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0. プロローグ
しおりを挟むふと、目が覚めた。
隣にあったはずの温もりが感じられず、熱源があるであろう方向に腕を伸ばす。どれだけ腕を伸ばしても、手はただ空を切るだけだった。
ゆっくりと瞼を押し上げる。
夜の暗闇に慣れない瞳が、隣に寝ているはずの恋人の姿を探す。彼のベッドに寝ているのが私だけだということに気付くと、思わず失望のため息が洩れる。
彼が夜中に起き出すなんて、珍しい。
寝ぼけた頭でそんなことを考えながら、もう一度、瞼を閉じる。瞬時にやってくると思っていた眠気の波が引いてしまったのだと気付いたのは、数分後のことだった。
仕方ない、水でも飲もう。
諦めたように再び瞼を開くと、ベッドの上でゆっくりと身体を縦に起こした。布団から出た肩をゆっくりと冷たい空気が撫でる。最近はすっかり彼の体温が隣にあることに慣れきってしまったからか、余計に寒さを感じた。
そっとベッドから抜け出し、椅子の背にかけられた彼のパーカーを羽織る。扉を開き、まだ慣れない廊下をゆっくりと突き進む。
不意に、リビングのある方向から、低い声が聞こえてきた。テレビの音ではない、紛れもない彼の声だ。
誰かと電話で話しているのだろうか?
もしかして、仕事の電話?
こんな夜中に?
私の頭の中の疑問は、すぐ後に聞こえたもう一人の声に掻き消された。
誰と話してるの?
廊下を進む私の足が、早くなる。
そして、リビングに入った瞬間飛び込んできた光景に、私は息をのんだ。
こんな光景に出くわすなんて、一体誰が想像しただろうか。見開いた瞳に、私はただただその光景を焼き付けることしかできなかった。
驚愕の表情でその場に立ち尽くす私の存在に、二人も気付いたようだった。罰が悪そうに焦った表情を見せる恋人の隣にあるしたり顔のせいで、私はまるで頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。
仕組まれた。
そう気付いたときには、もう遅かった。
私の足元はもうすっかり、黒くてドロリとしたそれに絡めとられてしまったのだ。
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