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セバスチャンを取り囲む3人を、遠くからじっと見つめる。みんなかわいくて、美人で、男の人をその気にさせるのがとっても上手そう。みんな自分に自信があって、自分をどう相手に見せればよいのかを熟知している。高校生とは、もう違う。女子じゃなくて、女性だ。
そんな3人に囲まれても動揺せず、余裕な笑顔を見せているセバスチャンは、きっとこの状況を楽しんでいる。
いつの間にかギリリと握りしめていたソファの端をそっと解放して、私はため息をつきながら天井を見つめた。
なぜだか、これ以上彼らのやり取りを見ていたくなかった。
心と頭を不安と怒りの入り混じった独特の感情が占拠する。きれいじゃない、醜い、ドロドロとした感情。驚くべきスピードで心を侵食してくるこれは、なんとも不快だ。黒板を爪でひっかく音の方がましに思えるぐらい。
これは全部、セビーのせいだ。
私にこんな思いをさせるなんて、全部彼に責任がある。そう、悪いのは向こうで私じゃない。
どんなに私が行けと背中を押したって、行くべきじゃなかったのよ。私のファーストキスを奪ったばかりなんだから、誰に何と言われようが、私の隣にいるべきだったのに。私を大切に思っていると言うのなら、私を特別だというのなら、私が唇を尖らせるその仕草が好きだと言うのなら、絶対に、絶対に行くべきじゃなかった。
今、彼と一緒に居るべきなのは私なのに、どうしてセバスチャンはあの人たちと笑っているの?
ついさっきのキスなんて、まるでなかったみたいに平然としているのが、すごくむかつく。
先ほどのキスを忘れて欲しいと言ったのは、このためだったの?
キスのことを誰にも言うなと口止めしたのは、他の女の子と平然といちゃつくためだったの?
頭の中をぐるぐるとマイナスの思考が渦巻く。
経験したことのない感情の渦に、ただただ翻弄されていく。
「大丈夫か?」
いつの間にか戻ってきていたお兄ちゃんが、レモネードのカップを私に差し出す。それを迷いなく受け取ると、そのまま大きな一口を喉の奥に押し込む。甘酸っぱいはずのレモネードの酸味がやたらと喉に突き刺さる。
「セブは……あそこか。なるほどな」
セバスチャンのために持ってきたビールを持ったまま、お兄ちゃんは先ほどまで彼が座っていた空間に腰を下ろした。セバスチャンの方が体格が大きいせいか、お兄ちゃんが彼の座っていた位置に座ってもいまだに彼の座り跡がソファーには残っている。
その残像を頭から追い出すように、私はお兄ちゃんの肩に頭を預けて目を閉じた。フーっと息を吸い込んで、セバスチャンのコロンとは違う、家の匂いで肺を満たす。いつもなら安心できるはずの匂いが、妙に空しい。
「まあ、セブがただセブしてるだけなんだから、あんまり気にするなよ」
そう言いながら、お兄ちゃんは私の背中を優しくさする。慰めのつもりかもしれない言葉は、私の気持ちをちっとも落ち着かせてくれない。
「……大学じゃあいつもあんななの?」
静かに問いかけながら、胃の奥がズンと沈むのを感じた。
3年間。
二人が高校を卒業して大学に進学してからの3年間は、私にとって初めて二人と離れ離れになった時でもあった。
ここアナーバーとトラバースは車で4時間の距離だから、二人ともしょっちゅう地元に戻っては来ていたけれども、毎日顔を突き合わせるのが当たり前の日々とは違っていて。だからこそ、二人と同じ大学に入って一緒の時間を過ごせるのを楽しみにしていた。
けれども、私がここに入学するまでの3年間で作り上げてきた世界が、二人にはある。
