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仕事を押し付けられる
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《そなたの願い、叶えてやらんこともない》
頭の中に突如声が響いた。威厳を感じるような低く落ち着いた男の声で、いつまでも聞いていたくなるような声音だった。
うっとりして聞きほれてしまったが、慌てて周囲を見回す。辺りには先程までいたはずの他の参拝客はおらず私一人だけだった。
(聞き間違いか……)
あれだけ必死に祈っていたので錯覚したようだ。それにしては、叶えてやらんこともないなんていい加減だ。
「そこは『おぉ、お前の熱意には感心したぞ。その願い叶えよう』でしょう」
私は大きく息を吐いた。きっと疲れているんだ。気分転換にどこかで美味しいものでも食べて帰ろう。あんな声が聞こえてくるくらいだ。もしかしたら帰りにいい出会いがあるかもしれない。そうと決まれば早く行こうと踵を返した時だった。
《待て、河上翠よ》
先程の声が再び話しかけてきた。今度は名指しだ。周りをもう一度見てみるがやっぱり誰もいない。立ち止まっているとまた声が聞こえてきた。
《我はこの神社に奉られておる霊掬の命である。今はそちの頭の中に直接話しかけておる。そちの願いは強く、我の元まで届いた。ここまで想いの乗った願いは久々だったので叶えてやろうと思ったのだが……》
半信半疑で聞いていたが本当なら願いの通りの人と結婚させてもらえると喜んだ。
だが、変な所で言葉を切った神に首を傾げた。
《あれ程の厚顔な願いをただで聞くのも割に合わん》
思わず眉が寄る。あんな謙虚な願いをしたのになんて言い様だろう。ここの神は随分けち臭いようだ。
そんな私の考えは筒抜けなのか、苛立ったようなうぉっほんという咳払いが響いて、私は慌てて神妙な顔をする。
《という訳でそちには試練を与えよう。それをクリア出来れば我が最高の伴侶との縁を結ぼう。その試練とは……》
重々しく区切られ、知らずごくりと唾を飲んでいた。
《この神社に参った他の参拝客の縁結びを百人達成せよ!じゃ》
私は思わず真顔になった。こちらの様子など気にすることなく急に陽気になった神は続ける。
《ルールは簡単だ。これからそちの頭の中には、この神社で縁結びを願った者達の声が流れる。その中から叶えたい人物を選べ。そうすれば、我がその人物のプロフィールとターゲットを教えてやろう。あとは、そちがどうにかして二人をくっつける。それを百人分するだけだ、どうだ簡単だろう!》
なんだそれは。
「嫌よ!それって、私にあんたの仕事押し付けてるだけよね!?」
私が断ると神は一瞬押し黙る。
《……そちに拒否権はない。あと誰の願いを叶えるか決めるまで、そちの頭の中には常に他者の願いの声が流れるから早めに選ぶんだぞ。では、次は百人達成した時にまた会おう》
イライラした低い声でそれだけ捲し立てるとこれで話は済んだとばかりに神は別れの言葉を告げた。
「ちょっと、待って!」
こちらから話しかけても神の声はそれっきり聞こえなくなった。
代わりに誰の物かも分からない男女の声が私の頭を巡り出した。どうやら、神の試練とやらが勝手に開始された様だった。
「ふざけんな!神!!」
私の大きな叫びが境内に響いて、空しく消えていった。
頭の中に突如声が響いた。威厳を感じるような低く落ち着いた男の声で、いつまでも聞いていたくなるような声音だった。
うっとりして聞きほれてしまったが、慌てて周囲を見回す。辺りには先程までいたはずの他の参拝客はおらず私一人だけだった。
(聞き間違いか……)
あれだけ必死に祈っていたので錯覚したようだ。それにしては、叶えてやらんこともないなんていい加減だ。
「そこは『おぉ、お前の熱意には感心したぞ。その願い叶えよう』でしょう」
私は大きく息を吐いた。きっと疲れているんだ。気分転換にどこかで美味しいものでも食べて帰ろう。あんな声が聞こえてくるくらいだ。もしかしたら帰りにいい出会いがあるかもしれない。そうと決まれば早く行こうと踵を返した時だった。
《待て、河上翠よ》
先程の声が再び話しかけてきた。今度は名指しだ。周りをもう一度見てみるがやっぱり誰もいない。立ち止まっているとまた声が聞こえてきた。
《我はこの神社に奉られておる霊掬の命である。今はそちの頭の中に直接話しかけておる。そちの願いは強く、我の元まで届いた。ここまで想いの乗った願いは久々だったので叶えてやろうと思ったのだが……》
半信半疑で聞いていたが本当なら願いの通りの人と結婚させてもらえると喜んだ。
だが、変な所で言葉を切った神に首を傾げた。
《あれ程の厚顔な願いをただで聞くのも割に合わん》
思わず眉が寄る。あんな謙虚な願いをしたのになんて言い様だろう。ここの神は随分けち臭いようだ。
そんな私の考えは筒抜けなのか、苛立ったようなうぉっほんという咳払いが響いて、私は慌てて神妙な顔をする。
《という訳でそちには試練を与えよう。それをクリア出来れば我が最高の伴侶との縁を結ぼう。その試練とは……》
重々しく区切られ、知らずごくりと唾を飲んでいた。
《この神社に参った他の参拝客の縁結びを百人達成せよ!じゃ》
私は思わず真顔になった。こちらの様子など気にすることなく急に陽気になった神は続ける。
《ルールは簡単だ。これからそちの頭の中には、この神社で縁結びを願った者達の声が流れる。その中から叶えたい人物を選べ。そうすれば、我がその人物のプロフィールとターゲットを教えてやろう。あとは、そちがどうにかして二人をくっつける。それを百人分するだけだ、どうだ簡単だろう!》
なんだそれは。
「嫌よ!それって、私にあんたの仕事押し付けてるだけよね!?」
私が断ると神は一瞬押し黙る。
《……そちに拒否権はない。あと誰の願いを叶えるか決めるまで、そちの頭の中には常に他者の願いの声が流れるから早めに選ぶんだぞ。では、次は百人達成した時にまた会おう》
イライラした低い声でそれだけ捲し立てるとこれで話は済んだとばかりに神は別れの言葉を告げた。
「ちょっと、待って!」
こちらから話しかけても神の声はそれっきり聞こえなくなった。
代わりに誰の物かも分からない男女の声が私の頭を巡り出した。どうやら、神の試練とやらが勝手に開始された様だった。
「ふざけんな!神!!」
私の大きな叫びが境内に響いて、空しく消えていった。
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