18 / 90
さようなら、騎士の妹
しおりを挟む
むすっとした表情で騎士団長室に入ってくる貴族女性。
誰でしたっけ……。
「えっと……」
身に憶えないと立ち尽くしていると、ルドラはいつの間にか仮面をつけていて、わたくしの前に立った。
「キミはまさか」
「そうですよ、フェイルノート騎士団長。私はリゼリアです」
リゼリア?
聞いたことがない名前ね。こんな青髪の女性はご存じなかった。ということは身分の低い貴族なのでしょう。
「それで、私に何かようかね?」
「フェイルノート騎士団長、そのクリスは怪物ですわよ」
「どういうことかな」
「兄のローウェルを大監獄バーバヤーガへ送った張本人! 最低最悪の極悪令嬢ですの!」
……!
このリゼリアと名乗る女性貴族、まさかのローウェルの妹!
そういうことだったのね。
だから、わたくしを目の敵に。
「リゼリア、といいましたね」
「なによ、クリス。兄さんをヒドイ目に遭わせておいて……!」
「誤解です。彼がわたくしを捨てたのですよ」
「違うわ! あんたが兄さんを捨てたの。どうして助けてあげなかったの!」
憎むような目線を向けるリゼリア。完全に誤解している。でも、正直和解できる気もしなかった。彼女はきっとローウェルの味方。わたくしの言葉届かない。
それを察したルドラは庇うようにしてくれた。
「クリスは関係ない。リゼリア、悪いんだが部屋から出て行ってもらおう」
「そうはいきません」
またわたくしを睨むリゼリアは、袖の中から小瓶を取り出していた。なにかの液体が入っているような。
蓋開け、その瓶をわたくし目掛けて投げてきた。
「…………え」
「クリス! これは『酸』よ! あんたのそのムカツクほど可愛い顔をメチャクチャにしてやるわッッ!」
高らかに笑うリゼリアは、そんなこと悪魔的に叫んだ。
さ、酸ですって? そんなものを浴びたら皮膚が大ヤケド負い、表に出られないほどになってしまう。
「……イヤ!」
酸の瓶が目の前に落ちてくる寸前で、ルドラが素早く動き『光の盾』を生成した。……こ、これは! あの決闘の時の!
液体の入った瓶は『光の盾』に弾かれ、今度はリゼリアの方へ落ちていく。
リゼリアも予想外だったのか、避ける暇もなく瓶の中身を浴びてしまっていた。
「…………え。きゃあああああああああああ!!!」
じゅわっと皮膚の焼けるような音がした。リゼリアはその場に崩れ、泣き叫んで助けを呼んだ。
「リゼリア、お前は私の大切な人を傷つけようとした。だから自業自得だ」
しかし、このまま放置するわけにもいかなかった。ルドラは、医者を呼びリゼリアを運ばせた。手当をするみたいだけど医者いよれば傷跡は消えないだろうとのことだった。
危なかった。もしかしたら、わたくしが一生の傷を負うことになっていたかもしれなかったのだから……。
* * * * *
【ミステル邸・庭】
リゼリアは、ガウェイン騎士団に『酸』を秘密裏に持ち込み、わたくしに危害を加えた罪で捕まった。
――とはいえ、彼女はしばらく治療に専念するらしい。
傷があまりにヒドイのだとか。
可哀想に。
でも、ルドラが言っていたように自業自得。
そんな危険なものを選んだばかりに、自身が大怪我を負うことになった。
せめて、わたくしの妹のマイナのように料理対決だったら、まだ少しはマシだったかもしれないけれど。
そういえば、婚約指輪を受け取り損ねた。
今回の事件があまりに大事になってしまったからだ。
お父様はカンカンで、しばらく騎士団へ呼ばれても行くなと口酸っぱく言われてしまった。
