縁結び代行人~神様の仕事を押し付けられました~

七星てんと

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縁結び代行人

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それからは、昼夜問わず他人の願いが頭の中を駆け巡るようになった。最初は赤の他人の幸せのために、なぜ自分の貴重な時間を費やさないといけないのかと意地を張り無視していた。しかし、
『赤谷さんとつきあえますように』『いい男と結婚したい』『モデルの○×似の娘と付き合いたい』『祐樹君が今の彼女と別れますように』『穂乃果さんの傍にずっと居たい』
耳を塞いでも絶えず響く声に、全く眠ることが出来ない。
それが何日も続くと当然、寝不足に陥った。

「うわ、どうしたんです?目の下真っ黒ですよ」

普段周囲の変化に気付かない超鈍感な男性社員にまで気づかれるくらい体調が悪くなり、

「あら翠さん。人に相手にされないからってとうとうパンダにでも求婚に行くの?まあ、あなたはパンダにも相手にされないでしょうけど」

更には守山にも馬鹿にされる始末。
眠れないという拷問と苛立ちからとうとう私は屈した。

「もう!やってやろうじゃない!百人でも二百人でも、願いを叶えてやればいいんでしょ!!」

こうして私は神の代わりに、縁結びをしていくことになった。
 

縁結びをすることに決めた私は、願いの声から比較的まともそうな願いの人を選ぶ。
そうすると、その人物とお勧めの相手のプロフィールが頭の中に浮かんでくる。顔写真も付いた詳細な履歴書のようなものだった。こんなものを見ず知らずの他人に見られるなんて人権侵害もいい所だ。本当なら赤の他人の秘密を覗き見るようなことはしたくないが、こっちもこの呪いから逃れるために必死に隅々まで確認した。

始めは失敗の連続だった。
最初のターゲットの二人は通勤に同じ電車を使っていた。私はどうにか接点を持たせられないかと考え、二人が同じ車両で近くに立っている時に、移動を装いわざと女の方にぶつかりに行った。転びそうになった所を男に助けさせようと考えたのだ。
しかし、私が気負いすぎたのか思いっきりぶつかってしまい、よろけた女は捻挫してしまう。怪我をさせる気はなかった私は全力で謝った。様子を見ていた男が病院の付き添いを買って出てくれたおかげで仲が深まったので結果オーライだったが冷や汗が出た。勿論、病院代は出した。

また、ある時は少女の片思い相手とは別の相手をお勧めとして告げられた。
しかもそれが、会えば喧嘩になる幼馴染ときた。そこまで関係がこじれているのに私にどうしろと頭を抱えた。それでもプロフィールをよく確認して見ると、少年の方は少女に気があるが素直になれないとある。ならばと、チンピラスタイルに変装し少女に絡んでいる所を少年に助けさせた。
二人の仲はうまくいったが、その際に思いっきり顔を殴られ二週間は腫れが引かなかった。会社では、私にDV彼氏がいると噂が立った。色んな意味で泣きたくなった。

こんな事を仕事以外の時間を全て使って行っていたが、当然時間が足りない。相手も自分の生活があるし私に合わせてくれる訳じゃないから当然だ。効率もすごく悪い。相手に怪我をさせるのも嫌だが、自分が怪我をするのももっと嫌だ。お金も時間も掛かりすぎる。私は早くこんな生活から解放されたいのだ。もっと、いい方法はないかと頭を悩ませていた時だった。

「もし、あなた何か深刻な悩みをお持ちのようだ。私に打ち明けてみませんか」

声を掛けて来たのは和装姿の男の易者だった。その姿を見た瞬間に閃いた。

「これだ!!」

私の大声に易者は大きく肩を揺らしたが、気にせずその手を取った。

「ありがとうございます!あなたのおかげで道が開けそうです!」

易者の手を握りしめ頭を下げると、これからの準備をするために私はその場を後にした。

こうして占い師グレースが誕生した。

ターゲットの退勤時や飲み会帰りに店を出し、通りかかった所に声を掛ける。最初は胡散臭そうにしていても、これまでの経歴や悩みをズバズバ当てていけば直ぐに前のめりになって聞いてくる。神からの横流し情報だ、間違いはない。信用を得た所で、もったい付けて運命の相手の特徴と出会う場所を告げる。これが面白いほどうまくいった。最初から意識した状態で出会うので恋に発展しやすい。これを他人に話せば詐欺だ、ただのプラシーボ効果じゃないのかと言われるかもしれない。だが、これは全て神のお導きだ。苦情は全て神に言って欲しい。

コツを掴んだ私は短期間でどんどんとカップルを成立させていった。
グレースはよく当たる占い師としてネットで有名になった。神出鬼没で出会えたら幸運、恋愛に関しては百発百中の神占い師とまで呼ばれている。神出鬼没なのはターゲットの駅、学校、会社近くに出しているから他の人から見れば行動パターンが全く読めないからだ。
まさか、占い師の方が占う相手を決めて接触しているなんて誰も思わないだろう。

占って占って、占いまくった私はようやく神との約束の百人目の縁を結び終える所まで漕ぎ付けたのだった。
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