【完結】ずっと、だいすきです

  *  ゆるゆ

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かんぺきなロヌ

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 襲われるのに、お金を持っていないとか、そういうことが関係ないことを、孤児院にあった本すべてを読んだセバは知っている。

 孤児が理不尽な暴力に気をつけるようにロヌ院長が置いていてくれたのだろう、憂さを晴らすとか、気に喰わないからとか、優越感に浸りたいとか、びっくりするような理由で孤児に暴行する者があるという。

 大きな街では衛士が巡回してくれているので、近隣諸国に比べて治安がとてもいいドディア帝国でさえ、暴力を振るう者はなくならない。

『何かあったら、すぐに吹くんだよ』

 白髭のロヌが孤児ひとりひとりに手渡してくれたのは、通報にもなる笛だ。

 胸にさげた笛を、セバは服のうえから握りしめる。
 何かあった場合は吹くと衛士が飛んできてくれるそうだ。

 音で周りに犯罪を周知させ、衛士に通報する魔道具らしい。
 天才が作り出したこの魔道具のおかげで、犯罪が激減したという。

 孤児院にあった恋愛小説では、暴行されそうになった少年と、駆けつけてくれた衛士のあいだで恋が始まっていた。
 思いだして、ちいさく笑ったら、緊張がほどける。

「帝都行き! もう出るよ──!」

 駆けこむ人で満席になったら、鐘の音とともに馬車が走りだす。
 窓から領都を振りかえったセバは、手を振った。

「みんな、ありがとう」

 捨てられた街、育ててくれた街、帰る家に、手を振った。




 ドディア帝国の馬車は、乗り継ぎがややこしくならないように、街に着いたら行きたい街行きの馬車に乗ればよいようになっている。一日で辿りつける街は殆どないが、乗り継ぎのときもその街行きの馬車に乗り続ければ、ちゃんと目的の街にゆける。
 たくさんの街がありすぎて、行きたい人が多過ぎて、乗り継ぎが複雑すぎて大混乱になってから改良されたのも勉強した。

 乗合馬車で帝都にゆくにはジェディス領都から早くても1週間はかかる。天候によるし、馬のその日の体調にも、馬車に何人乗っているかでも変わってくる。遅くても2週間くらいで着けるらしい。

 乗り継ぎの小さな街の素泊まりの宿に泊まろうとしたら

「兄ちゃん、いくら?」

 にやにやする髭のおじさんに腰を抱かれそうになった。

 そういう時の対処も、孤児院の本で読んだ!
 ロヌの選書は完璧だ。

「俺は8歳です。笛を吹きます」

 万一のときのためにとロヌが持たせてくれた出生証明を手に、胸の笛を唇にあてたら

「ぎゃァア──!」

 涙目になったおじさんが、逃げ去った。
 ドディア帝国では性的虐待も凌辱も、極刑だ。

 緊張にふるえていた指で、吐息した。

 もしゃもしゃの髭で、ロヌが笑ってくれた気がした。



 こんなことは一度きりだろうと思ったのに!

 街につくたび、セバの細い腰を抱こうと、太い腕が伸びてくる。

「ねえ、きみ、いくら?」
「すっごくかわいーお尻だね♡」
「もんでいいかな♡」

 にやにやするお兄さんや、おじさんや、おじいさんを

「俺は8歳です!」

 撃退した。


「え、いや、嘘でしょ、そんな色っぽい腰して?」
「可愛がられまくってるくせに!」
「どう見たって18歳……!」
「ちょっとでいいから!」
「もませてくれたら、お金をあげるから!」

 しつこいお兄さんやおじさんや、おじいさんには

「うりゃ!」

 必殺の出生証明を掲げる。
 笛の準備も万端だ!

「ぎゃあァア! す、すみませんでしたァア──!」

 逃げ去ってゆくお尻も、かわいいと思うよ。




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