その3年間の壁を、今まざまざと突き付けられているような気がする。
セバスチャンは昔から人気者で女の子からモテてはいたけれども、今じゃあこうやって女性に囲まれて愛嬌振りまくのが、当たり前みたい。まるで、大人の男の人みたいに。私が二人を恋しがっていた間、彼はこうやって女性に囲まれて過ごしていた。いったい何度、彼は2階で過ごしたんだろう。それが、私の知らない大学生のセバスチャン。
「まあ、セブはスタリオンズの顔で4番バッターだし、大学野球界でも注目されてるスラッガーだからな。それだけでも女子の注目を集めるには十分だ。ましてや、あの体格に顔とくれば……」
お兄ちゃんの言葉を聞きながら、フン、と鼻を鳴らして私は再びレモネードをがぶ飲みする。
「なんだ? 気になるのか?」
悪戯っぽい目で私を見下ろすお兄ちゃんを、私は軽くにらみ返す。
「なんで私が気にしないといけないわけ? 私はセビーにとって、ただの『親友の妹』なんだよ? セビーがどれだけモテようが、気にするわけないじゃない」
再びフン、と鼻を鳴らしてレモネードを煽る私を見つめながら、お兄ちゃんは小さく首を振った。
「気になってないって、ただ自分に言い聞かせようとしてるだけに聞こえるぞ」
お兄ちゃんは背もたれに肘をつくと、優しい瞳で私を見下ろした。
「別に、気にしていいんだよ。気になってるって、認めていい。それがジャスの素直な感情なら、ただそう言えばいい。もっと自分の気持ちに素直になっていいんだぞ」
何気ないことのようにお兄ちゃんが言ったその言葉は、私を戸惑わせるのに十分だった。
マークの奴、また俺の席に座りやがった。
思わず握りしめそうになった拳をゆっくりと開きながら、先ほどから繰り広げられている会話に適当な相づちを打つ。マークが来るまではミニーの意識は完全に俺にあったはずなのに、それをいともたやすくアイツは奪い去っていく。
挨拶だけしてすぐに戻ると言ったのに、戻らなかった俺への罰なのだろうか。けれども、こいつらと話している間にミニーがやきもちを焼いたみたいにジトっとこちらを見る視線があまりにも快感すぎて、止められなかった。いつも嫉妬するのは俺ばかりだったから、その初めての視線に妙に興奮して酔いしれずにはいられなかった。
そんな3人に囲まれても動揺せず、余裕な笑顔を見せているセバスチャンは、きっとこの状況を楽しんでいる。
いつの間にかギリリと握りしめていたソファの端をそっと解放して、私はため息をつきながら天井を見つめた。
なぜだか、これ以上彼らのやり取りを見ていたくなかった。
心と頭を不安と怒りの入り混じった独特の感情が占拠する。きれいじゃない、醜い、ドロドロとした感情。驚くべきスピードで心を侵食してくるこれは、なんとも不快だ。黒板を爪でひっかく音の方がましに思えるぐらい。
これは全部、セビーのせいだ。
私にこんな思いをさせるなんて、全部彼に責任がある。そう、悪いのは向こうで私じゃない。
どんなに私が行けと背中を押したって、行くべきじゃなかったのよ。私のファーストキスを奪ったばかりなんだから、誰に何と言われようが、私の隣にいるべきだったのに。私を大切に思っていると言うのなら、私を特別だというのなら、私が唇を尖らせるその仕草が好きだと言うのなら、絶対に、絶対に行くべきじゃなかった。
今、彼と一緒に居るべきなのは私なのに、どうしてセバスチャンはあの人たちと笑っているの?
ついさっきのキスなんて、まるでなかったみたいに平然としているのが、すごくむかつく。
先ほどのキスを忘れて欲しいと言ったのは、このためだったの?
キスのことを誰にも言うなと口止めしたのは、他の女の子と平然といちゃつくためだったの?
