CRYSTHL―クリスタル―

気紛屋 月影

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いざ”絶”へ! その前に奇襲せよ!

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 「時の橋、我等の血を糧として」
 「世界を渡る橋を創造せよ」
 「我等の国を守る為」
 「また我等の未来を守る為」
 「諦めず立ち上がろう」
 「立ちはだかろう」

 校庭で行われる数十人での詠唱。
 大きな円になって紡がれていく言葉。誰が作ったというものではない。それぞれの思いの籠った言葉を吐き出しているだけに過ぎない。それでも、言葉には力が宿る。

 魔法陣と符を使った空間転移通路。
 「下準備はこれで良しと」
 「皆、血を垂らして」
 ナイフで切った指を、紙に描かれた魔法陣の上に一斉に垂らして行く。ドクン……、魔法陣が脈打ったように感じた。
 「いやいやいや」
 「悪魔召喚じゃねーから!」
 「え? 空間転移通路だよね?」
 「悪魔召喚です、なんて言ってみろよ? ぶっ飛ばしてやる!」
 一部騒然としているがちゃんとした通路らしい。黒蒼は血を垂らし終わるなり円の中から離れた。
 「流星の石……今、裏切りの血はそこに行く。必ず、お前を破壊してやる!」
 ぼそりと、言葉を吐き出した。
 必ず。必ずだ。
 「……黒蒼、……」
 何か言いたげな乱銀が居たが、黒蒼は気付かぬふりをした。
 そして――、

 「攻撃は今緩んでるぞ!」
 「符を展開させろ!」
 「放て!」
 「射撃部隊、打てぇー!」

 符術によって自然魔法は放たれる。
 学校全体に張り巡らせた結界によって、”絶”の攻撃は防がれたまま。
 屋上。
 また、結界ギリギリに遠距離攻撃を主とする生徒は配置に着いた。
 「皆、準備は良いか?」
 符で作った連絡手段が大きく響き渡る。同時に、各場所に作られた空間転移通路の前に奇襲部隊が立った。
 「まずは船を墜とす!」「少しでも負傷したらすぐに帰還して!」
 黒蒼、乱銀が声を張り上げた。
 「黒蒼ッ」
 「紫?」
 転移通路の前に居た黒蒼を紫は呼んだ。振り返る黒蒼に向かって、「こっちは任せろ!」ニヤリと笑って獲物を構える。それに、ふっと笑う。任せられる。――大丈夫だと分かった。
 「行こう」
 凛と、姿勢は崩れない。
 「あの船に空間を繋げるよー‼」
 「符は持ったね?」
 「帰りの切符だ、失くすんじゃねーぞ!」
 怒鳴り怒鳴られが続く中、各々の手には自分に合った獲物と言う名の武器。カウントが始まる。緊迫した空気が漂う。
 「……3、2、1……0ッ」
 奇襲戦、開始だ。


 「ッ、な、!」
 「何処から湧いて出た⁉」
 上手くピンポイントに戦艦に転移したようだ。
 ならば……行動、開始だ!
 「う、ギャッ」
 悲鳴があちこちから響き渡る。
 「月虎、蒼炎弾!」魔力の弾丸を放つ。
 「紅蓮刃波ぐれんじんぱ!」
 双剣に纏わせた炎を刃に、そして波のように放つ乱銀。

 「怒り狂う天のもの。
  その怒りと共に、我が怒りも喰らえ!」

 ドン、バリバリバリリッ

 人工的に作られた雷が何度も、何度も落ちる。
 その度に焦げ臭い匂いが漂ってくる。人の、化け物の、――肉の焼け焦げる嫌な匂いが。
 「風よ唸れ、火よ滾れ!
  燃えろ、燃えろ燃えろ! 燃え尽きてしまえッ!」
 一人、恨みの籠った声音で女子生徒は詠唱する。
 「止めよ、女風情が!」
 「丸腰で来るなど、殺されにでも来たか!」
 わははは、余裕そうな兵士達。人間だけじゃない。異形の、知能のある化け物までも居た。囲まれている。嗤われている。それでも、詠唱を続ける彼女に恐怖は無かった。
 「風は火の味方! 火は風の敵!
  二つは敵であり味方である!」
 「何を長々と……」
 「気でも触れたのでは?」
 くすくす上品に嗤う兵士。しかし、いい加減に聞き飽きても来た。上品な兵士が腰に下げた剣に手を置いた時だった。

 「喰らえッ、マグナ・エアー・ランサー‼」

 カッ、と目を見開いた彼女が叫んだ。
 瞬間――、灼熱の炎と風が合体した魔法が炸裂する! それは敵を槍の如く突き破り、炎に巻いて焼き尽くしていく。それでも――、
 「このアマァアアッ!」
 「よくも、よくもやってくれたな!」
 生き残りはいるもので……。だが、「そうは行くかよ!」その声と共に現れた弓を扱う者達。
 最初から囮だったのだ。
 一人、しかも女。そうすることで、相手が油断すると思っての作戦だったのだ。 
 「なにぃッ⁉」
 「戦い慣れてんなら素人の俺達の気配くらい気付けっての!」
 「いつの間にそこへッ」
 「最初っからだぜー?」
 「あーぁ、詰まんねーの。拍子抜けだぜ」
 口々に思い思いの事を話す。話しながら、弓の弦には指を掛けたままだ。いつでも矢が放てるように。
 「ま、待て」
 「待ってくれ……ッ」
 自分達が不利だと気付いたのだろう。だが、もう遅い。
 「今更命乞いかよ」
 「自分達から攻めて来たのに?」
 キリキリキリ……弦を引く手に力が籠る。彼等の表情は無表情に近かった。
 「くッ、くそおぉぉおおおッ」
 命乞いも無駄だと理解した。
 自分達を囲む”転”の住民達は、どんなに願っても必ず殺すのだろうと。気付いてしまった。
 一人が襲い掛かる。
 バシュッ、一人の矢が放たれた。
 「うおぉおおおッ」
 二人、三人、四人と、散って行くその様を、残りの兵士達は呆然とした面持ちで眺めた。
 「最後は、お前等だな」
 その言葉を最期に、彼等”絶”の兵士の意識は闇に沈んだ。……永遠に明ける事のない、闇の中に。


 ただ、闇に落ちるその前に、一つだけ分かったことがあった。
 それは――、

 これまで自分達がしてきた事と、同じ結末だという事に。
 命乞いをしても最期は殺される。
 ”転”に来る前の、”絶”でしたことが、自分達に返って来た。それだけの事だった。

 「東に位置する戦艦」
 「クリア」
 「クリア」
 「クリアッ」
 「戦艦クリアッ」

 一つの船が落とされた。この戦艦はもうじき堕ちる。地上での被害を少なくする為、爆符を戦艦内部まで張り付け直ちに脱出するために動き出した。
 「急げッ」
 「巻き込まれ前に張り終わらせるぞ!」
 「ああ! って、おおぃッ、みっちゃん! 何やってんの! 死にたいの⁉」
 「あー、うー君」
 「あー、うー君じゃねーよ! 死にたいのかって言ってんの⁉」
 「えー、だって船だよ? 戦艦だよ! 見なきゃ損じゃん」
 一人別行動しようとする生徒にスパーン、と頭を叩く。うん、良い音がした。じゃなくて!
 「主動力部分がイカかれでもしたんだろ。っていうかさっきから船全体に嫌な音が鳴り響いてるだろ!」
 「うん、そうだね」
 「そうだね、じゃなくてッ、~~~~ああ~ッ、しっかりしてくれよ!」
 ゆるふわな雰囲気、歩き回ろうとする友人を押え付けている間に、他のメンバーが戻って来た。「脱出だ!」リーダー各の号令に慌てて走り出す。
 「符を!」
 「間に合わない!」
 「仕方ない。飛び降りろ!」
 「えぇッ、嘘でしょ⁉」
 「いいから!」
 「皆、信じて飛べ‼」
 リーダー各が叫んで先陣を切る。追うように自ら飛び降りる者、躊躇する者は無理矢理船の外に飛ばされた。
 浮遊感が襲う。
 爆破するのだ。当然、命綱無しのスカイダイビング。
 悲鳴、絶叫が轟く。
 「『わぁぁあああああ‼』」
 「『きゃぁあああああ‼』」
 ぐんぐん地面が近付いて来る。リーダー各が信じろと言った。だが、このままだと死しか思い浮かばない。
 死んだら恨む。
 絶対恨む。
 だが、地面に叩き付けられることは無かった。
 符をリーダー各が展開させたのだ。ばらばら、ばらりと、自分達を囲わせるように符をばらまいた。そうすれば、簡易的ゲートの出来上がり。しかし、これじゃ何の意味も無い。

 「繋げッ、帰還!」

 ぱん、落ちながら手を打ち鳴らす。
 すると、符が淡い光を放った。そして、完全なゲートが完成した。符が円になっているそれを潜り抜ければ、最初に使った空間転移通路の魔法陣に戻る。落ちるまま、身体を任せるだけだ。




 「こっちは終わった!」
 「ッ、待て、まだ終わっちゃないぞ!」
 「どっからこんなに湧いて出て来るの⁉」
 別の戦艦で戦闘を繰り広げていたグループが絶望に近い悲鳴を上げた。「グルァアアアアッ!」大口を開けて咆哮する四つ足の合成獣。「うッ、うぇええッ」誰かが吐き気を堪える。四つ足の合成獣……それは、人の顔がいくつもくっ付いていた。手足も獣のそれではなく、人間のもの。酷く、グロテスクなものだ。
 「やばいッ」「囲まれた」
 背中合わせになって手持ちの武器を構えるが、その武器は掃除道具といった攻撃力が低いもの。
 絶体絶命のピンチ。

 「蒼炎弾!」「紅蓮刃波!」

 蒼と紅の炎が異形達を切り裂き、焼き尽くしていく。「黒蒼君!」「乱銀ちゃん!」わぁあああ、歓声を上げるのも束の間。すぐに新たな敵がやって来るのを視界に捉え、一気に静まる。
 「キリがないから、このままこの船を墜とす!」
 「先に脱出してください。殿は私達が!」
 薙ぎ払いながら、告げる二人。
 残ると口に出しても足手纏い、邪魔になるだけだと分かっているのだろう。短く了解すると、黒蒼と乱銀は戦艦破壊の為に動き出した。

 「はッ!」
 乱銀は舞うかのように襲い掛かる異形を切り伏せ、
 「せいやッ」
 黒蒼は大剣を豪快に振るい敵を、船を、斬りつけて行く。
 ゴン、やらドン、と音が響く。ギギギギ、と軋む音も響き始めた。そろそろ船限界が近付いているのだろう。
 それに気付くなり、大技へと攻撃を変更した。

 「紅蓮刃ぐれんじん飛龍咆哮ひりゅうほうこう!」
 「ブレインド、ブルーファイヤ・カッター!」

 乱銀の双剣が纏った紅の炎が大きくなり、ドラゴンになる。剣を空中に放り投げクルリと回るそれをキャッチすれば、ドラゴンの口から炎が吐き出された。
 黒蒼の持つ大剣・ブレイドは蒼の炎を纏い、風と共に異形と乱銀の炎を巻き込んで全てを斬り裂いていった。
 それだけでは終わらない。
 「ッ、はぁあああああ!」
 縄を掴み黒蒼は船から飛び降りた。そのまま大剣を突き刺し、走る。
 バキバキバキ、魔力を纏った大剣は鉄をも斬る。掴んでいた縄は、気付けば離していた。
 「終わりだ」
 最後に、月虎を剥き出しになった動力部分に向けて、発砲した。

