【完結】ずっと、だいすきです

  *  ゆるゆ

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どうか、おそばに

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 ゲォルグの執務室にセバが呼ばれたのは、魔導院で詳細な鑑定を受けてから、ほどなくのことだった。

 見あげるゲォルグが、氷の彫像のようで、セバは微かに息をのむ。


「……エィラと、伴侶になることに、なった」

 氷の声で告げられたセバは、ぎゅっと唇を噛んで、うなずいた。

 ゲォルグの子をうめるのは、帝国中で、エィラだけ。
 そう聞いてから、詳細な鑑定を受けたセバが望みを絶たれてから、きっとエィラはあるじの伴侶になるだろうと思っていた。

 焼けつくような痛みを覚えないといえば、嘘になる。

 けれどエィラから先に聞くよりも、ゲォルグさまの口から告げてくれたことに、安堵した。


「……おめでとう、ございます」

 笑えただろうか。


 口角をあげるのに、目からこぼれ落ちるのは、涙だ。

 あるじに見えないように、そっとぬぐう。


 見つめたゲォルグは、しずかに唇を開いた。

「……セバが、もし、もう俺に仕えるのが厭なら、俺の従僕を辞めても──」

「辞めません──!」

 叫んでいた。


 ──どんなに、心が裂けても。

 あなたと、エィラがしあわせになっても。

 ずっと、ずっと、あなたのお傍にいたい。

 あなたに、お仕えすること。

 それ以外は、望まないから。


 ──どうか、お傍に。


「……もっと、仕事ができるようになります。もっと、大きくなります。だからどうか……どうか……お傍に、おいて、ください……!」

 あふれる涙と、頭をさげる。

 ゲォルグが息をのむ音が、かすかに聞こえた。

「…………セバ…………」

 のびたゲォルグの腕が、セバを、抱きしめる。

 ゲォルグの指で青い魔石がきらめいて、わずかに止まったゲォルグは、何かを振りはらうように、セバを抱きしめる腕に力をこめた。


 あるじの香りに、つつまれる。

 あるじのぬくもりに、つつまれる。

 ……夢のようだ。


 ぼんやりするセバに、ささやきが、降る。


「…………ごめん……」

 ちいさな、ちいさな声だった。

 ゲォルグの涙が、セバの頬を、伝ってゆく。

 驚いて顔をあげたセバに、ゲォルグは苦し気に、唇をひらいた。


「…………俺は…………」

『セバの、ものなのに』

 唇のうごきだけで、聞こえた気がした。


 ……まさか。

 なんて、ひどい、幻想を。


 あさましくて、恥ずかしくて、ゲォルグの腕に包まれたセバは、熱くとろけてゆく胸でゲォルグを見あげる。


「俺は、あなたのものです、ゲォルグさま。
 死んでもずっと、あなただけのものです」

 まるで睦言のように、あまい声だった。


『あなたに踏み躙られるなら、よろこびです』

 言えないから、そっとゲォルグの背を抱きしめる。


「しあわせに、なってください、ゲォルグさま。世界でいちばん、しあわせに」

 祈りを、告げる。


「…………セバ…………」

 よろこばしいことの、はずなのに。
 しあわせの絶頂にいるはずなのに。

 ゲォルグは、どうして、こんなに苦しそうで。
 その頬を、涙が伝い落ちているのだろう。


 あさましくも期待してしまうから、泣かないで。
 エィラの隣で、笑ってください。



 どうか、誰よりも、しあわせに。

 最愛の、俺のあるじ。







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