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時空の歪みと、夢現。
しおりを挟むじわり、じわりと小さく空間が歪む。次第にそれは大きいものとなり、歪みの向こう側が見える。
それは――”転”。
黒蒼達の生きる世界。
「もう暫くだ。もう暫くした時、あちらの世界と完全に道が繋がる」
着々と”転”への侵略の準備が整っていている中で、”絶”の権力者は現場で言う権力者の男――否、黒炎の爆龍は歪みの先を見据えながら、仄暗い笑みを浮かべた。
「流星の石の下す予言など、俺は興味は無い。……ただ、戦えれば理由が何であれ、どうでもいい」
黒炎の爆龍と呼ばれる男は、多くの血が流れるのを最も好む。
見たこともない世界――”転”の存在に、密かに胸を躍らせていた。それも、戦いを知らぬ人間をどう、血を流させるかを思い描いて。ただ、ただただ薄気味悪い笑みを浮かべていた。
同時刻――”転”にて。
「空が……」
蒼く澄み渡る夜空が広がる”転”の世界。
夜道を行きかう人々は空が歪み、その先に見える異質な風景を目撃する。
「ねぇ、みてー、あれ!」
小さな子供が無邪気に空を指さし叫ぶ。その間にも、空間の歪みの大きさは広がって行く。
その、歪む空の先――”絶”の風景は人々のざわめきを広めていく要因の一つとなり、恐怖に陥れる。
「あれは……”絶”ッ⁉ ……やはり、クリスタルの予言ッ」
一人でそれを目撃した乱銀は声を荒げる。黒蒼も誰も居ないので、声を荒げようと荒げまいと、気にする者は今、誰も居ない。
人気の無い建物の屋上の上で、彼女は一人唇を噛み締めた。
「対策を……」
対策を、考えなければ――
おそらく”絶”は、”転”に戦争を仕掛けに来るつもりだ。それは感であったが、乱銀は元々”絶”生まれ、そして死んだ。それなりの地獄を見て来たと自負できる。
”絶”が侵略して来るとなれば、多くの血が流れることは考えずとも分かった。
「武器さえ手に入ればッ‼」
”絶”では金貨等を払えば手に入れることが出来た物。”転”ではそれが出来ない。法によって縛られている所為だ。
「けど、けどッ、守る。守ってみせるんだ、私は‼」
刀剣が手に入らずとも、魔法が使用できると知った。
それで立ち向かうしかない。
敗北の文字が目に浮かぶが、やるしかない。やらねばならない。
争いとは無縁の”転”を。――黒蒼の生きるこの世界を、守る。
「来るなら来い、流星の石の予言に縛られし愚かな”絶”の住民達よ! 私がその刃を……叩き折ってやる‼」
”絶”で生きていた頃、乱銀は殺し殺されるといった世界で、生きていた。流星の石の予言によって、生まれ育った村を焼かれた。多くの血が流れ、村人のほとんどが死に絶えた。その中で生き残った乱銀は傭兵として生きることで、その残酷な世界で生き、そして死んだ。
”絶”が作り出した歪みの先に向かって、乱銀は吠えた。決意は固まった。
近々、”転”にやってくる完全武装集団。
その一団と対抗する決意を、彼女は決めたのであった。
闇色の世界で、ふわり、ふわりと身体が浮いたような浮遊感を感じる。
夢だ――と、思いながら黒蒼は目を覚ました。
「――、ここ、は……?」
目を覚まし、身体を起こすと同時に足が冷たい地面を踏みしめた。ゆっくりと辺りを見回し――息を飲む。
そこは――、町のようだった。
町のよう。その理由は、焼けた元・町だったから。建物は崩れ、ほとんどの家屋は原型を留めてはおらず、骨組みが剝き出しに空気に触れていた。
「なん、だ……? ここは、夢、だよな……」
夢であると信じたい。そう思いながら、黒蒼は自分の身体を見下ろしてみて、目を見張った。
身体が、透けている。
そのことに動揺していると、目の前に人が現れた。
「ッ」
呆然としていた所為で反応が遅れた。避けようと動き出すが、その人物はまるで黒蒼が居ないかのようにすり抜けて行った。
「流星の石の前に集まれとのことだ」
こそりと、人が人へと内緒話をするかのように要件を伝えている。町の一角に居る人々よりも身なりが整っている。
貴族だろうか? 姿が見えていないなら、付いて行ってみよう。
黒蒼はそう思い、今し方耳打ちをした男の後を追った。夢であれ黒蒼にも、好奇心というものがあった。
「何だ、あれは……」
行きついた先で目にしたものは、巨大なポッドの中にある不思議な色をした巨大な石。
何やら話し込む男達から離れ、黒蒼は”それ”に近付いた。巨石が安置されているこの部屋に入ってから、ずっと気になっていた物がある。
「――棺桶?」
気になっていた物。それは――棺桶。ポッドの前に二つの棺があった。
「……?」
何気なく、ガラスで出来た棺を覗き込んで――息を飲んで、硬直した。
「……お、れ…………?」
やっと声が発せられた時、黒蒼は二つの棺の間に座り込んでいた。
棺の中に眠るのは――黒蒼。顔に大小様々の切り傷が。嫌な予感がした。
「こっちは――ッ⁉」
すぐさま隣の棺を覗き込み、再び言葉を失う。
「……ッ、乱、銀……?」
もう一つの棺には、乱銀が眠っていた。棺に置いた手に力が籠る。
「ハッ、……ぁッ……」
呼吸が乱れる。夢だ、夢だと思いたい。けれど、どうしてもそうは思えなかった。
それはあまりにも、リアル過ぎた。
「流星の石の予言は絶対だ」
「”転”住民の、贄としての適性があるかどうかも調べなくてはな」
「捕虜として捕らえるのか」
「いかにも」
「そやつらの血を、クリスタルの力の源にするのだ」
男達の話す声、その内容。
ぐるぐる頭の中を巡って気がおかしくなりそうだ。
無意識に胸元に手を当てる。――服の隙間から見える、目の前にある巨石……流星の石と似た色合いの石のペンダントがあった。
「……かえり、たい」
現実へ。この、夢の世界から目覚めたい。
何処となく虚ろになった表情。
衣服の上から握り締めたペンダントが、光を放っていた事に、黒蒼は気付かなかった。
『……ごめんな』
急激に意識が遠のく中、優しく慈愛に満ちた柔らかな男の声を聞いた気がした。
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