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ひさいでないよ!
しおりを挟む8歳児に手を出そうとするなんて、皆、よっぽど餓えているらしい。
いや、セバは8歳児としてはとても背が高いみたいだ。つり目なのもあるのだろうか、16歳くらいに見えるという。ときどき18歳と言われるので、商売をしていると勘違いされるのかもしれない。
「……そんなに春をひさいでいるっぽいのかな……」
それはジェディス家の従僕として、ふさわしくないのではないだろうか。
しょんぼりしてしまう。
他の誰に何と思われても構わないけれど、ゲォルグに
『誰にでもお尻をもませているんじゃないか』とか
『誰にでも足を開いているんじゃないか』とか思われたら、号泣する──!
何にもしてません──!
清らかです!
ゲォルグさまが、してくれないなら、ずっと──!
思った瞬間、頬が燃えた。
8歳でよかった。
身体は燃えてない。
だいじょうぶ。
どきどきする胸を、そっと押さえる。
はじめては、ぜんぶ、あなたがいい。
だめなら、死ぬまで、なくていい。
ガタガタ激しく揺れる馬車の旅と
「かわいいお尻だねえ♡ きみ、いくら?」
にも慣れたころ、帝都についた。
帝立学院を受験して以来だ。
ジェディス領都も賑やかだが、帝都はやはり規模が違う。
流行しているのだろう、同じような衣をまとった人々が肩をそびやかしてすれ違う。領都とは人の数も歩く速度までちがう。
色とりどりの天幕を掲げる露店から、威勢のよい呼び声が響いた。
「……やっぱり、すごい」
近隣諸国でも一番の繁栄を誇るドディア帝国、その帝都は大陸一のにぎわいとも謳われる。
「ぽかんとしてると襲われるぞ、しっかりしろ!」
「はい!」
御者のおじさんが声をかけてくれて、あわててセバは背を正した。
ドディア帝国では主要な街の御者になるのには試験がある。誠実な人柄でないとなれないし、問題のありそうな乗客や荷を衛士に報告する義務がある。怠ると御者資格剥奪、罰金もあるという。
どの馬車の御者も、おのぼりさん丸出しらしいセバを気にかけてくれた。
「ありがとうございました」
丁寧に頭をさげたセバは、メナが持たせてくれた地図を広げる。
ジェディス邸の位置と方角を確かめ、人の海へと踏みだした。
「わあ、セバだ! 偶然だね──!」
薄紅の髪が揺れる。
星を宿したような薄紅の瞳が雪雲の隙間から射す冬の陽に輝いた。
「エィラ!」
帝都の流行なのだろう衣に身をつつんだエィラは、まるでうちから光を放つように愛らしかった。
たくさんの人のなかで、エィラだけが浮きあがって見えるほどに。
「びっくりした。エィラは帝都に家があるんだっけ」
「近くなんだよ。あそこの商家」
エィラが指したのは、帝都の広場に店を構えるなかでもひと際大きい佇まいの商家だった。
他の商家とちがい、前面が大きな硝子張りになっている。
店の前には多くの客が興味深そうに店のなかを覗きこんでいた。
冬の陽にきらめく硝子は、遠くからもよく見える。
「すごい、立派だな」
「えへへ。新参なんだけどね、両親ががんばってて」
両親を褒めてもらえたことを喜ぶように、エィラが笑う。
やわらかそうな薄紅の髪が、冬の風さえあたためるように、ふわふわ揺れた。
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