でもほんとうは、どんなきみだって、きっと、いとしい。


 どんなきみも、迎えにこよう。


 きみは、俺のものだから。





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