CRYSTHL―クリスタル―

気紛屋 月影

文字の大きさ
6 / 19

時空の歪みと、夢現。

しおりを挟む
 
 じわり、じわりと小さく空間が歪む。次第にそれは大きいものとなり、歪みの向こう側が見える。
 それは――”転”。
 黒蒼達の生きる世界。

 「もう暫くだ。もう暫くした時、あちらの世界と完全に道が繋がる」

 着々と”転”への侵略の準備が整っていている中で、”絶”の権力者は現場で言う権力者の男――否、黒炎の爆龍ばくりゅうは歪みの先を見据えながら、仄暗い笑みを浮かべた。
 「流星の石メテオクリスタルの下す予言など、俺は興味は無い。……ただ、戦えれば理由が何であれ、どうでもいい」
 黒炎の爆龍と呼ばれる男は、多くの血が流れるのを最も好む。
 見たこともない世界――”転”の存在に、密かに胸を躍らせていた。それも、戦いを知らぬ人間をどう、血を流させるかを思い描いて。ただ、ただただ薄気味悪い笑みを浮かべていた。

 同時刻――”転”にて。

 「空が……」
 蒼く澄み渡る夜空が広がる”転”の世界。
 夜道を行きかう人々は空が歪み、その先に見える異質な風景を目撃する。
 「ねぇ、みてー、あれ!」
 小さな子供が無邪気に空を指さし叫ぶ。その間にも、空間の歪みの大きさは広がって行く。
 その、歪む空の先――”絶”の風景は人々のざわめきを広めていく要因の一つとなり、恐怖に陥れる。

 「あれは……”絶”ッ⁉ ……やはり、クリスタルの予言ッ」

 一人でそれを目撃した乱銀は声を荒げる。黒蒼も誰も居ないので、声を荒げようと荒げまいと、気にする者は今、誰も居ない。
 人気の無い建物の屋上の上で、彼女は一人唇を噛み締めた。
 「対策を……」
 対策を、考えなければ――
 おそらく”絶”は、”転”に戦争を仕掛けに来るつもりだ。それは感であったが、乱銀は元々”絶”生まれ、そして死んだ。それなりの地獄を見て来たと自負できる。
 ”絶”が侵略して来るとなれば、多くの血が流れることは考えずとも分かった。
 「武器さえ手に入ればッ‼」
 ”絶”では金貨等を払えば手に入れることが出来た物。”転”ではそれが出来ない。法によって縛られている所為だ。
 「けど、けどッ、守る。守ってみせるんだ、私は‼」
 刀剣が手に入らずとも、魔法が使用できると知った。
 それで立ち向かうしかない。
 敗北の文字が目に浮かぶが、やるしかない。やらねばならない。
 争いとは無縁の”転”を。――黒蒼の生きるこの世界を、守る。
 
 「来るなら来い、流星の石の予言に縛られし愚かな”絶”の住民達よ! 私がその刃を……叩き折ってやる‼」

 ”絶”で生きていた頃、乱銀は殺し殺されるといった世界で、生きていた。流星の石の予言によって、生まれ育った村を焼かれた。多くの血が流れ、村人のほとんどが死に絶えた。その中で生き残った乱銀は傭兵として生きることで、その残酷な世界で生き、そして死んだ。

 ”絶”が作り出した歪みの先に向かって、乱銀は吠えた。決意は固まった。
 近々、”転”にやってくる完全武装集団。
 その一団と対抗する決意を、彼女は決めたのであった。



 闇色の世界で、ふわり、ふわりと身体が浮いたような浮遊感を感じる。
 夢だ――と、思いながら黒蒼は目を覚ました。
 「――、ここ、は……?」
 目を覚まし、身体を起こすと同時に足が冷たい地面を踏みしめた。ゆっくりと辺りを見回し――息を飲む。
 そこは――、町のようだった。
 町のよう。その理由は、焼けた元・町だったから。建物は崩れ、ほとんどの家屋は原型を留めてはおらず、骨組みが剝き出しに空気に触れていた。
 「なん、だ……? ここは、夢、だよな……」
 夢であると信じたい。そう思いながら、黒蒼は自分の身体を見下ろしてみて、目を見張った。
 身体が、透けている。
 そのことに動揺していると、目の前に人が現れた。
 「ッ」
 呆然としていた所為で反応が遅れた。避けようと動き出すが、その人物はまるで黒蒼が居ないかのように・・・・・・・・すり抜けて行った。

 「流星の石の前に集まれとのことだ」
 こそりと、人が人へと内緒話をするかのように要件を伝えている。町の一角に居る人々よりも身なりが整っている。
 貴族だろうか? 姿が見えていないなら、付いて行ってみよう。
 黒蒼はそう思い、今し方耳打ちをした男の後を追った。夢であれ黒蒼にも、好奇心というものがあった。
 
 「何だ、あれは……」
 行きついた先で目にしたものは、巨大なポッドの中にある不思議な色をした巨大な石。
 何やら話し込む男達から離れ、黒蒼は”それ”に近付いた。巨石が安置されているこの部屋に入ってから、ずっと気になっていた物がある。
 「――棺桶?」
 気になっていた物。それは――棺桶。ポッドの前に二つの棺があった。
 「……?」
 何気なく、ガラスで出来た棺を覗き込んで――息を飲んで、硬直した。

 「……お、れ…………?」

 やっと声が発せられた時、黒蒼は二つの棺の間に座り込んでいた。  
 棺の中に眠るのは――黒蒼。顔に大小様々の切り傷が。嫌な予感がした。
 「こっちは――ッ⁉」
 すぐさま隣の棺を覗き込み、再び言葉を失う。

 「……ッ、乱、銀……?」

 もう一つの棺には、乱銀が眠っていた。棺に置いた手に力が籠る。
 「ハッ、……ぁッ……」
 呼吸が乱れる。夢だ、夢だと思いたい。けれど、どうしてもそうは思えなかった。
 それはあまりにも、リアル過ぎた。
 「流星の石の予言は絶対だ」
 「”転”住民の、贄としての適性があるかどうかも調べなくてはな」
 「捕虜として捕らえるのか」
 「いかにも」
 「そやつらの血を、クリスタルの力の源にするのだ」
 男達の話す声、その内容。
 ぐるぐる頭の中を巡って気がおかしくなりそうだ。
 無意識に胸元に手を当てる。――服の隙間から見える、目の前にある巨石……流星の石と似た色合いの石のペンダントがあった。
 「……かえり、たい」
 現実へ。この、夢の世界から目覚めたい。

 何処となく虚ろになった表情。
 衣服の上から握り締めたペンダントが、光を放っていた事に、黒蒼は気付かなかった。

 『……ごめんな』

 急激に意識が遠のく中、優しく慈愛に満ちた柔らかな男の声を聞いた気がした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...