アルファだけど愛されたい

屑籠

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6 *閑話*

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「お帰り、のり。遅かったね」
「あぁ、うん。私も、それなりに付き合いあるからね……それより、ゆきは?」

 いつもよりぼおっとした顔の紺野は、ゆきを探しているのか。
 まったく、と春はいつもの眠そうな顔で、息を吐く。

「ゆきは居ないよ」
「……どこに?」

 鋭い視線が春を射抜く。
 が、春は関係ないというようにどこ吹く風だ。
 この二人は、と心の中で思っていても顔には出ない。

「どうして、ノリはそれを知りたいの?」
「どうしてって……とにかく、ゆきはどこ?」

 少し苦い顔をした紺野を春は睨むように見据える。

「のりは、どうしてゆきだけを縛ろうとするの?」

 慈善事業のように、色々な施設を展開し、保護までしている紺野。
 実は、春もまた保護されたオメガであり、薬の治験にも協力している。抑制剤や、他の新しく出来た風邪薬などの薬も。
 ひゅっ、と紺野が目を見開き息をのむ。
 紺野は、保護したオメガや外で触れ合うオメガ全てに紳士的な行動をとっている。それが、義務だとでもいうように。
 来るもの拒まず、去る者追わず。そんな紺野だったはずなのに。
 一緒に暮らしているゆきには、それと知られないように束縛が科されている。
 そう、ほぼ一緒に行動していたからこそ分かった。
 春には、そんな仕草を見せないのに、ゆきの行動は常に監視されているよう。
 必ず、この部屋に来ない時も、今日はどうしたの?何をしていたの?と電話やメールが来ていたり。

「ねぇ、のり。自覚がないなら、いい機会だから自覚して。じゃなきゃ、ゆきを解放して」
「……ゆきを、解放?何を言っているの……春には、わからないよ」
「わからないよ。僕は、のりじゃないし、アルファじゃない。オメガで、僕の考えはゆきと似てる」
「ゆきが、私から解放されたがっていると?そんなこと……許せるはずがないでしょ?」

 ほの暗く、紺野の瞳から光が失われた。
 認めたくなかった執着を、自分自身へと見せつけられて。
 ゆきのことが心配になったが、それでも必要なことだと誤魔化さず、春は見つめていた。

「ゆきはね、私のものなんだ。オメガだから?関係ない、彼は私だけのもの。あぁ……余計なことをしてくれたね、春……」

 くす、くすくす、と紺野は何が可笑しいのか笑う。

「私の一族は、とても嫉妬深くて……番を監禁することなんて当たり前なんだ」
「……大抵のアルファはそうだって聞くけど」

 そっと、春の視線は伏せられる。春の両親もそうだったからだ。
 いや、それ以上にひどい状況だとも言っていいほどに。

「それが、私は嫌でね。自分だけは、と思っていたのに……だから、こんなにも優しい鳥かごを用意したのに……」
「優しい鳥かご、ね……その鳥かごの中に入っていたいと思わせる努力はしたの?思いは伝えたの?」

 何も、何もしていないくせに、見えない鎖を付けて、それで満足して、自分は偽善者を気取って。
 本当に、それでいいの?

 紺野を見据え、春が首を傾げる。
 ちっ、とらしくなく舌打ちをした紺野に、今度は春が笑った。

「そうして、少しは本性出したらどう?その方が、ゆきも喜ぶんじゃない?」
「……ゆきに嫌われたらどうするんだ……それより、ゆきの居場所だけど」
「ゆきは、りっくんの場所にいるよ。彼の近くほど、今安全な場所はないからね」
「彼はアルファだろう」
「りっくんの運命がゆきじゃないと分かっているのに、りっくんが反応するわけない。逆はりっくんの体が拒絶してる。それに、アルファの抑制剤を服用しているとはいえ、りっくんのフェロモンは特別なの、わかってるでしょ?」
「……それでも、迎えに行ってくるよ」

 そう、と春は彼を見送る。きっと、彼らはこの部屋には帰ってこないだろうけど……。

「それどころか、ゆきにこの先会えるかどうかも分からないな……まぁ、なるようになるよね」

 話したら疲れた、と春は適当に服を脱ぎ捨てていつものベッドの上へ何も身に着けない状態で横になった。
 この部屋は、空調が効いているから風を引くこともないだろう。
 明日から、この広い部屋で一人……そう考えると少し憂鬱になるけれど。
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