1 / 1
婚約破棄
しおりを挟む
「フィセル、すまないが……婚約破棄してくれ」
「……残念です」
「なんだ残念で済ますのかい。もっと縋ってくるかと少しは期待したんだけどな」
最初はそう思った。
けれど、今のわたしはそれほど公爵様に未練はなかった。その理由に、城伯令嬢としてこの無駄に広い『城塞』を維持していかなければならないし、たくさんの仕事もこなさないといけなかった。
それともう一つ。
ルークがメイドと肉体関係にあると噂が流れていた。それを知ったわたしは、彼に不信感を抱いていた。
だから余計に距離が広まってしまっていた。もう、彼と一緒にいるのは無理と判断。だから、もう未練はなかった。
「さようなら、ルーク様」
「そうか。最初の頃は良い関係になれると思ったんだけどね、本当に残念だ」
彼はそうつぶやいて、背を向けた。
わたしは見送らず、城塞の仕事へ戻った。
【一ヶ月後】
独り身となったわたしは、いつものように城塞を守っていた。けれど、久々に公爵が現れた。随分とやつれて。
「……ルーク」
「や、やあ……フィセル」
「よく顔を出せたものですね」
「……す、すまない。一か月前の婚約破棄だが、撤回させてくれ」
「今更? あのですね、もうわたしと貴方の関係は終わっているのですよ? 分かっているのですか?」
「あ、ああ……あの時はどうかしていた。俺が間違っていたんだ。頼む! もう一度、俺にチャンスをくれ! この城塞にいさせてくれないかい!」
まさかの土下座。
そこまで追い詰められているの。
いったい、彼に何があったの。
それはそれで気になった。
「……分かりました。ですが、婚約破棄されたのはそちらですよ。それを一ヶ月後に現れていきなり撤回とか……到底信じられません」
「だ、だろうな。許してくれとは言わない……最初は信頼回復に努めたい」
それは本音なの?
もし、反省してもう一度、わたしと運命を共にしたいというのなら……少しは考えてあげなくもなかった。でも、彼にはメイドとの関係もあったらしいし……。
見極める必要がありそうね。
「いいでしょう、情けです。住んではいいですよ」
「おぉ! フィセル、本当にすまない」
その後、一週間、二週間と過ぎ――わたしは、油断せず彼を監視し続けた。そして、その間にも意外な事実が判明した。
「ローナ、彼はどう?」
わたしは、メイドのローナに彼の事を聞いた。
「ええ、フィセル様。彼は……彼の家は、違法薬物の犯罪に手を染めていたようです。そのせいで爵位を剥奪され、権力を失い……何もかもを失ったようで、それでフィセル様を頼ったようです」
……なんて愚か。
同情すらできない。
「もうひとつ聞きたいわ。貴女、彼と関係を持っていたの?」
「……公爵様が出ていく前ですよね。そうですね……無理矢理襲われた――と、言うのが正しいでしょう。私は抵抗できなかった……毎日、毎日酷い事を…………思い出すだけで涙が止まりません……」
そうだったの。
気づけなかったわたしの責任でもある。でも、それ以上にルークが許せない。
メイドを傷つけ、更に犯罪だなんて……。
救いようのないドクズだわ。
――三日後。
ルークを大広間に呼び出した。
「……な、なんだい、フィセル。二人きりで話って?」
「ルーク、ひとつだけ確認させて下さい」
「あ、ああ」
「まともに生きる気はあるんですね?」
「当たり前だ。俺は君を愛している……! これからもずっと一緒だ。結婚して、子供だって作る。幸せな家庭を築こう」
「それは嬉しいですわ」
「おお、では……!」
「でもお断りさせていただきます!」
「な……何故だ!!」
わたしは指を鳴らし、合図をする。
すると部屋の奥からドタドタと複数の男たちが現れた。その中にローナの姿も。
「理由は簡単です。貴方が犯罪者だからですよ」
「なっ!! 違う! 俺は悪くない!!」
「悪くない? 人様のメイドを傷つけ、しかも犯罪に手を染めて……もう公爵ですらない男の言葉なんて信じられません」
「…………く! 知って、いたのかフィセル! いやだが、たかがメイドじゃないか! 少し摘まむくらいいだろう!」
なんて最低な男。
もう呆れて物も言えなかった。でも。
「違法薬物の事も全部知っているのですよ。観念なさい!!」
「く…………くううううううううう……ああああああああああああああ!!」
突然発狂するルーク。
今にも暴れそうだった。だけど、こちらは騎士が四人。勝てるはずもなかった。更に付け加えると――もう一人強力な助っ人がいた。
