12 / 12
第12話 もう涙はいりませんわ
しおりを挟む
――帝都に陽が昇る日。
ベルナールの黒い魔力が渦を巻き、議会地下を揺るがす。
アレクとわたくしは、吹き付ける殺気の中で立ち向かっていた。
「愚かな……! 二人で私に勝てると思うか!」
ベルナールが杖を振り下ろすと、黒獅子の魔力が咆哮しながら襲いかかる。
その衝撃は石壁を砕くほどの威力。
あらゆるものを飲み込み、破壊し尽くす闇の奔流。
「エイダ……来い!」
「はいっ!」
アレクの剣が閃き、わたくしの剣がその隙を補う。
二人の剣筋が交わり、魔力の大波を真正面から断ち切った。
火花と黒い光が入り混じり、視界が白く染まる。
「く……っ!」
「まだですわ!」
わたくしはアレクに守られてばかりではいられない。
彼と共に闘うために剣を取ったのだから。
「あなたを……帝国の闇に沈ませたりしませんわ!」
剣を構え、一歩、また一歩とベルナールへ近づく。
闇の衝撃が身体に突き刺さるように痛いけれど、足取りは止まらなかった。
「アレク団長……! エイダ嬢……!」
封鎖された扉の外から、騎士たちの声が響く。
だが扉は魔力に封じられ、まだ破れない。
「二人を援護しろ!!」
「封鎖魔術を解除しろ!!」
騎士たちの声援が伝わってくる。
その声が、わたくしの背を押した。
「エイダ……今だ、合わせるぞ!」
「はい!」
アレクが低く構え、わたくしがその横に並ぶ。
二人の刃先がぴたりと揃うのが分かった。
「これで終わりだ……ベルナール!!」
「トドメです!!」
二人の剣が同時に走り、光が爆ぜた。
白い刃が闇を裂き、黒獅子の魔力が悲鳴を上げて消える。
「な……ば、馬鹿な……!! 議会を……この私を……!」
ベルナールが後退し、杖を落とす。
その瞬間、アレクが飛び込み――
「終わりだ、ベルナール・グランツ!」
鋭い一閃が黒い外套を裂き、魔術を封じる。
ベルナールは壁に叩きつけられ、呻きながら崩れ落ちた。
「こ……れで……帝国は……」
「あなたの支配など続きませんわ。帝都は、わたくしたちの手で守っていきます」
わたくしの言葉に、ベルナールは悔しげに歯を噛み――
そして力なく目を閉じた。
封鎖の魔術が解け、騎士たちが駆け込んでくる。
「アレク団長! ご無事ですか!?」
「エイダ嬢も……本当に……!」
「無事だ。……みんな、よく来てくれた」
アレクは騎士団長としての厳しい顔に戻ったが、わたくしを見る瞳だけは優しい。
「エイダ、君がいなければ勝てなかった。本当に……ありがとう」
「わたくしこそ……あなたと一緒に戦えて、誇りに思いますわ」
アレクがそっとわたくしの手を取り、温かく包み込む。
騎士たちも、静かに二人を見守っていた。
戦いが終わり、議会は混乱の中にあった。
しかし、ベルナールの悪事の証拠が押収され、帝都は少しずつ正常を取り戻しつつある。
夕暮れの帝都。
騎士団の中庭で、アレクがわたくしを呼び止めた。
「エイダ」
「はい、アレク団長……いえ、アレク」
彼が一歩、わたくしに近づく。
胸が跳ねる。
「俺は、これまで……帝国の剣として生きてきた。だが今は、違う」
「違う……?」
「これからは、君のために剣を振りたい。君と生きていきたい。エイダ……俺と、一緒に歩んでくれ」
瞳が揺れた。
胸が熱くなり、頬が赤く染まる。
「アレク……わたくしも……あなたの隣を歩きたい。ずっと……あなたといたいですわ」
アレクが微笑み、そっとわたくしを抱き寄せた。
広い胸に顔を埋めると、涙がこぼれた。
「もう離さない。君は俺の光だから」
「アレク……」
わたくしたちは夕陽の中、そっと唇を重ねた。
戦場の炎よりも、宝石よりも、あたたかい――
そんな幸福が胸いっぱいに広がる。
ベルナールの統治が崩れ、帝国は新たな道へと進む。