そのせいでフェイルノート扮するルドラは、説明に追われて大変だった。でも、わたくしもお父様を説得した。
「ありがとう、クリス。おかげで辺境伯は気分を落ち着かせてくれた」
「よかったです。お父様、事件のことを耳にした瞬間に顔を真っ赤にして激怒していましたから……」
アレは完全に頭に血が上っていた。下手をすれば騎士団そのものが消滅したかもしれない。最低でも支援打ち切りはありえたかも。
そうなれば、ガウェイン騎士団の存続は危うくなり……他の騎士団が台頭することに。もしそんなことになれば、ルドラの権威は地の底に。
フェイルノートの想いも無駄になってしまう。
わたくしも、それは望まないことだった。
だから必死にお父様を説得した。
「ごめんなさい。もとはといえば大叔母様のせいなのに」
「いいんだ。クリスと一緒に切り抜けられているからね」
微笑むルドラは、本当に嬉しそうにしていた。わたくしも、その表情が見られて安心した。……良かった。
ここ最近のルドラは落ち込んでいたし、元気がなかったから。
「大叔母様をなんとかしなければですね」
「そうしてもらえると助かるかな」
決闘もこれ以上は望まないとルドラは、珍しくため息を吐く。そうよね、ずっと戦い続けてきた。
十分すぎるほどに。
だから、以降はわたくしは全力で止める。
そうしないとルドラが倒れてしまうから。
「この後はどうしますか?」
「決闘も避けたいし、一緒に遠出しよう。見せたいものもあるんだ」
「まあ、嬉しい。では参りましょう」
外にはバルザックの用意してくれた馬車がある。それに乗り、どこかへ向かう。ルドラが案内してくれるという。
楽しみ……!
誰でしたっけ……。
「えっと……」
身に憶えないと立ち尽くしていると、ルドラはいつの間にか仮面をつけていて、わたくしの前に立った。
「キミはまさか」
「そうですよ、フェイルノート騎士団長。私はリゼリアです」
リゼリア?
聞いたことがない名前ね。こんな青髪の女性はご存じなかった。ということは身分の低い貴族なのでしょう。
「それで、私に何かようかね?」
「フェイルノート騎士団長、そのクリスは怪物ですわよ」
「どういうことかな」
「兄のローウェルを大監獄バーバヤーガへ送った張本人! 最低最悪の極悪令嬢ですの!」
……!
このリゼリアと名乗る女性貴族、まさかのローウェルの妹!
そういうことだったのね。
だから、わたくしを目の敵に。
「リゼリア、といいましたね」
「なによ、クリス。兄さんをヒドイ目に遭わせておいて……!」
「誤解です。彼がわたくしを捨てたのですよ」
「違うわ! あんたが兄さんを捨てたの。どうして助けてあげなかったの!」
憎むような目線を向けるリゼリア。完全に誤解している。でも、正直和解できる気もしなかった。彼女はきっとローウェルの味方。わたくしの言葉届かない。
それを察したルドラは庇うようにしてくれた。
「クリスは関係ない。リゼリア、悪いんだが部屋から出て行ってもらおう」
「そうはいきません」
またわたくしを睨むリゼリアは、袖の中から小瓶を取り出していた。なにかの液体が入っているような。
蓋開け、その瓶をわたくし目掛けて投げてきた。
「…………え」
「クリス! これは『酸』よ! あんたのそのムカツクほど可愛い顔をメチャクチャにしてやるわッッ!」
高らかに笑うリゼリアは、そんなこと悪魔的に叫んだ。
さ、酸ですって? そんなものを浴びたら皮膚が大ヤケド負い、表に出られないほどになってしまう。
「……イヤ!」
酸の瓶が目の前に落ちてくる寸前で、ルドラが素早く動き『光の盾』を生成した。……こ、これは! あの決闘の時の!