それは……
この城塞を管理するトップ。
「元公爵、貴様は裁判からも逃げた大罪人だ……処刑する」
「……あ、あなた様は……セラギネラ大公……」
事実を知り、がくっとうなだれるルーク。もう彼に逃げ道はない。きっとこの城塞に逃げてきて、わたしと結婚して何とか密かに暮らしていこうと目論んでいたのだろうけれど、それは失敗に終わった。
ルークは連行された。
「……さようなら、ルーク」
その後、わたしは美青年であるセラギネラ大公と恋に落ちた。彼は、元からわたしに気があったらしく――けれど、公爵の存在があったから一歩引いていたという。でも、今回の事があって思い切って婚約から始めたいと言って下さった。
わたしは、一つ返事した。
「セラギネラ大公、わたしで良いんですか?」
「フィセル、君はこの城塞をずっと守ってくれたじゃないか。あの公爵の不正も暴いてくれた……この功績は讃えられるべきだ。ありがとう、城伯令嬢」
良かった、わたしの選択は決して間違ってなどいなかった。このお城の為に身を捧げ、ずっと頑張ってきて本当に良かったと、心の底から思えた。これからは、彼と共に城塞を守っていく――。
「……残念です」
「なんだ残念で済ますのかい。もっと縋ってくるかと少しは期待したんだけどな」
最初はそう思った。
けれど、今のわたしはそれほど公爵様に未練はなかった。その理由に、城伯令嬢としてこの無駄に広い『城塞』を維持していかなければならないし、たくさんの仕事もこなさないといけなかった。
それともう一つ。
ルークがメイドと肉体関係にあると噂が流れていた。それを知ったわたしは、彼に不信感を抱いていた。
だから余計に距離が広まってしまっていた。もう、彼と一緒にいるのは無理と判断。だから、もう未練はなかった。
「さようなら、ルーク様」
「そうか。最初の頃は良い関係になれると思ったんだけどね、本当に残念だ」
彼はそうつぶやいて、背を向けた。
わたしは見送らず、城塞の仕事へ戻った。
【一ヶ月後】
独り身となったわたしは、いつものように城塞を守っていた。けれど、久々に公爵が現れた。随分とやつれて。
「……ルーク」
「や、やあ……フィセル」
「よく顔を出せたものですね」
「……す、すまない。一か月前の婚約破棄だが、撤回させてくれ」
「今更? あのですね、もうわたしと貴方の関係は終わっているのですよ? 分かっているのですか?」
「あ、ああ……あの時はどうかしていた。俺が間違っていたんだ。頼む! もう一度、俺にチャンスをくれ! この城塞にいさせてくれないかい!」
まさかの土下座。
そこまで追い詰められているの。
いったい、彼に何があったの。
それはそれで気になった。
「……分かりました。ですが、婚約破棄されたのはそちらですよ。それを一ヶ月後に現れていきなり撤回とか……到底信じられません」
「だ、だろうな。許してくれとは言わない……最初は信頼回復に努めたい」
それは本音なの?
もし、反省してもう一度、わたしと運命を共にしたいというのなら……少しは考えてあげなくもなかった。でも、彼にはメイドとの関係もあったらしいし……。
見極める必要がありそうね。
「いいでしょう、情けです。住んではいいですよ」
「おぉ! フィセル、本当にすまない」
その後、一週間、二週間と過ぎ――わたしは、油断せず彼を監視し続けた。そして、その間にも意外な事実が判明した。
「ローナ、彼はどう?」
わたしは、メイドのローナに彼の事を聞いた。
「ええ、フィセル様。彼は……彼の家は、違法薬物の犯罪に手を染めていたようです。そのせいで爵位を剥奪され、権力を失い……何もかもを失ったようで、それでフィセル様を頼ったようです」
……なんて愚か。
同情すらできない。
「もうひとつ聞きたいわ。貴女、彼と関係を持っていたの?」
「……公爵様が出ていく前ですよね。そうですね……無理矢理襲われた――と、言うのが正しいでしょう。私は抵抗できなかった……毎日、毎日酷い事を…………思い出すだけで涙が止まりません……」
そうだったの。
気づけなかったわたしの責任でもある。でも、それ以上にルークが許せない。
メイドを傷つけ、更に犯罪だなんて……。
救いようのないドクズだわ。
――三日後。
ルークを大広間に呼び出した。
「……な、なんだい、フィセル。二人きりで話って?」
「ルーク、ひとつだけ確認させて下さい」
「あ、ああ」
「まともに生きる気はあるんですね?」
