どうして振り向いてくれないの英雄王さま

夜桜

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婚約破棄

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「婚約破棄すべきだね」

 城伯であり、幼馴染のフェルナンドはそう助言をくれた。

 わたしは、半年前に婚約をした帝国の英雄王キュリオスとの関係をどうするべきか、ここ一週間ほど悩んでいた。

 それをフェルナンドに話して、相談に乗って貰っていた。

 キュリオスは、帝国を大戦争から救った英雄の中の英雄――英雄王。その人気は絶大で、何万という女性から人気があった。でも、彼はわたしを選んでくれた。なぜ、わたしなのか分からなかったけど、でも、憧れの人から選んでもらって、わたしは嬉しかった。

 婚約も交わして順風満帆だと思っていた。

 けれど。


 彼は――キュリオスの態度が急に冷たくなった。


 どうして? そう聞いても彼は口を噤んだ。もう愛していないの? その答えも返ってこなかった。

 だから、わたしは一度幼馴染のフェルナンドに聞いてもらっていた。


 セルダ家の長男フェルナンドとは、長い付き合い。きっと良い答えが得られるかなと思ったけど……そうだよね、婚約破棄しかないのかな。

「フェルナンド、わたしはキュリオス様を愛しています。でも、最近の彼は氷のように冷たい……きっと、わたしを見放しているのかも」

「ああ、これはあくまで噂だけどキュリオスには、昔別れた女性がいるらしいよ」

 それを耳にして、わたしはショックを受けた。そうだったんだ。そんな秘密はないとおっしゃっていたのに……やっぱり、隠し事があったんだ。

 その瞬間、わたしは裏切られたような気持ちになり、婚約破棄を決意した。


 ◇


 ――後日、わたしはお城の庭にキュリオスを呼び出した。


「……なんだい、エレナ」
「キュリオス様、最近、ぜんぜん話してくれませんよね。目も合わせてくれませんし……どうしてなんですか」

「……そ、それは」


 どうして答えてくれないの。
 どうして目を合わせてくれないの。

 ……やっぱり、フェルナンドの噂は本当なんだ。

 ようやく答えが分かって、わたしは涙を流した。


「ひどい……わたしは、こんなに愛しているのに! もういいです、キュリオス様。他に好きな方がいるのでしょう? いっそ、そうハッキリ申し上げていただける方が気が楽です。残念ですが、婚約破棄してください」

 わたしは、背を向けた。

「エレナ!」

 キュリオスの言葉はもう聞きたくない。


 ◇


 ――三日後。

 わたしは、キュリオスと別れて、幼馴染のフェルナンドのお城でお世話になっていた。彼は優しくて、一緒にお料理をしたり、庭に割いている花のお世話をしたり楽しい日々を送れていた。

 そんなある日。


「やっと突き止めたぞ、エレナ!」


 少し強引に庭へ入ってくるキュリオスの姿があった。


「キュ、キュリオス様……!」
「ようやく見つけたよ。こんな場所で暮らしていたなんてね。そうか、城伯のフェルナンドの城に住んでいたんだね」

「もう関係ないでしょう。キュリオス様、帰ってください」

「エレナ、聞いてくれ。僕は君を愛している!」
「えっ……」


 突然、そう打ち明けられて、わたしは動揺する。どうして突然キュリオス様が現れ、そんな風に言ってくれたのか……よく分からなかった。

 だって、もう彼はわたしを愛していないはずでは……。

 隣にいたフェルナンドがわたしを庇うように前へ出る。


「キュリオス、いくら英雄王とはいえ、勝手に庭へ入られては困るよ」
「すまない。だけど、君の方こそ卑劣じゃないかな」
「なんだと……」

 キュリオス様は、フェルナンドをにらむ。
 どういうこと?

「フェルナンド、お前は僕に『エレナは浮気している』と話した。だから様子を見ていた。でも、それは違っていた。三日前、エレナははっきり言った。僕を愛しているとね!」


「……っ!」


 え、まさか……そんな、フェルナンドがそんな事を?


「フェルナンド、どういうことですか! だって、キュリオス様は……昔別れた女性がいるって」


 問い詰めると、フェルナンドは嫌な汗を流して自白した。


「……キュリオスは潔白さ。コイツには、恐ろしいほど何もない。過去も現在も、ただ……エレナ、君だけを愛しているようだ。あぁ……認めるしかない。俺の愛なんて到底及ばないし、敵わない――それでも」


「なに、なにを言っているの……フェルナンド!」


「俺は……エレナ、君を愛している。だって、子供の頃からずっと仲良しなんだよ。君と思いを添い遂げたいとさえ考えていたんだけど……でも、英雄王には敵わなかった。いいかい、エレナ……彼、キュリオスとは子供の頃に同じ学園に通っていたんだ」

「え……」

「その時、エレナを巡って喧嘩してさ。どっちがエレナと結婚するかって揉めたんだ。そうして時が経って……キュリオスは英雄王になった」

 それから、フェルナンドは、わたしとキュリオス様の婚約を耳にして許せなかったと。そこで、キュリオス様には『わたしが浮気している』と、わたしには『キュリオス様に昔別れた女性が』と嘘をついて・・・・・別れさせようとしたんだ。

 それが真相。
 なんてことを……。


「では、キュリオス様も騙されて?」
「ああ、僕はエレナの気持ちが一瞬分からなくなってしまっていた。そこのフェルナンドに惑わされて……だから、あんな態度を。自身が愚かっただよ……すまない」


 キュリオス様のせいではない。
 悪いのはフェルナンド。
 別れさせようとして……許せない。


「フェルナンド、よくも騙しましたね!」
「……わ、悪かった」

「悪かった!? それだけで済まされると思っているの!?」


 近場にあった水溜の瓶を持ち上げ、フェルナンドに浴びせた。泥も混じっているから、汚れが落ちにくい。


「これくらいの罰は受けてもらいますよ」
「……あぁ、びしょびしょだ。……泥臭い。……でも、キュリオスとは別れたんだよな。なら、俺の城にいてくれよ」

「は? フェルナンド、貴方なんかと一緒に住むわけないでしょ! 貴方のような最低な幼馴染は、幼馴染なんかではありません。もう二度と関わらないでください」

 フェルナンドから背を向け、わたしはキュリオス様の元へ。

「エレナ、僕の元へ戻ってきてくれるのかい?」
「はい、わたしはキュリオス様を愛していますから」
「僕もだよ、エレナ」


 ようやく抱きしめてもらえて、わたしは涙が出るほど嬉しかった。


 あれから、フェルナンドはひっそりと没落貴族として、その地位を剥奪された。今や、どこで何をしているか分からない。


 わたしは、またキュリオス様のお城へ戻った。


「キュリオス様、騙されたとはいえ……わたしも粗相を」
「いや、僕も一瞬でも疑ってしまって猛省している。だから、この指輪で許してくれないか」

 キラキラと光る婚約指輪。
 それを指にめてもらった。


「わぁ、綺麗。素敵……」
「エレナ、君を愛しているよ」
「……はい、嬉しいです」


 その後、毎日を幸せに過ごした。
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