 「月虎、破弾!」

 ガウン、銃口が火を噴く。そして、動力部分に魔力の弾丸が着弾するなり、大爆発が起きた。
 一部分から起きた爆発は連鎖的に起こる。爆風に黒蒼の身体は宙に舞った。
 「黒蒼!」
 乱銀が叫ぶ。
 「――、」
 暫くした後、訪れる浮遊感。
 頭から、落ちている。
 爆風によって意識が飛ばなかっただけでも良い方だ。気絶したところで死ぬだけだし、どちらでも変わらないはず――否、変わらない。
 (多分、死なないと思うんだよな)
 これは勘ではなく、確信。
 魂が覚えている。”絶”の黒蒼の経験がある。
 身体が動くままに、任せていれば大丈夫だと思った。――のだが、
 「黒蒼!」
 乱銀が、身を投げていた。
 自分など放っておいて、先に戻っていれば良かったのに。何故、爆発が起きるまで残っていたのか。
 (馬鹿だな)
 必死で手を伸ばす彼女に呆れる。だが、悪い気はしなかった。
 「手を!」
 叫ばれる前に、無意識に手を伸ばしていた。

 ドォンッ

 爆音が轟く。爆風も凄まじい。そのお陰で、二人の距離は縮まった。指が――、掠める。
 「あと、少し……ッ」
 互いに手を伸ばし合う。掠めた指から、次は手の平と。一度手の平は掠め、次はしっかりと繋がれた。
 くん、と黒蒼は繋いだ手を引く。
 乱銀の腰に手を、腕を回す。この方が着地に成功しやすいと思ったからだ。自然に、疚しい思いは一欠けらも無い。
 「――、ブレイド!」
 地面が近付きつつある中、彼は叫んだ。己の魔具へと。
 『任せろ、主』
 脳内で了解するブレイドの声。
 何の装備も無いスカイダイビング中でもしっかりと握られた大剣。それが風を纏いブレイドが顕現する。
 それを見た乱銀もならい双剣ジェニメスを呼び出す。

 「我が主よ、しっかりと掴まっていろ!」 
 「乱銀。貴女はそのままじっとしてなさい」

 言われ、大人しく従う。ここは魔具に任せた方が良い。
 符は持っている。だが、今から展開させても間に合わないだろうと判断した。だから顕現させたのだ。

 「風よ、我が愛おしき主を守れ。
  包み、纏い、母なる大地に根を下ろす。
  風は我がモノ、味方なり。
  ゆらり、ふわりと揺らぐ風。
  風よ、我が主を大地に下ろせ!」

 ブレイドの詠唱の効果が表れる。
 黒蒼達の周りを風が包み込む。落ちて行く速度がぐん、と弱まった。
 「あまり、下の人間に見られるのは得策じゃ無いわね」
 ぼそ、双剣ジェニメスが呟くなり、いつの間にか抜き取ったのか、帰還切符をひらりと放った。
 「乱銀。私は戻るわ」
 役目は終えたと言わんばかりに、双剣は再び武器の姿へ戻った。この間、黒蒼はともかくブレイドに一度も目もくれず。チッ、と大剣の魔具が舌を打ったのが気になった。
 「もう戻れるんだな?」
 「ああ。暫く攻撃は止むだろう」
 符の、ゲートと通って無傷で帰還。傷あるといっても大したものではない。せいぜい、何処かに引っ掛けたものだろといった所だ。
 軽く衣服に着いた埃を叩き落とす。
 まだ、終わりじゃない。
 大体の戦艦は墜とした。墜とした船のほとんどが異形の兵士。恐らく、使い捨てに連れて来たのだろう。
 「……気分悪ぃ」


 奇襲戦は成功した。
 だが、まだまだ終わらない。
 ”絶”は戦い慣れ、”転”は素人。
 戦況は簡単にひっくり返される。いくらでも変わる。
 油断は出来ない。するつもりもない。

 さぁ、次は”絶”に向かう。
 死ぬのも、死なぬも、自分の行動次第。
 行こう。
 すべての元凶の元へ‼


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