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逃走するかせ、それから訓練開始。
しおりを挟むはぁ、 はぁッ……
青年は暗闇の中を走っていた。
「はッ、ぜぇ……これだ、この方法だッ! 確証はないが、試してみる価値はあるッ」
ジャ・シンナールから受け取った書物を落とさないように、青年――かせは走る。
「ここを抜ければ、こっちのもの――ッ⁉」
気を抜きかけ、走る速度が落ちた時だった。
「がッ⁉」足に、激痛。呼吸が止まり、足が縺れ転倒。
「やはりここを通ると思ったよ、愛しい子」
コツン、と足音が荒い息使いが聞こえる中、静かに響く。
足が痛い。痛い痛い痛い!
逃げなければ。
逃げなければ。
「……ぐッ……こんな、所で……!」
激痛に顔が歪む。がくがく足が震える。それでも何とか立ち上がった。
「はぁッ」
勢い良く息を吐き出す。目を閉じ、気配を探ってみれば――、数人どころではない気配を感じた。
「さぁ、その手の中にある物を返しなさい」
「断る……!」
「……かせ。私はね、怒っているんだよ? お前の家族を殺さないと決めていたのに……あんまりじゃないか」
聞き分けのない子だ。良い子だから、それを渡せと男――スイゲェーレンは言う。
それでもかせは、いやだ、と口にした。口の中が乾く。それすら気にならなかった。
「返してくれないのであれば、お前の兄弟を一人づつ、この手で葬ってやろうか?」
「なッ」
スイゲェーレンが口にした言葉に絶句する。これは脅迫だ。屈伏させる為の。
(ここで渡したら終わりだ。……もし、俺が死んでも、アッズが居る。でも、)
約束した。必ず戻ると。だから――死ねない。
「お前に渡すなら、死んだ方がまだマシだッ!」
睨み付け、吠えた。
「…………やれやれ、強情な子だ。お前達。――やれ」
号令に現れる兵士達。皆一様に、飛び道具を構えていた。
最初はにこにこした笑みが、一気に無表情。氷の様な冷たさを感じるその表情に、かせは身を固くしたが――、
「破壊点!」
血の止まらない足を引き摺って、思い切り拳を地に叩き込んだ。
その途端、かせを中心とした罅割れが広がり、崩壊する。「待て、かせ! 待つんだ!」慌てた様に手を伸ばしてくる男に、「待たねぇよ」と嗤って見せた。
運が良いのか悪いのか。
幸いにも、崩壊するその下にも、使われなくなった通路が残っているのだ。
スイゲェーレンが引き連れて来た部下達の声の悲鳴が暗い通路の中で木霊する。
「流星の石は、破壊する」
浮遊感に襲われながら、かせはそう、口にした。
その頃。
「一応、私達は誰でも使える軽量で」
「尚且つ丈夫な」
「武器を量産してるけど……」
「何か要望ある人、居るかな?」
”転”の、黒蒼属するクラス。
演劇部お抱えの図工係が、意見を聞く。
「あの、はい」少し迷って、乱銀は手を上げた。
「お、乱銀ちゃん」
「何をしてほしいんだ?」
上げた手を下ろし、息を少し吸って、吐き出して――
「私と、黒蒼が使った剣を、使いたい」
「へ?」
「やっぱり駄目、かな」
乱銀の要望に、図工係は目を瞬かせる。乱銀の言う剣とは、演劇で使用された双剣と大剣の事だ。
「ちょっと待って!」
図工係から紫に、話が伝わる。
「ああ! いいぞ! いいとも!」
この際、使える物は全部使おう! それが良い。そうしよう。
紫は即答し、次なる指示を下す。
そして――黒蒼と乱銀の下へ、大剣と双剣が。
「ありがとう」
「ありがとな、紫」
受け取った乱銀は微笑み、黒蒼は紫と拳を合わせた。
「じゃあ、始めようとするか。”絶”と戦う為の訓練を」
出入口から聞こえた声に、黒蒼は誰よりも早く振り返った。
「白狼!」「よう、黒蒼」
保険医はにや、と笑う。
乱銀と行動するようになって、黒蒼は白狼に会いに行くのが減った。それに、白狼は人前に姿を見せることは少ない。黒蒼の声が嬉しさを表していた。
「せ、先生!」
「おら、なぁにぼさっとしてる。死にたいのか? 自分に合った道具持って、外に出ろ。前衛後衛に別れて、並んどけ」
扉に背中を付けた状態で、気だる気に伝える。同時に「おお!」と、声が上がった。我先にと、教室を飛び出していく中――
「ファイヤー!」
ごうッ、と炎が巻き上がった。
「はぁ?」目を剥き、絶句。
「いえぇええええ!」
一人の男子が士気を上げる為なのか、自分ごと炎に巻かれている。
「燃えろ燃えろ燃えろぉおおおお、俺の命! これ以上ないくらいに燃え上がれッ‼」
「冷却、氷結、静まれその感情!」
べッシィィーン……と、男子の頭を引っ叩く女子。カップル、だろうか? 手慣れているように見えた。
「あー……三和に海原」
「あは、ごめんなさい、先生。この馬鹿が! ちゃんとお仕置きしとくから!」
にこにこと困った様に言う女子――海原。その言動にひくりと、口が引き攣った。
「さて、と。先に行くわね、黒蒼君」
海原と言う少女は白目を剥いたまま気絶している三和を引き摺って、外に出て行った。この時、三和の足を持って、だが。軽々しく引き摺って行った様に見えたが、見なかった事にしよう。
後には、黒蒼と白狼が残った。
「さて、行くかぁ」
「あ、ああ」
黒蒼が先に足を踏み出した。その数歩後ろに、白狼は続いた。
ぺた、ぺた、ぺた、
ぱす、ぱす、ぱす
暫く黒蒼の後ろ姿を見て、ふと、保険医は口を開いた。
「なぁ、黒蒼」
「何だ?」
「教師連中の中でも、話題中の話題なんだがなぁ……乱銀とか言う女子生徒の事は好きか?」
「はぁッ⁉」
「おーおー、良い反応。乱銀も良かったが、お前もまた良い反応だ」
ケタケタ笑い声を上げて赤面し、立ち止まった黒蒼を追い越す。
「……結末を急がなくたって良いんだぜ?」
肩越しに振り返って、乱銀に向けた言葉を言う。
幸せになれ。
それが白狼が抱く願い。
校庭に集まった生徒や教師。
その全容を目にし、白狼は大口を開けて高らかに笑った。
「はぁーはっはっはっ! さぁ、抗う為の訓練を、始めるぞ」
それぞれが選んだ武器を手に、若き男女は雄叫びを上げた。
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