城伯令嬢は守りたい

夜桜

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婚約破棄

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「フィセル、すまないが……婚約破棄してくれ」
「……残念です」

「なんだ残念で済ますのかい。もっとすがってくるかと少しは期待したんだけどな」

 最初はそう思った。
 けれど、今のわたしはそれほど公爵様に未練はなかった。その理由に、城伯令嬢としてこの無駄に広い『城塞』を維持していかなければならないし、たくさんの仕事もこなさないといけなかった。

 それともう一つ。
 ルークがメイドと肉体関係にあると噂が流れていた。それを知ったわたしは、彼に不信感を抱いていた。

 だから余計に距離が広まってしまっていた。もう、彼と一緒にいるのは無理と判断。だから、もう未練はなかった。


「さようなら、ルーク様」
「そうか。最初の頃は良い関係になれると思ったんだけどね、本当に残念だ」


 彼はそうつぶやいて、背を向けた。
 わたしは見送らず、城塞の仕事へ戻った。



【一ヶ月後】



 独り身となったわたしは、いつものように城塞を守っていた。けれど、久々に公爵が現れた。随分とやつれて。

「……ルーク」
「や、やあ……フィセル」

「よく顔を出せたものですね」
「……す、すまない。一か月前の婚約破棄だが、撤回させてくれ」
「今更? あのですね、もうわたしと貴方の関係は終わっているのですよ? 分かっているのですか?」

「あ、ああ……あの時はどうかしていた。俺が間違っていたんだ。頼む! もう一度、俺にチャンスをくれ! この城塞にいさせてくれないかい!」


 まさかの土下座。
 そこまで追い詰められているの。
 いったい、彼に何があったの。


 それはそれで気になった。


「……分かりました。ですが、婚約破棄されたのはそちらですよ。それを一ヶ月後に現れていきなり撤回とか……到底信じられません」

「だ、だろうな。許してくれとは言わない……最初は信頼回復に努めたい」


 それは本音なの?
 もし、反省してもう一度、わたしと運命を共にしたいというのなら……少しは考えてあげなくもなかった。でも、彼にはメイドとの関係もあったらしいし……。


 見極める必要がありそうね。


「いいでしょう、情けです。住んではいいですよ」
「おぉ! フィセル、本当にすまない」



 その後、一週間、二週間と過ぎ――わたしは、油断せず彼を監視し続けた。そして、その間にも意外な事実が判明した。


「ローナ、彼はどう?」


 わたしは、メイドのローナに彼の事を聞いた。


「ええ、フィセル様。彼は……彼の家は、違法薬物の犯罪に手を染めていたようです。そのせいで爵位を剥奪され、権力を失い……何もかもを失ったようで、それでフィセル様を頼ったようです」


 ……なんて愚か。
 同情すらできない。


「もうひとつ聞きたいわ。貴女、彼と関係を持っていたの?」
「……公爵様が出ていく前ですよね。そうですね……無理矢理襲われた――と、言うのが正しいでしょう。私は抵抗できなかった……毎日、毎日酷い事を…………思い出すだけで涙が止まりません……」


 そうだったの。
 気づけなかったわたしの責任でもある。でも、それ以上にルークが許せない。


 メイドを傷つけ、更に犯罪だなんて……。



 救いようのないドクズだわ。



 ――三日後。



 ルークを大広間に呼び出した。


「……な、なんだい、フィセル。二人きりで話って?」
「ルーク、ひとつだけ確認させて下さい」
「あ、ああ」

「まともに生きる気はあるんですね?」

「当たり前だ。俺は君を愛している……! これからもずっと一緒だ。結婚して、子供だって作る。幸せな家庭を築こう」


「それは嬉しいですわ」
「おお、では……!」

「でもお断りさせていただきます!」
「な……何故だ!!」


 わたしは指を鳴らし、合図をする。

 すると部屋の奥からドタドタと複数の男たちが現れた。その中にローナの姿も。


「理由は簡単です。貴方が犯罪者だからですよ」
「なっ!! 違う! 俺は悪くない!!」

「悪くない? 人様のメイドを傷つけ、しかも犯罪に手を染めて……もう公爵ですらない男の言葉なんて信じられません」


「…………く! 知って、いたのかフィセル! いやだが、たかがメイドじゃないか! 少し摘まむくらいいだろう!」


 なんて最低な男。
 もう呆れて物も言えなかった。でも。


「違法薬物の事も全部知っているのですよ。観念なさい!!」

「く…………くううううううううう……ああああああああああああああ!!」


 突然発狂するルーク。
 今にも暴れそうだった。だけど、こちらは騎士が四人。勝てるはずもなかった。更に付け加えると――もう一人強力な助っ人がいた。


 それは……
 この城塞を管理するトップ。


「元公爵、貴様は裁判からも逃げた大罪人だ……処刑する」
「……あ、あなた様は……セラギネラ大公……」

 事実を知り、がくっとうなだれるルーク。もう彼に逃げ道はない。きっとこの城塞に逃げてきて、わたしと結婚して何とか密かに暮らしていこうと目論んでいたのだろうけれど、それは失敗に終わった。


 ルークは連行された。


「……さようなら、ルーク」


 その後、わたしは美青年であるセラギネラ大公と恋に落ちた。彼は、元からわたしに気があったらしく――けれど、公爵の存在があったから一歩引いていたという。でも、今回の事があって思い切って婚約から始めたいと言って下さった。


 わたしは、一つ返事した。


「セラギネラ大公、わたしで良いんですか?」
「フィセル、君はこの城塞をずっと守ってくれたじゃないか。あの公爵の不正も暴いてくれた……この功績は讃えられるべきだ。ありがとう、城伯令嬢」


 良かった、わたしの選択は決して間違ってなどいなかった。このお城の為に身を捧げ、ずっと頑張ってきて本当に良かったと、心の底から思えた。これからは、彼と共に城塞を守っていく――。
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