それ、あなたのものではありませんよ?

いぬい たすく

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あなたは私のものでしょう?

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「余罪として追及はされなかったの?」

「ああ。立証するのが難しいし、金を引っ張ってるわけでもないしな」

「そうね、それでこちらで補償をするといっても難しいのよ」

「だからって気にするなよ。お前に責任があるわけじゃないんだ。
……しかし、あの家はどうなってるんだ。お前の従妹の言いぐさじゃないが、そろって頭おかしいんじゃないのか」


 アリーチェの戻った侯爵家は内輪もめのただ中にあるという。

 アリーチェに真っ向から否定されたシルヴィオとその母親は離縁を望んでいるが、それでも離縁できない事情がある。この国の法律では、高位貴族は既婚でなければ家督相続できないと定められているのだ。

 家督相続のためにシルヴィオに妻を迎える。ここまでは親子三人の利害は一致している。問題はその後だ。

 母親以外の女性を嫌悪しているシルヴィオには子供はまず望めない。その一方で侯爵は自分の血を伝えたいと考えている。仮に愛人に子ができても庶子では家を継ぐことは出来ない。

「だからってあれはないだろ、あれは」

 ジラルドは酷くいれ損なった紅茶を飲んだような顔をした。

「侯爵夫人としてはご実家から養子を迎えるおつもりだったと思うの。遠縁とはいえ侯爵家の縁類だから」

「それじゃ乗っ取りだろ。さすがにそれは……いや、ありうるか?」

 パウジーニ侯爵家は宮廷における役目を失って久しい。その上財政は傾いている。それで夫人の実家にかなりの借財があるというもっぱらの評判なのだ。

「どう転んでも泥沼ね。とにかくこちらに関わってくる余裕さえなければ良いわ。
 ……それよりもっと大事なことがあるから」

「大事なこと?何だ?」

 ジラルドは紅茶のおかわりを頼もうとして、いつの間にか侍女が席を外していることに気付いた。

「自分で言うのは恥ずかしいけど、私、条件は悪くないと思うの」

 ルフィナが空のカップに目を落としたまま、早口でまくし立てる。その白い頬が染まっている。

「皆のおかげで領地の経営状態も持ち直したし。商会もそこそこ順調よ。
 社交シーズンにはいろいろお願いすることが増えると思うけど、騎士団のお仕事を続けてもらっても大丈夫だと思うの。だから」

「待て。それ以上言うな」

 ジラルドが真顔で話を遮った。

「それ以上言われると、俺が条件に釣られるさもしい男みたいだろ。
 ……領地経営や商売は門外漢だが努力する。そっち方面はお荷物でも治安維持とか魔獣狩りなら役に立てると思う。騎士団は別に時機を見てやめてもいい」

「それじゃ今度は私がさもしい女みたいってことになるのかしら?」

 くすくすとルフィナが笑うのをみてジラルドは紅茶を呷ろうとしたが、カップは空だった。ぐっと奥歯を噛みしめてから彼は勝負に出た。

「ルフィナ、俺と一緒になってくれ!」


 その勝負の結果をルフィナの家族たちは心づくしの夕食で祝ってくれた。庭に大きなテーブルをいくつも出して立食形式を取ったその場に、どう話が伝わったものか領民たちが代わる代わる訪れる。酒や手料理を持ち込むものも少なからずいて、ついには陽気な歌がはじまった。

 あたらしい婚約者たちは、ワイングラスを傾けながらその歌に聴き入った。
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