CRYSTHL―クリスタル―

気紛屋 月影

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星の欠片と欠片の石。

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 黒蒼には、生まれついてからこれまで手放さず、常に身に着けている水晶の一種であろう石の欠片を持っていた。

 「黒蒼、何を大事そうに持っているの?」
 乱銀が黒蒼が手に握り締めるそれに気付き尋ねる。
 「ん? ああ、これの事か?」
 ぼうっとした表情から一変、手に握る欠片を乱銀に見せてやる。「、これは?」手に取ろうかと一瞬思ったが、大事そうに持つ黒蒼の表情を見て、それは諦めた。
 「星の欠片メテオストーン。物心付いた時から持ってた。……面白い話かは分からないが、聞きたいか?」
 ぽつりと、黒蒼は独り言のように言った。何の話だろうと思いながら、乱銀は黒蒼の昔話を知りたいと思った。
 「……聞き、たい」
 絞り出すように声を出した。黒蒼に視線を向ければ、ぽんと、頭を撫でられた。優しい手。心地良い気持ちになった。
 「俺が生まれた時に、星の欠片も一緒に母親の体内から外に出たって聞いてる」
 人体の神秘。そうも思える。
 黒蒼はどういう仕組みなんだろうな、と小さく笑っていた。
 「ちなみに、星の欠片って名前があるのは、星色……まぁ、イメージだな。勝手に親がつけた名前だ」
 言いながら手の中でペンダントを転がす。生まれた時から自分のものとしてあって、お守りとして常に身に着けているように言われていた。
 事実、これまで危険な目にあっても守られたような安心感を感じることが多々あった。
 「不思議な話ね」「そうだろう?」
 ゆるりとした笑みを二人して浮かべる。星の欠片を首に掛けようとして、ふと思い留まった。少しの間思案して、乱銀をちら、と見た。
 「黒蒼? ……何?」視線に気づいた乱銀が小首を傾げる。
 「なぁ、乱銀。着けてみるか、これ」
 「え? でも……」
 唐突に提案した黒蒼に乱銀は戸惑う。お守りとして身に着けているくらいだから、相当大事にしているはずだ。だからこそ、躊躇する。
 「良いから」
 有無を言わさずに乱銀をやや強引に足の間に座らせ、ペンダントを掛ける。それだけでなく、彼女の長いストロベリーブロンドに触れ、編み始めた。

 「良し、こんなもんか」

 満足気に黒蒼は言うも、一つ困った。
 髪留めを、持っていないのだ。
 「うん……どうするかな」
 このままにして置くのも、勿体無い気がする。悩んでいると、クラスメイトの女子がおずおずと髪留めを差し出してきた。……忘れていたが、黒蒼達は教室内に居たのだ。生温い空気を感じる。だが、本人達はまったく気付いても無かった。
 「良かったら、使って?」
 「あ、あぁ。ありがとう」
 受け取って、に、と口角を上げる。その女子はほんのり赤面し、パタパタと小走りでグループの中に戻って行った。

 「ほーんと、お前さん達付き合ってないんか」
 「残念ながら、そういう関係じゃないぞ、宮司みやじ
 「つっまらんのー、見てるこっちが砂を吐きそうじゃ」

 それは言えてる。
 クラスに居た全員が思った瞬間だった。

 「ねぇ、乱ちゃん!」
 「ズバリ聞きます!」
 「乱ちゃんは黒蒼君の事が好き⁉」
 「へぁッ⁉ 何言ってるんだ、皆‼」
 「まー、まー、黒蒼はこっちな」
 「ちょ、おい!」
 数人の男子に黒蒼はズルズル引き摺られ、強引に椅子に座らせられる。乱銀は女子に囲まれもみくちゃにされていた。
 「恋愛? それとも友情?」
 きらきらした瞳で一人の女子――鈴原すずはらは乱銀を見る。恋愛話は、女子の十八番。飾り付けの無い乱銀の女子力アップに、女子達は密かに計画を企てている。

 「……好き、かはまだ……分からない。だけど、一緒に、傍に居たいって思ってる」

 それは本心。乱銀の告白に、女子の黄色い声と男子の野太い悲鳴が教室内外に轟いた。
 女子の大半は歓喜。男子の一部は失恋の意味での悲鳴。

 「……なんで叫んでるんだ?」
 「……分からない」
 騒ぎの中心人物達は、揃って顔を合わせ首を傾げた。

 ※


 「ほらほら、手ぇ繋いで帰れって」
 帰りの際、囃し立てる級友達に肩を竦める黒蒼が居た。何を言っても、テンションの高い彼らには通じないと既に学習していた。
 「黒蒼ぉーほら、繋げって!」
 紫が無理矢理に乱銀と手を繋がせようとするのを拳一つで黙らせる。短い悲鳴を上げて、紫が蹲った。ほんの少しだけ、ざまあみろ、と思ってしまったのは仕方ないと思う。
 「帰ろうか、乱銀」
 言いながら振り返ったところで、黒蒼は見る。じっと自分の手を見る乱銀が居た。気にならないわけでもない。ただ、手を繋ぎたそうにしているな、と思った。
 「……はぁ……乱銀。ほら」「え?」
 短く息を吐き出すと同時に手を差し伸べる。ぱちくりと目を瞬かせる乱銀の態度に気付かないふりをして、黒蒼は乱銀の手と自分の手を繋いだ。
 「ぷぷぷ、やっさすぃーの!」「うるさい、黙れ」
 やいのやいのと、茶化されるのも慣れて来た頃、ふと道の先にお洒落な店屋が目に入った。
 「黒蒼? どうしたの」
 急に立ち止まった黒蒼に、幸せな気分だった乱銀は不思議そうな顔で黒蒼の顔を見上げた。乱銀の他に、紫はもちろんのこと、宮司と鈴原も一様に首を傾げている。
 「悪いんだが、少し……あそこに寄っても良いか?」
 気まずそうに気になる店を指さし、黒蒼は言った。


 「ふわぁぁぁ……こんなに種類があるのね!」
 「驚いた。こんな店があったとは知らんかった」
 「いつも通ってる道だってのにな」
 感嘆の声を上げる三人を置いて、何かに導かれるように乱銀は店の奥に歩いて行く。時々、売り物に視線を送りながらきょろきょろ店内を見回した。
 小さなアンティークショップ。
 細かなアクセサリーから置物まで、多種揃えてあった。
 「あ……」
 ある物に視線が止まる。
 「…………綺麗……」
 薄緑と水色、黄色――否、レモン色といった方が良いのか、その三色が複雑に混ざり合ったペンダント。
 昼間、黒蒼のクラスで掛けられ、今尚首に掛かる黒蒼のペンダントに似ている”それ”。
 こちらは薄緑と黄色のようなレモン色と、白銀。

 「お気に召されましたかな」

 じぃっと見つめていた乱銀は思わず悲鳴を上げそうになった。上げる前に寸での所で抑え込んだが。
 「え、あ……」
 老店主らしい人を前に、乱銀は無意識に黒蒼の姿を探した。「乱銀、落ち着け」店主の後ろに立っていた黒蒼が声を掛ける。困り顔だった乱銀の顔がぱぁっと明るくなったのを見て、何だ、その顔、と、黒蒼が笑った。 
 何故、老店主と共に居るのか不思議だったが、ただ人を呼びに行っただけだったようだ。
 「これは欠片の石ハーフストーン。何処で採掘されたのか、何処から来たのか、まったく分からない、謎の多い石じゃ。ただ……護りの石、とも誰かが言っておったなぁ」
 はて、それは誰だったろうか。
 話す店主から目を離し、乱銀はペンダントを手に取って、まじまじと眺める。
 「気に入ったのか? 貸せ、買ってやる」
 背後から覗き込んだ黒蒼が言う。断るよりも早く、乱銀の手からひょいと、掴み上げると会計に行ってしまう。慌てて黒蒼を追い、「いい、要らない」首を左右に振るも、「俺がお前に買ってやりたいだけだ」と言われそれ以上はもう、何も言えない。会計が済むのを、ただ呆然とした表情で見詰めた。

 「貴方の持つ”それも”、欠片の石と同じ護り石のようですな」
 購入したばかりのペンダントを黒蒼に着けて貰った乱銀。黒蒼は星の欠片を首に掛け終わっていたところだった。
 「……そうかもしれない。これを持っているお陰か、今まで危険な目に会ってもそこまで酷くない怪我ばかりだった。…………それに、何かに巻き込まれる前後の日に、夢を良く見る」
 昼間はそんな事を言っていなかった。乱銀は黒蒼の魂に刻まれた記憶を思い出しているのだろうかと思い、どきりとした。
 「そうか……貴方達に幸あれ」
 黒蒼の言葉を聞いた老店主はそれ以上何も言わず、黒蒼達を見送った。


 「……黒蒼」
 「うん? どうした、乱銀」
 「ありがとう」
 ペンダントを買ってくれて。
 お礼の言葉。最期の言葉が少なくとも、黒蒼には十分伝わった。「どういたしまして」微笑む黒蒼。自然に手が握られた。傍に居られて、乱銀は幸せだった。
 二人の世界が広がる数十歩後方に、カメラを構えた二人と、その二人の荷物持ちをさせられている被害者一人。

 「これで付き合ってないなんて、勿体無ーい」
 「でもまぁ写真は高く売れそうだ」
 「……お前さん等、何やっとんじゃ」

 ふふふ、やら、くっくっくなど、怪しく笑う紫と鈴原にドン引く被害者・宮司。
 「無自覚天然バカップル」
 ぼそ、と鈴原が吐き出す。
 「アイツ等の写真を欲しがる奴なんて、俺等のクラスだけじゃないんだぜ?」
 にやり、音が付きそうな笑顔を浮かべる紫。(……盗撮じゃないんか)宮司は心の中で言ったつもりが、口に出ていた。にこりとした笑顔二つに見詰められ、悲鳴を上げたくなる。
 
 「何で、何でこのし等とワシは友達やっとんだかなぁ」
 遠い目をしながらぼやく。それでもまぁ、天然バカップルのツーショット写真を求める一人だということに、宮司は思いながらもただただ、行き過ぎた行為に引いていた。



 〈よーしッ! 今日は黒蒼の家に泊まるぞー‼〉
 〈はぁッ⁉〉
 〈〈さんせーい!〉〉
 〈無理に決まってるだろ! 泊めるとしたら乱銀だけだッ。帰れッ、お前達‼〉


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