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とある生徒、それから紫という男。
しおりを挟む演劇発表会で起きた騒動。廃止を叫んだ男達は黒蒼と乱銀によってぎったぎったにされ、御用となった。
男達をぎったぎったにした張本人達は特にお咎めなし――でもなく、多少お怒りの言葉を頂戴した。しかし、生徒達の中では注目度が急上昇しているとかなんとか。
そして、これはとある生徒の視点である。
僕等は、たった二人の男女の立ち振る舞いに目を奪われた。
一人は、独りを好む男。大体の時間をぼんやりして過ごしていると知られていた。けれど男女共に好評で、それには理由があった。
男――黒蒼は取っ付き難くはあるけど受け答えなどは普通である事と、偶に見せる笑みに心射抜かれる者が多かった。もう一人は、後輩の乱銀。ちょっと男口調だけど、偶に女らしい口調を出す時があるから、憎まれにくい子じゃないかな? 物事をはっきり口にするから、多くの先輩方――特に女先輩から気に入られているようだ。
黒蒼のクラスメイトからはアイドル的存在。そう言う僕が、黒蒼の級友さ! 乱銀ちゃん、ホント可愛いよ‼
最近この二人がペアになって行動している事は既に、周囲に認知されている。二人の関係が気になるところだけど、今のところ彼等に何処で出会ったのか尋ねた勇者は居ない。
「すげぇ」
男達をたった二人で制圧していくのを見ていた一人が呟く。その姿はまるで――、舞を舞うかのようだった。それも、作り物の演劇の道具で!
「敵でありながら共に共闘できたこと……悪くはなかった」
「ふ、それは私もだ。……我等の戦い、またの機会に」
「あぁ。時が合えば、また」
二人は剣を仕舞い、言葉を交わす。一応、ここで終幕したらしい。
男達は我に返った裏方仕事を担当していた生徒の持って来たガムテープやナイロンロープでぐるぐる巻き――芋虫状態にされ、そのまま警察に引き渡されて行った。
「……大丈夫か。何処か痛む所は?」
「だ、大丈夫……」
「アイツ等が突き飛ばしてくれたから、それ以外は、何も」
「そう、良かった」
人質にされていた女子生徒を気遣う彼等。助けようと動いた彼等から、紅と蒼のオーラが見えたような気がした。多分、僕の気の所為だったかもしれないけど。
ただ、これだけは言える。
会場に居た全員が、彼等の演技に魅せられたということに‼
※
演劇に力を入れる学校。年に数回、発表会を行うその学校には、裏の支配者が居た。
その名も――
「俺は紫。高校二年生で、演劇部部長!」
彼は基本、その思考がとある方向にぶっ飛んでいる。それに加え、お気楽精神の持ち主でもあった。
「黒蒼さんよぉ、やっぱ入れって。演劇部」
「……断る。何度も言ってるだろ、しつこいぞお前」
うんざりした表情の黒蒼。その隣にはやはり、乱銀が居た。
「乱銀ちゃんはどーぉ? 二人ともすっげぇ息ぴったりだったなー」
「咄嗟だったとはいえ、俺はもうごめんだ」
「あの後、色々とお怒りの言葉貰ったから」
黒蒼が駄目ならば乱銀を――紫の下心がありありと読み取れ、黒蒼は深いため息を吐き出した。
あー……と、紫は苦笑した。黒蒼と乱銀の言うそれは、演劇発表会での出来事だ。
「あれ、ここのOBだったって話だったな」
「告白してフラれたからって発表会に乗り込んで廃止宣言を強要するって、なぁ?」
「昔の話を引きずり過ぎね」
「そうならないように、俺達も気を付けんとな!」
そう紫が締めくくって、黒蒼のクラスメイトは各々反応を返した。
「だから、学年問わず全員の交流があれば、少しでも周りの事が知れるんじゃねぇ⁉」
唐突に思いついたと言わんばかりの紫に、黒蒼は肩を竦めながらも同意した。別に、交流するのは絶対に嫌だというわけではない。ただ少し、抵抗があるだけでそれ以外は何ともないのだ。
「ちなみにあの剣どうだった?」
「どうって……」
何が? と黒蒼が聞き返す前に乱銀が口を開いた。
「木で精巧に作られててちょっと重かったけど、持ちやすかったわ」
配色もリアルに仕上げられていて、感動が強かったのを覚えている。そのままの感情を告げれば、紫率いる演劇部員は胸を張った。キャストに似合った衣装を――と、言っていただけ自信があったようだ。
「だろだろ!」
「あれ、いつも人に合わせて作ってるからな!」
「材料は元々用意してあった物だし、図工係が張り切って乱銀ちゃん達の作ったのよ!」
わらわらとクラスメイトが集まり口々に話す。皆一様に満足げな表情をしている。
「それにしても黒蒼。お前、よくあれが振り回せたな? あれ、俺が持つだけでも苦労したのに」
俺以外が一人で持ち上げようとしても逆に剣の方に圧し潰されてたんだけどな! なんて、笑って知らされた黒蒼は――
「ッなんてもんを寄こしてんだ、紫ぃッ⁉」
衝撃の事実!
渡されたあの大剣はかなりの重さであった事を、黒蒼は今、初めて知った。
確かに少し重いな、と思っていたが男一人でも持ち上げるのに苦労したと聞いて、黒蒼は思わず叫び声を上げた。
「はっはっはっ! 黒蒼、お前……自分が馬鹿力だってことに気付いてなかったのかッ?」
げらげら笑い転げる紫。
苛付いたように頭の、首の裏を黒蒼は掻く。紫の態度に余程と言っていいほど、腹を立てているのが分かる。
「まぁ、それを差し引いても、だ。黒蒼、乱銀ちゃん、演劇部に入れ!」
紫が裏の支配者として知られている理由は、誰構わず演劇に有利だと思った人物を勧誘するからだ。相手が断っても、紫という男は簡単には諦めない。余程の理由がない限り、諦めない。
黒蒼は、そんな紫の被害者とも言える。だから――
「断ると、何度言えば分かるんだ、むらさきぃぃいいいいいい‼」
ぶちりと、忍耐の緒が切れた。それはもう、簡単に。これまでずっと耐え続けて来たこともあって、あえなく理性を失った。
「何度でも言うぞ、お前達は良い人材だからな!」
「待ぁてぇぇぇぇええええええええ‼」
笑い転げる紫を殴り飛ばそうと近寄らんとする黒蒼を止めに掛かるクラスメイト達。その拘束すら振りほどいて、鬼ごっこが開始された。
「乱ちゃーん、クッキー食べる?」
「いただきます」
「乱ちゃーん、髪の毛弄らせてー」
「どうぞ」
乱銀は黒蒼のクラスメイトの女子に囲まれ女子会もどきの中に居た。
「乱ちゃんはもうやらない? 演劇」
髪を弄る女子に問われ、乱銀は一瞬言葉に詰まってから――応えた。
「黒蒼と一緒なら、また……やっても良いかな」
ふわりとはにかんでそう口にする。その想いは、本心からだった。
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