【完結】ずっと、だいすきです

  *  ゆるゆ

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「ゲオちゃん、エィラと伴侶になるって──!」

 ものすごく出不精なノザが、真っ青な顔でジェディス邸に駆けつけてくれたのは、公に発表してすぐのことだった。

 自室に迎えたゲォルグは、目を伏せる。

「……俺の子をうんでくれるのは、ドディア帝国中を探しても、エィラだけだそうだ。……帝王陛下の勅令だ」

 ぶつかるように、抱きしめられた。
 もしゃもしゃなのに、やわらかなノザの髪が、頬をくすぐる。

「どうしても厭なら、逃げたっていいんだ。ほんとうに、愛する人と」

 ちいさな声が、ふるえてる。

「……ありがとう、ノザ。泣いてくれて」

 ノザの肩に顔をうずめたゲォルグの目にも、涙が滲んだ。

「……失礼な話だよな。……俺の子をうんでくれるのに、泣くだなんて」

「今だけは、ゆるしてもらわないと」

 魔道具をつくることだけに特化した、華奢なノザの腕が、ふるえるゲォルグの肩を抱きしめてくれる。

「10年外さない約束だったけど、外そうか」

 左手の薬指にふれるノザの手に、首を振った。

「外さないでくれ」

「……え……? でも、ゲオちゃん、伴侶に──」

「あの子といると、頭がぼーっとするんだ。……おそらく精神攻撃を受けてる」

「そんな──! 違法だよ、ゲオちゃん、即座に騎士団に──」

 目を剥くノザに、ゲォルグは首を振った。

「俺の子をうんでくれるのは、ジェディス家を繋いでくれるのは、帝国中でエィラだけなんだ」

 ノザは、ぎゅっと唇を噛む。

「……子をうんでくれたら、それだけでいいじゃないか。ゲオちゃんが伴侶になんか、ならなくたって──!」

「向こうが、そう望んでくれたら、よかったけれど。伴侶になりたいと望んでくれるのに、子どもをうませるだけうませて、金を渡してお終いなんて、最低だろう」

 ゲォルグの低い声に、ノザはぎゅっと唇を噛んだ。

「強い魔法耐性を持ってるゲオちゃんに精神攻撃が効いてるとしたら、おそらく僕の魔道具のせいだ。外せばきっと──」

 首を振る。

「役に立たないままでいたい。
 ……ひどいことを言っているとわかっている。でも……したくないんだ」


 ──心から愛するセバ以外と、身体を重ねたくない。

 精神攻撃や催淫剤でおかしくなって、間違いを犯したくない。


「外さないでくれ。一生」


 ノザが息をのむ音が、かすかに響いた。

「……ゲオちゃん……」


「……ひどいことをする俺でも……ノザは……友のままで……いてくれる、か……?」

 声は、ふるえた。


「当たり前だろ──!」

 ぶつかるように、抱きしめてくれる。

 不器用なノザの腕が、あったかい。

 ともだちのぬくもりを失くさなかったことに、涙が滲んだ。

 頭のなでてくれるノザの指が、ぎこちなくて、やさしくて、ちいさく笑う。

 ノザも、笑ってくれる。

 かけがえのない友を、抱きしめる。


「……ゲオちゃんを伴侶にと望むなら、おそらく使われているのは魅了の魔道具だろう。禁忌とされて、五百年前に封印されたはずだ。今は魔術式も何も残っていない。いくら僕が天才でも、無効化するのは至難だ」

 苦渋を滲ませるノザに、ゲォルグはうなずいた。

「ああ、たぶんそうだと思うが、あまり効いてない」

「……へ?」

「ノザの魔道具のおかげじゃないか? 守ってくれてる」

 瞬いたノザが、ふにゃりと笑う。

「……よかった。ゲオちゃんを守るように、がんばって作ったんだ。感情が制御されるのは、ほんとうに愛する人にだけ。それも起伏がゆるやかになるだけで、ちゃんと心は動くんだ」


「ありがとう、ノザ。いつも、俺を救ってくれて」

 抱きしめたら、赤い頬でノザが首を振る。

「僕のこと、気持ちわるいって言わないでくれるの、ゲオちゃんだけだよ」

「当たり前だろう──! ノザ、どれだけ可愛いと思ってるんだ!」

 ゲォルグの絶叫に、きょとんとしたノザが、吹きだして笑う。

「顔じゃなくて、頭がね。賢すぎて気持ちわるいんだって。僕とふつうに話してくれるのは、家族とゲオちゃんだけ。いつも僕こそが、ゲオちゃんに救われてるんだ」

 大きな藍の瞳に滲む涙を、さらうように、抱きしめる。

「生まれたときから死ぬまで、ずっとノザは、俺の友だ。
 俺が誰を愛そうと、誰と伴侶になろうと、変わらない。
 ……どれだけ、ノザが、俺を救ってくれるか──」

 嗚咽にふるえる背を、ノザの手が抱いてくれる。


「いっしょだ、ゲオちゃん。
 救って、救われて、支えて、支えられて。
 ひかえめに言って、最高の友だ!」

 ノザが、笑ってくれる。


 ……エィラと、伴侶になっても。

 ずっと、ずっとセバを愛していても。

 ──ノザは、変わらず、友でいてくれる。


「ありがとう、ノザ」

 抱きしめたら、抱きしめてくれる。


「おめでとうは、言わないでおくよ。
 ゲオちゃんのしあわせを、祈ってる」

 ふるえる手を握って、笑ってくれた。







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