薬物密輸の根源は断たれ、混乱も収まりつつある。
そして――
アレク・ブラウンとわたくしエイダ・エーデルワイスは、帝都で最も信頼され、愛される“光の騎士”として知られていく。
わたくしたちが歩む未来は、これからさらに色づいていく。
「アレク、今日の訓練はどうしますの?」
「もちろん、エイダの剣筋を見たい。……あと夕食は俺が作る」
「ふふっ、楽しみにしていますわ」
帝都に、新しい風が吹き始めていた。
これは――
侯爵令嬢と騎士団長が、闇を断ち、愛を手にした物語。
もう涙はいりませんわ。
- 完 -
ベルナールの黒い魔力が渦を巻き、議会地下を揺るがす。
アレクとわたくしは、吹き付ける殺気の中で立ち向かっていた。
「愚かな……! 二人で私に勝てると思うか!」
ベルナールが杖を振り下ろすと、黒獅子の魔力が咆哮しながら襲いかかる。
その衝撃は石壁を砕くほどの威力。
あらゆるものを飲み込み、破壊し尽くす闇の奔流。
「エイダ……来い!」
「はいっ!」
アレクの剣が閃き、わたくしの剣がその隙を補う。
二人の剣筋が交わり、魔力の大波を真正面から断ち切った。
火花と黒い光が入り混じり、視界が白く染まる。
「く……っ!」
「まだですわ!」
わたくしはアレクに守られてばかりではいられない。
彼と共に闘うために剣を取ったのだから。
「あなたを……帝国の闇に沈ませたりしませんわ!」
剣を構え、一歩、また一歩とベルナールへ近づく。
闇の衝撃が身体に突き刺さるように痛いけれど、足取りは止まらなかった。
「アレク団長……! エイダ嬢……!」
封鎖された扉の外から、騎士たちの声が響く。
だが扉は魔力に封じられ、まだ破れない。
「二人を援護しろ!!」
「封鎖魔術を解除しろ!!」
騎士たちの声援が伝わってくる。
その声が、わたくしの背を押した。
「エイダ……今だ、合わせるぞ!」
「はい!」
アレクが低く構え、わたくしがその横に並ぶ。
二人の刃先がぴたりと揃うのが分かった。
「これで終わりだ……ベルナール!!」
「トドメです!!」
二人の剣が同時に走り、光が爆ぜた。
白い刃が闇を裂き、黒獅子の魔力が悲鳴を上げて消える。
「な……ば、馬鹿な……!! 議会を……この私を……!」
ベルナールが後退し、杖を落とす。
その瞬間、アレクが飛び込み――
「終わりだ、ベルナール・グランツ!」
鋭い一閃が黒い外套を裂き、魔術を封じる。
ベルナールは壁に叩きつけられ、呻きながら崩れ落ちた。
「こ……れで……帝国は……」
「あなたの支配など続きませんわ。帝都は、わたくしたちの手で守っていきます」
わたくしの言葉に、ベルナールは悔しげに歯を噛み――
そして力なく目を閉じた。
封鎖の魔術が解け、騎士たちが駆け込んでくる。
「アレク団長! ご無事ですか!?」
「エイダ嬢も……本当に……!」
「無事だ。……みんな、よく来てくれた」
アレクは騎士団長としての厳しい顔に戻ったが、わたくしを見る瞳だけは優しい。
「エイダ、君がいなければ勝てなかった。本当に……ありがとう」
「わたくしこそ……あなたと一緒に戦えて、誇りに思いますわ」
アレクがそっとわたくしの手を取り、温かく包み込む。
騎士たちも、静かに二人を見守っていた。
戦いが終わり、議会は混乱の中にあった。
しかし、ベルナールの悪事の証拠が押収され、帝都は少しずつ正常を取り戻しつつある。
夕暮れの帝都。
騎士団の中庭で、アレクがわたくしを呼び止めた。
「エイダ」
「はい、アレク団長……いえ、アレク」
彼が一歩、わたくしに近づく。
胸が跳ねる。
「俺は、これまで……帝国の剣として生きてきた。だが今は、違う」
「違う……?」
「これからは、君のために剣を振りたい。君と生きていきたい。エイダ……俺と、一緒に歩んでくれ」
瞳が揺れた。
