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不条理
しおりを挟む「諸君!本日は集まってくれてありがとう。我々は不遇をかこつ日々を過ごして来た!しかし!反旗を翻す時が来たのだ!この作戦が成功した暁には、今まで我らを蹂躙してきた奴らを、ぎゃふんと言わせられるであろう!」
※※※※
響くピンポン音。反射的に言われる「いらっしゃいませ!」…ここはとあるコンビニである。
レジには若い女性店員が立っている。やって来たお客の商品を会計する。
「300円のお返しになります!…あらっ?」声をあげる店員。客がどうしたものか、と、その手元をのぞき込む。真っ白な用紙が1枚。「すみません、どうしたのかしら…」画面の再発行ボタンを押す。しかし出てくるのは真っ白な用紙。
客は「別に無くてもいいです」と言って、去っていった。「申し訳ありません。ありがとうございます!」店員は頭を下げつつ、内心首を捻っていた。おかしいなぁ…。
確認の為、機械の蓋を開ける。いつも通りにセットされている用紙。念の為、二回ほど再発行ボタンを押してみたが…真っ白。
彼女は事務所にいる店長に声をかけた。「店長、すみません、レジが…」
どれどれ、と出てきた店長が『休止中』の札を立て、インク切れかどうか、確認する。女性店員は隣のレジで接客を…「あらっ?」と再び声をあげた。店長がそちらを見やると、「店長…」―またしても真っ白な用紙。店長は思わず「何だ?」と言ってしまった。
※※※※
この奇妙な現象…SNSでは『レシートの反乱』と呼ばれた。日本全国津々浦々の店舗、スーパー、コンビニ、ドラッグストア、果ては個人経営の駄菓子屋まで…業種を問わず、とにかくレシートが印字されなくなったのである。困惑したのは企業だった。
レジに異常は認められなかったのである。用紙のセットミスでもインク切れでも設定ミスでもなく…メーカーをまたいで、とにかくレシートが印字されないのである。
意外にも消費者はケロッとしていた。みな、口を揃えて言うのである。
「別に無くても…」
「今どき、履歴残るし」
中には「家計簿アプリに使うのに」や「ポイント貯めてるのに」という声もあったが、企業も馬鹿ではない、きちんと対応する旨を素早く発表した。
この奇妙な現象は、国外でも報道された。と、紙の無駄遣いを無くす、いいきっかけなのではないか、という声があがった。
多くの場合、捨てられるレシート。環境問題的にも見直すべきではないか…。そのような議論が始まった矢先だった。
※※※※
響くピンポン音。「いらっしゃいませ!」
あのコンビニの、あの時の女性店員である。最初の2、3日は混乱したものの、今ではすっかり、真っ白な用紙が発行される事に慣れてしまった。レジの機能上、用紙を出さねば会計終了出来ない為、客層ボタンを押す。出てくる用紙…と、彼女は面食らった。思わず、「店長!!」と叫んだ。
事務所から、何事か、と出てくる店長。お客も目を丸くしている。そこには…印字されたレシートがあった。
これを皮切りに全国で起きていた、『レシートの反乱』は終幕した。
あれはなんだったんだろう?という、疑問もやがて忘れ去られた。
※※※※
そうして、今日もレシートは乱暴に握りつぶされ、ゴミ箱に捨てられるのだった…。
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