君を愛するのは俺だけで十分です。

屑籠

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一章 俊樹×篤志

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 篤志がこの部屋で暮らしだしてから、しばらくがたった。まだ、俊樹とは番になっていない。
 けれど、俊樹に関連する人には数名あった。
 その内の一人が、食材を届けてくれる伊藤という人だった。
 伊藤は、俊樹の秘書のような仕事をして居る人で、番もちのアルファだという。真木の寄子で、遠い親戚。
「篤志さん、何か不足などはございませんか?」
 毎回、篤志にそう聞いてくれる。篤志は最初こそ、萎縮してしまっていたが、今では気軽に買い物を頼める間柄だ。
「いや、特には。それより今日は俊樹さん、仕事部屋に籠ったままだけど」
 秘書というのもあながち間違っていない伊藤は、俊樹の仕事のサポートもして居るようだ。食材を届けにきた後、俊樹と伊藤は色々と打ち合わせをして居るのを見たことがある。
 聞いちゃいけないと思って、近くにはいなかったから、何を話していたのかは知らないけれど。
「そうなんですね。少し、進捗を確認してきます」
 伊藤は、そう言うと篤志には踏み入れない領域へとズカズカ入っていく。それが羨ましくもあり、どこか心が痛かった。
 ふっと、視線をそらして、今回買ってきてもらったものなどを整理することにした。
 あ、そう言えばそろそろ発情期だとカレンダーを見て思う。次の食材はお願いしてしまったけれど、簡単に食べれるようなものもお願いしておいた方がいいだろう。
 打ち合わせが終わったら、声をかけることにする。伊藤は、追い出されてしまったのか、案外早くに作業部屋から出てきた。
「あの、伊藤さん」
「はい? 何か、思い出した事でもございましたか?」
「その……来週は、多分発情期があるので」
 少し驚いた顔をした伊藤は、なるほど、とにっこりと笑う。
「だから、今回のお仕事は焦っていらっしゃるのですね」
 篤志は何の事だと首を傾げる。
 わからなくても、伊藤が気にする事はなく、次回は食べやすい物を買って置いてくれるという。多分、篤志は対応が出来ないので、ありがたいと言えばありがたいが、発情期という期間が人に知られるのは少し、恥ずかしいと感じてしまう。
 伊藤は、そんな篤志の心情を知ってかしらずか、篤志の様子に何も言うこともなく、いつものように、それではまた、と言って玄関を出て行った。
 はぁ、と息を吐き、抑制剤が無いことに、改めて気が付いた。アルファである俊樹がいて、俊樹に引き取られているのだから、必要ない事はわかっているが、それでも有ると無いのでは、心の持ち用が違う。
 それから三日後、俊樹は部屋から出てきて、篤志に飛びついた。
「はぁ~、終わった~! 長かったぁ!」
「お、お疲れ……その、俊樹さん。俺、もう少しで発情期で」
 うん? と俊樹は、篤志が言いたいことがわからず、とりあえず、知ってるよ? と言う。
「あの、だから、暫く部屋に籠ることになって」
「うん、そうだね?」
「俺、抑制剤無くて」
「必要ないよね? 俺いるし」
「だ、だって、そうしたら、俺を抱くことになる、よな?」
 俺を抱けるのか?と不安そうな顔をして、俯く篤志に、この子は一体、何をそんなに悩んでいるんだろう? と俊樹はおもう。
「え、当たり前でしょ? と言うか、何のために篤志を選んで連れてきたと思ってるの?」
 気に入らなければ、保護施設から連れ出す事などない。あの施設を便利に利用しようとしたアルファが居たが、二度と敷居を跨ぐことができなかったという。運命じゃない、と連れ出したオメガをやり捨てなんてしたら、アルファには制裁が加えられる。それは、アルファの間では公然の事実で有るのに。
「お、俺が、ちょうど良いのかと、思って」
 縁談よけに、篤志は自分みたいな容姿だとちょうど良いのかと思っていたとのこと。篤志のようにオメガらしくない容姿が好みなのであれば、タイプじゃないのかとオメガの求婚も減るのだろうと。
 なるほど、と俊樹は自分の実家が有名なのも良し悪しだとそれを聞いて思った。
「縁談避けなんて理由であの場所は利用しないよ~。気に入らなかったら、篤志だって連れて来てないもん」
 篤志だからだよ、と抱きしめて耳元で囁き、耳殻にキスをする。
 その途端、ぶわっと広がるフェロモンの波。
 真っ赤に染まる篤志の顔。
 あ、発情期が始まった、と直感的に思った。
 「いい匂い.......移動しようか」
 すんっ、と俊樹は篤志の首筋の匂いを吸い込む。
 クラクラとしだす意識、体がふらつき、俊樹に抱えられた。
 「はぁ、仕事間に合ってよかった」
 これでゆっくり付き合える、とニコニコ笑っている。鼻歌まじりに俊樹は篤志の体を運び、ベッドに横たえる。
「んっ……」
 鼻から抜けていく様な声。
 布が擦れるのも辛くなってくると言った感じだ。そんな篤志の様子を気にも止めずに、俊樹は楽しそうに服を脱がしていく。
「み、見ない、で……」
 真っ赤に染まった顔で、生まれたままの姿になった篤志は、恥ずかしそうに体を丸めて俊樹を見る。
 そんな篤志の様子に、ゴクリと喉を鳴らす。
「篤志はかわいいね」
 顔を両手で挟み込み、俊樹は篤志へと近づいた。
「んっ、ぁンンッ」
 口の中も気持ちがいいのか、とろとろと篤志の顔が蕩けてくる。力の抜けた篤志は、その体を俊樹が広げても、力があまり出ないようだ。
「可愛い色してるよ」
 音を立てて吸われた乳首。ぁ、ぁ、と小さく声が漏れる。
「ぁんっ!」
 歯が当たると、少しの痛みと共に甘い疼きが全身を駆け巡る。
 たっぷり時間をかけて、左、そして、痛いと訴えれば、右を刺激される。
「んっ、ぁ、ぁ、ね、もっ、もうっ」
 体を捩り、篤志は俊樹へとしがみつく。
 体の奥が疼いて仕方がない。受け入れる性だからか、ジクジクと濡れている気がする。
 終始楽しそうな俊樹は、そっと手を後ろへと伸ばした。
「すっごく濡れてる。よかった、感じてくれてて」
 そのセリフに、え?とぼんやりした意識の中、俊樹を見上げる。
「なに?」
「ん~? 何でもないよ。ただ、篤志がすっごく俺を求めてくれてるんだなって思ったら、可愛くて、可愛くて仕方がないなぁって思ってね」
 そっと、奥の入り口を撫でていた指が一本、篤志の中に入ってくる。
「んぅっ……」
 きゅうっと指を締め付けるその圧に、ますます俊樹は紅潮していく。オメガの保護施設内では、オメガ同士で発情期を過ごすことも多いと聞く。だが、この様子であれば、篤志が誰かに抱かれて乗り越えていた、という事実はないだろう。
 中をゆっくり動かすたびに、篤志は腰を振り、前からはどろどろと先走りが溢れていた。
「ア、アはっ、ぅあっ、アッ!」
「発情期ってすごいなぁ……」
 髪を掻き上げ、笑う俊樹の姿を見てしまった篤志は、ぶわりと感情が昂ってしまい、フェロモンが濃さを増す。やばぁ、と言う俊樹の、ジャスミンのようなフェロモンの匂いが負けずと広がっていく。
 お互いのフェロモンで相互作用の様に高められていく興奮。ただ、篤志は俊樹のフェロモンに何故か戸惑っていた。
「な、なんで、フェロモン…おれ、だってっ!」
「なーんで、篤志はそんなに自分に自信が無いんだろうね? 俺の可愛い番ちゃん。うーん、死の後の言わずに抱いちゃえばわかるよね」
 クズっぽい事を言ってる自覚は、俊樹にはあるが、篤志が自分を信じていない以上、どうしようもないだろう。信じていないのだが、俊樹を好きではいるのだろう。出なければ、フェロモンが追加で溢れ出たりなどしない。
 フェロモンというのは、感情に左右されやすいものだからだ。もちろん、発情期には逆らえないけれど。
「ねぇ、篤志。これ見て」
 上着を脱ぎ、下着までまるでストリップのように脱いだ俊樹は、その中心で硬くなっているモノを、篤志に見せつける。
「これ、どうして硬くなってるか、わかる?」
 オメガの発情期のフェロモンで、アルファなら誰でもこうなるのではないのか? と頭の片隅でそんな思考が横切っていく。
 それよりも何よりも、アルファの陰茎など初めて見る篤志は、あっ、あっ、と顔を真っ赤に染めたまま青く染め、無理、無理っ! と首を横に振る。
「おっき、むり、はいら、ない……っ」
 ぼろぼろと涙を流し始める篤志に、俊樹は笑って大丈夫大丈夫とその涙を拭った。
「オメガの体って不思議でね、どんなに体格が小さいオメガでも、デカいアルファのコレを受け入れられるんだから、大丈夫」
 俊樹のその言葉が本当かどうかは知らないが、少し心が痛む。
 だが、一瞬でそれを忘れるぐらい大きな波が襲ってくる。
 グチュっ、と音を立て、それが後孔へと押し付けられる。ひっ、と声を上げながら、それでもそこから目を離すことができなかった。
「ゆ、ゆっくり、おねが、ゆっくりぃ……」
「うん。まぁ、一息に入れる程、思考飛んでないし、お馬鹿じゃないから安心して」
 まだ、頭は馬鹿になってない、と俊樹は笑う。
 篤志の狭く、まだ誰も踏み入れた事のないそこへゆっくりと進む。最初は苦しそうにしていた篤志だが、ある一点を通り過ぎると、俊樹に待って、と言うようにしがみついた。
「ひゃぅっ!あ、アゥ……っ、ヒッ、ヒッ、あ、あぁっ!」
「あー、前立腺に当たっちゃったか。まぁ、苦しいよりは気持ちいいの方がマシだよね?」
 あーでも、と垂れてきた髪を再び鬱陶しそうに俊樹はかきあげる。
「ここに止まってても苦しいだけかな?」
 だから、動くね、と俊樹は再びゆっくりと動き出した。
「ら、らめっ、いま、だって、やぁっ‼︎」
「大丈夫大丈夫、怖くない怖くない。篤志が感じてるそれは全部、気持ちいいって事だから、問題ないよ」
 ね? と俊樹は少し無遠慮に腰を進めていく。まだ? まだ入るの? と篤志は不安そうに俊樹を見上げる。
 ゆっくりと、時間をかけて、だがトンっ、と奥の壁が突かれたのを篤志は感じて、キュウっと中が締まるのを感じた。
 うぐっ、と俊樹が苦しげな顔をして堪えている。
「はぁ……、此処が子宮との境目だね」
 男オメガの子宮は、結腸の手前で分かれており、そこは発情期にならないと開かない。
 開かなくても妊娠する場合はするのだが、確率の問題だ。発情期の妊娠が百パーセントと言われているのはその為だ。
「まだ、開ききってないね」
 閉じているそこへ挨拶をするように、トントンっ、と俊樹が突く。
「ひぅ、あっ、アッ!」
 そこの刺激が強すぎるのか、いやいや、と篤志は首を振り、逃げ出そうともがく。
 ごめんごめん、と俊樹は少し引き抜き、緩急をつけて動き出す。時折、奥を突けば、強すぎる刺激に、声が一段と高くなる。
 ゆっくりと、ではあるが確実に子宮が降りてきている。その事を感じ取り、俊樹はふふっ、と笑っていた。
 悪そうなその笑みに、嫌な予感がするのと同時に、酷くときめいてしまっている自分がいた。
「あ? アァ、んぁアア、あぁあああぁーー~っっっ‼︎」
 次の瞬間、引き抜かれ、うつ伏せにされた篤志。再び当てがわれたそれが後ろから勢い良く推し入ってきて、中の全てを刺激し、そして、ぐポッ、と嫌な音を立てて、入ってはいけない場所に入った、という事実だけを伝えてきた。
 篤志は、目を見開き、頭がそれを受け止めたところで、狂ってしまいそうなほどの快楽に暴れ出しそうになり、シーツを破く勢いで掴んだ。
 ぎゅうっと掴んだその手の上から俊樹の手が重なり、そして押さえつけるようにして頭を押さえられ、うなじに牙を当てられる。
「いただきます」
 礼儀正しいのか何なのか、そう囁かれたあとすぐに衝撃はやってくる。
 ぶちぶちと肌が引き裂かれる音、体の中のどこかで、カチリ、と何かがハマる音。
 声もなく叫ぶ篤志の中に、う、ぐぅと声を出しながら、俊樹の熱い飛沫が中に放たれた。
 アルファの射精は長く、ベータならば気を失うほど中に出されるというが、流石は発情期。お腹がいっぱいだとは思うものの、気を失う事はできなくて、あうあう、とぼんやり俊樹を見上げれば、俊樹は獣のような目で篤志を見下ろしていた。
「番、やばぁ……ふ、ふふっ、なんかテンション上がってきちゃった」
 次は向かい合わせで最後まで、とその後も何度も体位を入れ替えながら何度も何度も、それこそ、篤志が気を失うまで、交わりは終わらなかった。
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