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想い
「なぜ?」
氷のようなゲォルグの声に、セバはびくりと震える。
『子どもの名を変えろ』
従僕に言われるだなんて、子どもの名に意見されるなんて、めちゃくちゃだ。
わかってる。
それでもセバは、やめなかった。
「エィラさまが、お気になさるからです。セもゼも、ハもバもいけません。何の関係もない俺のせいで、ゲォルグさまの伴侶であられるエィラさまがお心を痛められるなど、あってはならぬことです!」
こつりとゲォルグが執務机を叩いた。
「メナも言ってきた。名を変えろと」
息をのむ。
メナはちゃんと進言してくれた。
いつもなら、ゲォルグは無視することはない。ちゃんと考え直してくれる。
「なのに、なぜ──!」
氷のような瞳で、ゲォルグは告げる。
「エィラが反対したら『ジゼ』名づけるのは、あきらめようと思った。だがエィラは了承してくれた」
「ゲォルグさまが仰ることに、異を唱えることが難しかったからです! 平民のエィラには引け目があって、ゲォルグさまに反抗できない、おわかりでしょう!」
あるじにこんなに叫んだのは、久しぶりだ。
あのときも、泣いてた。
「どうして、セバが泣く」
立ちあがったゲォルグが傍にきてくれるのに、セバはあわてて顔をぬぐった。
絞りだす声は、ふるえてる。
「……俺は、孤児です。母のぬくもりを、知りません。『ジゼ』という名をもらった、ただそれだけでエィラのジゼさまへの愛が減衰するなら、名を変えるべきだと思います」
『自分の子に、つらい思いをさせないで』
見あげるセバに、ゲォルグの指で青い光がきらめいた。
「……セバが泣くことではない」
のばされた指が、セバの涙のあとをなでる。
それだけで、頭の芯がしびれるような、あまい恍惚が降ってくる。
潤みゆく視界で、セバはゲォルグの氷の瞳を見つめる。
「ゲォルグさまを、心からお慕いしているエィラの気もちが、わかるからです」
ゲォルグが、息をのむ。
指できらめく青い光に、セバへとのばしかけた手が、握りこまれた。
「……『ジゼ』の名は、変えない」
しずかな声だった。
「ゲォルグさま……!」
セバの悲鳴を、セバの目を見つめて、ゲォルグは告げる。
「俺の想いをこめられたのは、名だけだから」
『ジゼ』
ゲォルグとエィラの子の名は、変わらなかった。
「ジゼ」
とろけるようにあまい声で赤子を呼んで、我が子を抱きあげるゲォルグは愛にあふれてゆき
『ジゼ』
その名を呼ばないエィラは、ぎこちなく我が子を抱きしめた。
「ゲォルグさま……!」
セバが懇願しようと、非難の目で見つめようと、ゲォルグは岩もびっくりするほど、かたくなに名を変えようとしなかった。
「巌のほうが簡単に砕けます!」
メナに特訓し続けてもらっているセバは12歳になり、一撃で岩を砕けるようになった。
「すごいすごい。がんばったね、セバ。12歳とは思えないよ。
これならゲォルグさまを、立派にお守りできる」
砕いた岩を前に、メナが拍手して褒めてくれるのに、セバは目を伏せる。
あなたのために、勉強を続け、鍛錬を続け、ジェディス家に、ジェディス領に貢献できるよう頑張っているのに。
エィラにとっても、ジゼにとっても、ゲォルグにとってさえ。
──自分は、厄災でしかないのかもしれない。
それでも、あなたの傍にいたいだなんて。
噛み締める唇が、ふるえてる。
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