【完結】可愛そうなアリンコ聖女に可哀そうなキラキラ侯爵様が離縁したくないと泣きついてきたんだけど⁉ 【番外編あり】

水星 とも

文字の大きさ
37 / 47

37 私は悪魔に魂を売った 【SIDEカール神官長①】

しおりを挟む
急ぎ侯爵夫人アリーシアを、侯爵家の屋敷に連れ戻し、使用人に医者を呼ばせた。

眠っているだけだと聞いてほっとした。
何かあったらあいつが、何をするか分からない。

ずるずると物を引きずる音がする。
ドアを開け入ってきたのは、満身創痍のリヒター侯爵家当主、魔族レオンハルトだ。

「おい! 大丈夫か?」

「ふふ、魔族はそう簡単には死なない」

そう言うけど、目は落ちくぼみ火傷だらけで、やせ細ったその身体は歩くのもやっとだ。

肩を貸してやり、アリーシアの側に連れていってやる。
赤黒くやけどをした指が、そっと彼女の頬にふれる。

「くくくっアリーシアに触れられるぞ!」

ここで、涙を流しながら嬉しそうに微笑めば、私の愚かな行為も救われただろう。

だがヤツの表情は、性格そのままの悪笑。


「私にこんな嘘をつかせてお前は満足か!」

こんな純真で、優しい娘に。

「満足だ。お前は良い仕事をした」

見た目だけ若く美しい、老獪な魔族は笑う。



この美麗な魔族が突然訪ねてきたのは、神官長に就任してすぐのことだった。


愚鈍な王、ドレスや宝飾品にしか興味のない王妃、賭け事と女に夢中な王太子。
女神ソフィアの加護で長く自然災害のない、平和なこの国を治める王家は腐りきっていた。

そんな王家に危機感を覚える貴族と、王家におもねり甘い汁を吸おうとする貴族、そしてそれを傍観する貴族。
その3派が3つ巴の争いを始め、国は傾きかけていた。

そんな中、若い私は知らぬ間に貴族派に持ち上げられ、反王家派と見なされてしまった。
父王とは疎遠になり、王子としての立場を追われ、神殿の神官長に据えられてしまったのだった。

女神神殿の聖女は全て女性のため、神官長職は代々高位貴族の令嬢が務めており、王族、しかも男の私は初めての就任。
王族が就任するなら『まずはアレクサンドラでは?』と妹王女の話をしたが、あれは外交のコマだからと、父王は聞く耳を持たなかった。

女社会での仕事はまぁそれなりに苦労はしたが、神殿という外の世界に出て、改めて王家の腐敗ぶりに王族として恥ずかしく、憤りを感じていた。

そこで声をかけてきたのは、リヒター侯爵レオンハルトだ。

「私に協力しろ。そうすれば、あのダニ3匹を消してやろう」

ダニ? 王と王妃? 王太子もか?

「消す? 殺すということか?」

それはいくらなんでも……だがこの美貌の魔族にはそれができるのか?

「お前は王になりたいか?」

「いや、ただ、この沈む国をなんとかしたいだけで……」

憂いているのはこの国のことで、あいつら3人を殺したところで、国を救えるのか?

「ならお前が王になればいい。私が助けてやろう」

「私が王に? 私には無理だ」
そんな器ではない。

「ふん……まぁいいだろう。しばらく考えておけ。だが、私に協力しろ」

「どんな協力をしろと」

「……小さな嘘をつくだけだ。ほんの小さな嘘を」



そして私はその嘘はついた。
アリーシアに。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

処理中です...