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Episode.2 君と再会、冒険の始まり
17話 死闘の終わり
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一瞬、世界が停滞したかのような錯覚に襲われる。
視界にぼんやりとした靄がかかり、頭の奥の方に痛みが生じる。
それは、即席で考え出した欠点だらけの魔法を改良することもなく行使した故に生じる反動。だが一刻も早くこの状況を打破するためには、多少の痛みや苦しみも許容するしかない。
――狙うは一点。殺人鬼が羽織っている上着の内側へと手を伸ばす。
精神、魔力、集中力。その三つが徐々に削がれるのと同時に、僕の頭の中で暴れ回っている痛みはどんどんと膨れ上がっていく。
「く……はぁっ」
ズキズキと痛む頭を掻き毟りながら、僕は必死に手を伸ばす。
届く。届くはずだ。――届いてくれ。
確信は見る見るうちに願望に変わっていく。
だがそれでも手を伸ばす。手が届くだけで、この死闘を終わらせることが出来るのだから。
そして手が何かに触れたと感じた瞬間、激痛によって遠退きかけていた僕の意識が急速に現実へと引き戻される。
今にも破裂してしまうかのような頭痛は和らいでいき、刻々と失われつつあった三つの''力''も少しづつ回復していく。
やがてまともに目が働くようになった頃、僕は『壁』の向こうにそれを見た。
「ぁ」
黒く鈍く輝きを放つ晶剣が二本、ミクト達の傍らに転がっていた。
「おい大丈夫かロトル――ってぅおい!?」
「うーん……多分、大丈夫」
乱暴に頭を振り、僕はミクトの問いかけに何とか答えを出す。
しかし、僕に向かって問いかけたはずの張本人からはなんの反応も無い。
いくら何でもそれはないだろう。相手の言葉を無視するという行動に文句を言うため、僕はミクト達の居るであろう場所に視線を巡らせる。
「ねえ」
「――――」
彼は小刻みに震えながら、腰を抜かして地べたに手をついていた。
何にそんなに震えを感じているのか。僕は思い当たる節を片っ端から探してみる。
そして、ふと思いついた。
「情けな」
「なんだよ! そりゃ驚くだろいきなり敵の持ってた武器が真横に一瞬移動してきたんだからそもそも」
「強がるなよ。別に責めるつもりは無い」
「情けないって言ったの誰だよ、おい!」
震えの原因は、僕が行使した魔法による状況の変化であった。しかし少し普通と違うことが起きただけで腰を抜かすとは、全く情けない友である。
僕は『壁』越しにミクトへと笑顔を向けてみせる。するとミクトも表情が少し穏やかになり、すぐ側でこちらのやりとりを見ていた少女も笑顔を見せた。
そこだけ切り取って見れば、ついさっきまで殺人鬼と戦っていて、現在進行形ですぐ近くで殺し合いが起きているとは到底想像もできないような光景。
しかしその光景は、先程までの状況で張りつめていた僕の心を少しだけ癒してくれた。
「んでもって、こっちもそろそろ決着がつく頃かなーなんて思ったり」
そう言って僕が殺人鬼と自称衛兵の殺し合いが行われている方向に振り返ると、ちょうどその瞬間に晶剣が粉々に砕け散った。
殺人鬼が懐に手を伸ばすも、そこにあるはずの晶剣は無い。
戸惑い、隙を見せた殺人鬼の横っ面に、自称衛兵の蹴りが直撃。そのまま殺人鬼は光の如き速度で吹き飛び、凄まじい勢いで木の幹に衝突する。殺人鬼はどうやら気絶してしまったらしく、その場に力無く崩れ落ちた。
「え、あれ死んでないよね? 大丈夫だよね!?」
「大丈夫だよ」
おびただしい量の血を流して倒れる殺人鬼を見て僕は思わずそう叫ぶが、その疑惑は即座に自称衛兵の言葉によって切り捨てられた。
「僕だってちゃんと手加減はしてるし、出来ているつもりだよ」
「そう、ですよね。さすがに殺したりはしない……しませんよね」
「それでもあまり時間は無い。早くこの『壁』とやらを解除しなくては」
「え。それってつまり」
僕が言おうとした言葉を封じ込むかのように、鋼が砕かれる甲高い音が森に響き渡る。
見れば、足元にあったはずの『強欲の晶剣』は今度こそ粉々に砕け散り、それと同時に僕らを分断していた『壁』も薄れて消えていった。
「これでひとまず、この場から『強欲の晶剣』は消え去った」
「えぇ、まぁ最悪の事態になることは防げたかと。ただ――ぁ」
僕自身の魔力の枯渇が――そう続けたかった言葉は出てこない。
それが言葉になる前に、僕の視界が揺らぐことで遮られたからだ。
「あ、あれ~……?」
頭から地面に倒れ、その瞬間意識が暗転する。
僕は深い眠りへと吸い込まれていった。
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予告なしでの一ヶ月ほどの更新停止、誠に申し訳ございません。
そしてその復帰回が短くてこれまたすみません。
不定期ながらも更新は続けていくつもりですので、今回の件は切り刻んで微塵切りにしてお湯で溶かした上で水に流していただくと幸いです。
これからもよろしくお願い致します。
視界にぼんやりとした靄がかかり、頭の奥の方に痛みが生じる。
それは、即席で考え出した欠点だらけの魔法を改良することもなく行使した故に生じる反動。だが一刻も早くこの状況を打破するためには、多少の痛みや苦しみも許容するしかない。
――狙うは一点。殺人鬼が羽織っている上着の内側へと手を伸ばす。
精神、魔力、集中力。その三つが徐々に削がれるのと同時に、僕の頭の中で暴れ回っている痛みはどんどんと膨れ上がっていく。
「く……はぁっ」
ズキズキと痛む頭を掻き毟りながら、僕は必死に手を伸ばす。
届く。届くはずだ。――届いてくれ。
確信は見る見るうちに願望に変わっていく。
だがそれでも手を伸ばす。手が届くだけで、この死闘を終わらせることが出来るのだから。
そして手が何かに触れたと感じた瞬間、激痛によって遠退きかけていた僕の意識が急速に現実へと引き戻される。
今にも破裂してしまうかのような頭痛は和らいでいき、刻々と失われつつあった三つの''力''も少しづつ回復していく。
やがてまともに目が働くようになった頃、僕は『壁』の向こうにそれを見た。
「ぁ」
黒く鈍く輝きを放つ晶剣が二本、ミクト達の傍らに転がっていた。
「おい大丈夫かロトル――ってぅおい!?」
「うーん……多分、大丈夫」
乱暴に頭を振り、僕はミクトの問いかけに何とか答えを出す。
しかし、僕に向かって問いかけたはずの張本人からはなんの反応も無い。
いくら何でもそれはないだろう。相手の言葉を無視するという行動に文句を言うため、僕はミクト達の居るであろう場所に視線を巡らせる。
「ねえ」
「――――」
彼は小刻みに震えながら、腰を抜かして地べたに手をついていた。
何にそんなに震えを感じているのか。僕は思い当たる節を片っ端から探してみる。
そして、ふと思いついた。
「情けな」
「なんだよ! そりゃ驚くだろいきなり敵の持ってた武器が真横に一瞬移動してきたんだからそもそも」
「強がるなよ。別に責めるつもりは無い」
「情けないって言ったの誰だよ、おい!」
震えの原因は、僕が行使した魔法による状況の変化であった。しかし少し普通と違うことが起きただけで腰を抜かすとは、全く情けない友である。
僕は『壁』越しにミクトへと笑顔を向けてみせる。するとミクトも表情が少し穏やかになり、すぐ側でこちらのやりとりを見ていた少女も笑顔を見せた。
そこだけ切り取って見れば、ついさっきまで殺人鬼と戦っていて、現在進行形ですぐ近くで殺し合いが起きているとは到底想像もできないような光景。
しかしその光景は、先程までの状況で張りつめていた僕の心を少しだけ癒してくれた。
「んでもって、こっちもそろそろ決着がつく頃かなーなんて思ったり」
そう言って僕が殺人鬼と自称衛兵の殺し合いが行われている方向に振り返ると、ちょうどその瞬間に晶剣が粉々に砕け散った。
殺人鬼が懐に手を伸ばすも、そこにあるはずの晶剣は無い。
戸惑い、隙を見せた殺人鬼の横っ面に、自称衛兵の蹴りが直撃。そのまま殺人鬼は光の如き速度で吹き飛び、凄まじい勢いで木の幹に衝突する。殺人鬼はどうやら気絶してしまったらしく、その場に力無く崩れ落ちた。
「え、あれ死んでないよね? 大丈夫だよね!?」
「大丈夫だよ」
おびただしい量の血を流して倒れる殺人鬼を見て僕は思わずそう叫ぶが、その疑惑は即座に自称衛兵の言葉によって切り捨てられた。
「僕だってちゃんと手加減はしてるし、出来ているつもりだよ」
「そう、ですよね。さすがに殺したりはしない……しませんよね」
「それでもあまり時間は無い。早くこの『壁』とやらを解除しなくては」
「え。それってつまり」
僕が言おうとした言葉を封じ込むかのように、鋼が砕かれる甲高い音が森に響き渡る。
見れば、足元にあったはずの『強欲の晶剣』は今度こそ粉々に砕け散り、それと同時に僕らを分断していた『壁』も薄れて消えていった。
「これでひとまず、この場から『強欲の晶剣』は消え去った」
「えぇ、まぁ最悪の事態になることは防げたかと。ただ――ぁ」
僕自身の魔力の枯渇が――そう続けたかった言葉は出てこない。
それが言葉になる前に、僕の視界が揺らぐことで遮られたからだ。
「あ、あれ~……?」
頭から地面に倒れ、その瞬間意識が暗転する。
僕は深い眠りへと吸い込まれていった。
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予告なしでの一ヶ月ほどの更新停止、誠に申し訳ございません。
そしてその復帰回が短くてこれまたすみません。
不定期ながらも更新は続けていくつもりですので、今回の件は切り刻んで微塵切りにしてお湯で溶かした上で水に流していただくと幸いです。
これからもよろしくお願い致します。
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