頭の中をぐるぐるとマイナスの思考が渦巻く。
経験したことのない感情の渦に、ただただ翻弄されていく。
「大丈夫か?」
いつの間にか戻ってきていたお兄ちゃんが、レモネードのカップを私に差し出す。それを迷いなく受け取ると、そのまま大きな一口を喉の奥に押し込む。甘酸っぱいはずのレモネードの酸味がやたらと喉に突き刺さる。
「セブは……あそこか。なるほどな」
セバスチャンのために持ってきたビールを持ったまま、お兄ちゃんは先ほどまで彼が座っていた空間に腰を下ろした。セバスチャンの方が体格が大きいせいか、お兄ちゃんが彼の座っていた位置に座ってもいまだに彼の座り跡がソファーには残っている。
その残像を頭から追い出すように、私はお兄ちゃんの肩に頭を預けて目を閉じた。フーっと息を吸い込んで、セバスチャンのコロンとは違う、家の匂いで肺を満たす。いつもなら安心できるはずの匂いが、妙に空しい。
「まあ、セブがただセブしてるだけなんだから、あんまり気にするなよ」
そう言いながら、お兄ちゃんは私の背中を優しくさする。慰めのつもりかもしれない言葉は、私の気持ちをちっとも落ち着かせてくれない。
「……大学じゃあいつもあんななの?」
静かに問いかけながら、胃の奥がズンと沈むのを感じた。
3年間。
二人が高校を卒業して大学に進学してからの3年間は、私にとって初めて二人と離れ離れになった時でもあった。
ここアナーバーとトラバースは車で4時間の距離だから、二人ともしょっちゅう地元に戻っては来ていたけれども、毎日顔を突き合わせるのが当たり前の日々とは違っていて。だからこそ、二人と同じ大学に入って一緒の時間を過ごせるのを楽しみにしていた。
けれども、私がここに入学するまでの3年間で作り上げてきた世界が、二人にはある。
その3年間の壁を、今まざまざと突き付けられているような気がする。
セバスチャンは昔から人気者で女の子からモテてはいたけれども、今じゃあこうやって女性に囲まれて愛嬌振りまくのが、当たり前みたい。まるで、大人の男の人みたいに。私が二人を恋しがっていた間、彼はこうやって女性に囲まれて過ごしていた。いったい何度、彼は2階で過ごしたんだろう。それが、私の知らない大学生のセバスチャン。
「まあ、セブはスタリオンズの顔で4番バッターだし、大学野球界でも注目されてるスラッガーだからな。それだけでも女子の注目を集めるには十分だ。ましてや、あの体格に顔とくれば……」
お兄ちゃんの言葉を聞きながら、フン、と鼻を鳴らして私は再びレモネードをがぶ飲みする。
「なんだ? 気になるのか?」
悪戯っぽい目で私を見下ろすお兄ちゃんを、私は軽くにらみ返す。
「なんで私が気にしないといけないわけ? 私はセビーにとって、ただの『親友の妹』なんだよ? セビーがどれだけモテようが、気にするわけないじゃない」
再びフン、と鼻を鳴らしてレモネードを煽る私を見つめながら、お兄ちゃんは小さく首を振った。
「気になってないって、ただ自分に言い聞かせようとしてるだけに聞こえるぞ」
お兄ちゃんは背もたれに肘をつくと、優しい瞳で私を見下ろした。
「別に、気にしていいんだよ。気になってるって、認めていい。それがジャスの素直な感情なら、ただそう言えばいい。もっと自分の気持ちに素直になっていいんだぞ」
何気ないことのようにお兄ちゃんが言ったその言葉は、私を戸惑わせるのに十分だった。
マークの奴、また俺の席に座りやがった。
思わず握りしめそうになった拳をゆっくりと開きながら、先ほどから繰り広げられている会話に適当な相づちを打つ。マークが来るまではミニーの意識は完全に俺にあったはずなのに、それをいともたやすくアイツは奪い去っていく。
挨拶だけしてすぐに戻ると言ったのに、戻らなかった俺への罰なのだろうか。けれども、こいつらと話している間にミニーがやきもちを焼いたみたいにジトっとこちらを見る視線があまりにも快感すぎて、止められなかった。いつも嫉妬するのは俺ばかりだったから、その初めての視線に妙に興奮して酔いしれずにはいられなかった。
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