胸が熱くなり、頬が赤く染まる。
「アレク……わたくしも……あなたの隣を歩きたい。ずっと……あなたといたいですわ」
アレクが微笑み、そっとわたくしを抱き寄せた。
広い胸に顔を埋めると、涙がこぼれた。
「もう離さない。君は俺の光だから」
「アレク……」
わたくしたちは夕陽の中、そっと唇を重ねた。
戦場の炎よりも、宝石よりも、あたたかい――
そんな幸福が胸いっぱいに広がる。
ベルナールの統治が崩れ、帝国は新たな道へと進む。
薬物密輸の根源は断たれ、混乱も収まりつつある。
そして――
アレク・ブラウンとわたくしエイダ・エーデルワイスは、帝都で最も信頼され、愛される“光の騎士”として知られていく。
わたくしたちが歩む未来は、これからさらに色づいていく。
「アレク、今日の訓練はどうしますの?」
「もちろん、エイダの剣筋を見たい。……あと夕食は俺が作る」
「ふふっ、楽しみにしていますわ」
帝都に、新しい風が吹き始めていた。
これは――
侯爵令嬢と騎士団長が、闇を断ち、愛を手にした物語。
もう涙はいりませんわ。
- 完 -
20
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係
紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。
顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。
※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
【完結】断罪された占星術師は、処刑前夜に星を詠む
佐倉穂波
恋愛
星は、嘘をつかない。嘘をついていたのは——わたし自身だった。
王宮の卜部に勤める十七歳の占星術師リュシア・アストレアは、ある日、王太子妃候補の婚儀に「凶」の星を読んだ。星が告げるままに報告したに過ぎなかったのに、翌朝には牢に入れられていた。罪状は「占星術を用いて王家を惑わせ、王太子暗殺を画策した」こと。
言いがかりだ。
しかし、証明する術がない。
処刑は五日後の朝と告げられ、リュシアは窓もない石の牢に閉じ込められた。
そこで彼女は気づいてしまう。占いが外れ続けていた本当の理由に。
道具も星図もない暗闇の中で、生まれて初めて、星の声を正しく聞いた。
瞼の裏に広がる夜空が、告げる。
【王太子が、明後日の夜に殺される】
処刑前夜に視た予言を、誰が信じるというのか。それでも、若き宰相クラウス・ベルシュタインは深夜の牢へ足を運び、断罪された少女の言葉に耳を傾けた。
二人の出会いは、運命をどう変えていくのかーー。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完結】義父を亡くし、屋敷を追い出された私に残されたもの
しきど
恋愛
フォーカス・リルフォード男爵が──。
──お義父様が、亡くなりました。
突然の出来事に頭が真っ白になってしまった私でしたが、二人の義姉はその遺産をどう分配するかで醜く言い争ってしまいます。
しかし、執事がお義父様の遺言書を持ってきました。そこには私達三姉妹へ分割される遺産の内容がはっきりと記されていたのです。
長女には領地と屋敷を。次女には子爵の婚約者を。そして三女、私には……犬のイルを与える?
遺産分配と呼ぶにはあまりに不平等な内訳に、二人の義姉は大笑い。私は何も主張できませんでした。
言われた通り、イルと一緒に屋敷を出ていきます。これからは私がイルを護らないと。幼い頃からずっと友達の彼と一緒なら、心細くはありません。
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる