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夜は長くて、⑵

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 今は、彼の方が余裕がある。
 だけど、こっちにはまったく余裕がないから、彼の質問にちゃんと答えられない。

「アルファなんですか?」と

 本当は、イエスでもあり、ノーでもある。
 彼が言うように、本当のベータなら、フェロモンの香りはまったくわからないはずだから。

 でもそう言って、完全なアルファでもない。
 誰かに、いいとこ取りでうらやましいと、言われたことがある。
 そんなもんじゃない。どちらにも、なることができず、アルファとして生きることもできず、ベータにもなりきれない。

 宙ぶらりんの、自分がいるだけだ。

 たまに、どこからかフェロモンが匂うことがあった。だが、真性のアルファのように、誘われることはなかった。
 かと言って、フェロモンがわからないわけではない。
 いいように使われた、自分がいただけだ。


 彼が項を気にしていたから、そういうことなのだろう。
 そこまでの衝動はない。だからこそ、不完全なのだけど。

 しゃべっている時に、項に手を当てていたから、そういうことだと思う。
 それに、オメガには、項は生命線でもある。それぐらいは僕にわかる。

 だからこそ聞きたかったのだと思う。
 こんな、ふわついた状態で、言いたくはない。真面目に向き合って、彼に告げたい。
 こんな自分でも、かまわないかと。

 もし嫌だと言っても、離れられる自信は、あまりない。

 いつの間にか、彼は僕の顔をじっと見ていた。

 そういえば、彼に聞きたいことがある。
「僕の香りはわかりますか?」

 彼にとって、僕のフェロモンはどんな香りなのだろう?
 それを聞いてみたかった。できるなら、彼にとっても、いい香りであって欲しいから、それを聞きたかった。


 彼に聞けば、できるだけ気にしないようにしてたみたいで、聞いたとたんに、香りがわかったようだった。

 彼もなんだか、トロンとしてくる。
 やっぱり、発情期は完全に終わってないんだな。
 あの正気じゃない時の、彼のように見える。

 こうなってしまえば、彼は答えることは、できないだろう。それでもかまわない。重要なのは、彼に僕のフェロモンがわかると言うことだけだ。
 
 だから、
「いいですか?」

 と聞いてみた。抱きしめて、その先にも。僕のことを忘れないように。
 体に、刻みつけてしまいたい。彼に僕のフェロモンを忘れないように。


「……はい…」
 小さな声で、返事をしてくれた。

 だから、まだ夜は続く。
 彼に刻みつけて、彼が忘れないようにしようと。

 彼のそばにいて、温もりを感じたいと。
 






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