「当たり前だ。俺は君を愛している……! これからもずっと一緒だ。結婚して、子供だって作る。幸せな家庭を築こう」
「それは嬉しいですわ」
「おお、では……!」
「でもお断りさせていただきます!」
「な……何故だ!!」
わたしは指を鳴らし、合図をする。
すると部屋の奥からドタドタと複数の男たちが現れた。その中にローナの姿も。
「理由は簡単です。貴方が犯罪者だからですよ」
「なっ!! 違う! 俺は悪くない!!」
「悪くない? 人様のメイドを傷つけ、しかも犯罪に手を染めて……もう公爵ですらない男の言葉なんて信じられません」
「…………く! 知って、いたのかフィセル! いやだが、たかがメイドじゃないか! 少し摘まむくらいいだろう!」
なんて最低な男。
もう呆れて物も言えなかった。でも。
「違法薬物の事も全部知っているのですよ。観念なさい!!」
「く…………くううううううううう……ああああああああああああああ!!」
突然発狂するルーク。
今にも暴れそうだった。だけど、こちらは騎士が四人。勝てるはずもなかった。更に付け加えると――もう一人強力な助っ人がいた。
それは……
この城塞を管理するトップ。
「元公爵、貴様は裁判からも逃げた大罪人だ……処刑する」
「……あ、あなた様は……セラギネラ大公……」
事実を知り、がくっとうなだれるルーク。もう彼に逃げ道はない。きっとこの城塞に逃げてきて、わたしと結婚して何とか密かに暮らしていこうと目論んでいたのだろうけれど、それは失敗に終わった。
ルークは連行された。
「……さようなら、ルーク」
その後、わたしは美青年であるセラギネラ大公と恋に落ちた。彼は、元からわたしに気があったらしく――けれど、公爵の存在があったから一歩引いていたという。でも、今回の事があって思い切って婚約から始めたいと言って下さった。
わたしは、一つ返事した。
「セラギネラ大公、わたしで良いんですか?」
「フィセル、君はこの城塞をずっと守ってくれたじゃないか。あの公爵の不正も暴いてくれた……この功績は讃えられるべきだ。ありがとう、城伯令嬢」
良かった、わたしの選択は決して間違ってなどいなかった。このお城の為に身を捧げ、ずっと頑張ってきて本当に良かったと、心の底から思えた。これからは、彼と共に城塞を守っていく――。
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
婚約破棄されたけど、どうして王子が泣きながら戻ってくるんですか?
ほーみ
恋愛
「――よって、リリアーヌ・アルフェン嬢との婚約は、ここに破棄とする!」
華やかな夜会の真っ最中。
王子の口から堂々と告げられたその言葉に、場は静まり返った。
「……あ、そうなんですね」
私はにこやかにワイングラスを口元に運ぶ。周囲の貴族たちがどよめく中、口をぽかんと開けたままの王子に、私は笑顔でさらに一言添えた。
「で? 次のご予定は?」
「……は?」
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
悪役令嬢は手加減無しに復讐する
田舎の沼
恋愛
公爵令嬢イザベラ・フォックストーンは、王太子アレクサンドルの婚約者として完璧な人生を送っていたはずだった。しかし、華やかな誕生日パーティーで突然の婚約破棄を宣告される。
理由は、聖女の力を持つ男爵令嬢エマ・リンドンへの愛。イザベラは「嫉妬深く陰険な悪役令嬢」として糾弾され、名誉を失う。
婚約破棄をされたことで彼女の心の中で何かが弾けた。彼女の心に燃え上がるのは、容赦のない復讐の炎。フォックストーン家の膨大なネットワークと経済力を武器に、裏切り者たちを次々と追い詰めていく。アレクサンドルとエマの秘密を暴き、貴族社会を揺るがす陰謀を巡らせ、手加減なしの報復を繰り広げる。
【完結】 嘘と後悔、そして愛
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
伯爵令嬢ソニアは15歳。親に勝手に決められて、一度も会ったことのない10歳離れた侯爵リカルドに嫁ぐために辺境の地に一人でやってきた。新婚初夜、ソニアは夫に「夜のお務めが怖いのです」と言って涙をこぼす。その言葉を信じたリカルドは妻の気持ちを尊重し、寝室を別にすることを提案する。しかしソニアのその言葉には「嘘」が隠れていた……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる