サヨナラを言えるまで愛されていて

屑籠

文字の大きさ
4 / 6

優しさなんかじゃなくて

しおりを挟む
 それから森下とは何度か会って、話をして、何度か、寝た。

 それでも、心に出来た隙間は埋まらない。

 ただ、森下の側にいるのはとても楽だった。自分を愛していない。元教え子と言う、それだけの関係が、とても楽だ。

 だけど、分からない。



「ズルいなぁ、俺はダメなのに、森下はいいの?」



 就職が決まり、帰ってきた地元で飲んでいた日野は、隣に座った人の気配にも気づけず、目を見開いて隣を見た。



「こうや、さん……」

「はろー?俺だよ?」



 あはは、と笑うこの人は神出鬼没だと本気で思う。

 それに、森下に抱かれたことさえ、把握されているのは少し怖いぐらいだ。

 新手のストーカーではないか。



「ずっとねぇ、待っててあげようと思ったんだけどねぇー?」



 そういつも通りに笑う光夜がうすら寒い。

 どうしてそこまで執着されているのか、さっぱり分からないけれど、これ以上森下と関わるのも危険だろうと判断できる。



「そう、ですか……」

「うん。でもダメだねぇ、ダメダメだ」



 何が、とは聞かない。

 怖い、と素直に思うのに逃げようと気持ちは動かない。

 酒が入っているからか、それとも光夜が嫌いではないからか。



「いつまで逃げたって、何処まで行ったって、君は俺のものだよ?」

「……っ」



 そっと伸びてきた手。その手から逃れることができない。



「どう、して……」

「どうしてだろうねぇ?俺がね、声をかけた子はねみんな拒まなかったんだ。君は声をかける前に俺を拒絶して、その内に入れてもくれなかった」



 それがさも嬉しかったと言わんばかりに笑う。

 日野はそんなことで?と目を見開く。



「その時から、ずっと手に入れようと思ってたんだ。氷純の邪魔が入ったり、それがなくなったと思えば、君はここから居なくなっちゃうし。帰ってきたと思ったら、森下になんて捕まってるしねぇ……」



 ギラギラしているその目は怒っているようにも見える。

 いつも笑っている光夜は、いつでもその目の奥が笑っていない。



「だっ、て、光夜さんは、結婚してる……」

「あは、今更それ言っちゃう?氷純だって、俺と寝てたのに?」



 うぐっ、と言葉に詰まる。

 そうだ、そうだったとため息を吐いた。



「俺の奥さんはねぇ、子供は産んでくれるし、パーティとかにも一緒に参加してくれるけど、俺の事一切愛してないからねぇ」



 アッハッハッハ!と愉快そうに光夜は笑う。



「俺もねぇ、あの人のことは尊重するけど、愛してはいないんだぁ」

「じゃあ、何で……」

「お家の事情ってやつね~。結婚して俺の子供は産んでくれるし、お相手も俺の子供を産んでくれたんだぁ」

「……お相手?」

「そ、奥さんの恋人さーん。可愛い人だよ~?子供たちも第二の母として慕ってるしねぇ」



 愛人が、堂々と家の中にいる、という空間に顔を顰めた。

 だが、それを光夜は気にしていないし、むしろ子供まで産んでもらっているという。

 と言うか、母親?と首を傾げたところで、なるほど。と納得した。



「俺はどっちでもいいんだけど、人格破綻者とか言われちゃってるね、奥さんに」



 何となくわかる気がする。

 何処か、光夜はおかしい気がして。

 でも、それが普通にも思えてくるのだろうか?



「だからね、気にしなくていいよ?」

「だ、けど……」



 じゃあ、と笑い、手を引かれた。



「本当は心も欲しいけど、まずは体だけ俺のものにならない?」

「えっ?い、いやいやいやいや、おっ、俺にだって選ぶ権利ぐらいあるじゃん?」



 光夜が嫌いなわけじゃない。けれど、どうしても自分の体を預ける気にはなれない。

 怖い、と思う。

 光夜の考えていることが、理解できない。

 その目が、思考が、理解できなくて怖い。



「酷いなぁ、どうして俺はダメなんだろうね?」

「だ、って……」



 でもね、と笑う。

 光夜が更に恐ろしくて。

 動けなくて、笑う光夜に絡め取られる。

 逃げられなくなりそうで、慌てて逃げようとしてももう遅い。

 気が付けば、ベッドの上。

 丁寧に体を滑っていった指、いつの間にか入っていた光夜のもの。

 ぼろぼろと涙は零れながら、口からは意味のない言葉たちがあふれ漏れていく。



「んー、やっぱり可愛いね、君は」

「あっ……、や、なっ、なに?んんっ!」

「んーん、なんでも。ほら、ここ好きでしょ?」



 ぐりっ、と光夜のモノで抉られるそこは、日野の弱い場所で、そこを触られるたびにひどい声を出して鳴いている。

 うつ伏せの体を後ろから貫く光夜は楽しそうに腰を振っている。



「俺のものに、早くなってね」



 薄れていく記憶の中、そっとキスをする光夜を初めて優しいと思ったのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

父のチンポが気になって仕方ない息子の夜這い!

ミクリ21
BL
父に夜這いする息子の話。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...