液体の入った瓶は『光の盾』に弾かれ、今度はリゼリアの方へ落ちていく。
リゼリアも予想外だったのか、避ける暇もなく瓶の中身を浴びてしまっていた。
「…………え。きゃあああああああああああ!!!」
じゅわっと皮膚の焼けるような音がした。リゼリアはその場に崩れ、泣き叫んで助けを呼んだ。
「リゼリア、お前は私の大切な人を傷つけようとした。だから自業自得だ」
しかし、このまま放置するわけにもいかなかった。ルドラは、医者を呼びリゼリアを運ばせた。手当をするみたいだけど医者いよれば傷跡は消えないだろうとのことだった。
危なかった。もしかしたら、わたくしが一生の傷を負うことになっていたかもしれなかったのだから……。
* * * * *
【ミステル邸・庭】
リゼリアは、ガウェイン騎士団に『酸』を秘密裏に持ち込み、わたくしに危害を加えた罪で捕まった。
――とはいえ、彼女はしばらく治療に専念するらしい。
傷があまりにヒドイのだとか。
可哀想に。
でも、ルドラが言っていたように自業自得。
そんな危険なものを選んだばかりに、自身が大怪我を負うことになった。
せめて、わたくしの妹のマイナのように料理対決だったら、まだ少しはマシだったかもしれないけれど。
そういえば、婚約指輪を受け取り損ねた。
今回の事件があまりに大事になってしまったからだ。
お父様はカンカンで、しばらく騎士団へ呼ばれても行くなと口酸っぱく言われてしまった。
そのせいでフェイルノート扮するルドラは、説明に追われて大変だった。でも、わたくしもお父様を説得した。
「ありがとう、クリス。おかげで辺境伯は気分を落ち着かせてくれた」
「よかったです。お父様、事件のことを耳にした瞬間に顔を真っ赤にして激怒していましたから……」
アレは完全に頭に血が上っていた。下手をすれば騎士団そのものが消滅したかもしれない。最低でも支援打ち切りはありえたかも。
そうなれば、ガウェイン騎士団の存続は危うくなり……他の騎士団が台頭することに。もしそんなことになれば、ルドラの権威は地の底に。
フェイルノートの想いも無駄になってしまう。
わたくしも、それは望まないことだった。
だから必死にお父様を説得した。
「ごめんなさい。もとはといえば大叔母様のせいなのに」
「いいんだ。クリスと一緒に切り抜けられているからね」
微笑むルドラは、本当に嬉しそうにしていた。わたくしも、その表情が見られて安心した。……良かった。
ここ最近のルドラは落ち込んでいたし、元気がなかったから。
「大叔母様をなんとかしなければですね」
「そうしてもらえると助かるかな」
決闘もこれ以上は望まないとルドラは、珍しくため息を吐く。そうよね、ずっと戦い続けてきた。
十分すぎるほどに。
だから、以降はわたくしは全力で止める。
そうしないとルドラが倒れてしまうから。
「この後はどうしますか?」
「決闘も避けたいし、一緒に遠出しよう。見せたいものもあるんだ」
「まあ、嬉しい。では参りましょう」
外にはバルザックの用意してくれた馬車がある。それに乗り、どこかへ向かう。ルドラが案内してくれるという。
楽しみ……!
400
あなたにおすすめの小説
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?
睡蓮
恋愛
セレスとクレイは婚約関係にあった。しかし、セレスよりも他の女性に目移りしてしまったクレイは、ためらうこともなくセレスの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたクレイであったものの、後に全く同じ言葉をセレスから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。
※全6話完結です。
【完結】あなたは知らなくていいのです
楽歩
恋愛
無知は不幸なのか、全てを知っていたら幸せなのか
セレナ・ホフマン伯爵令嬢は3人いた王太子の婚約者候補の一人だった。しかし王太子が選んだのは、ミレーナ・アヴリル伯爵令嬢。婚約者候補ではなくなったセレナは、王太子の従弟である公爵令息の婚約者になる。誰にも関心を持たないこの令息はある日階段から落ち…
え?転生者?私を非難している者たちに『ざまぁ』をする?この目がキラキラの人はいったい…
でも、婚約者様。ふふ、少し『ざまぁ』とやらが、甘いのではなくて?きっと私の方が上手ですわ。
知らないからー幸せか、不幸かーそれは、セレナ・ホフマン伯爵令嬢のみぞ知る
※誤字脱字、勉強不足、名前間違いなどなど、どうか温かい目でm(_ _"m)
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
婚約者に心変わりされた私は、悪女が巣食う学園から姿を消す事にします──。
Nao*
恋愛
ある役目を終え、学園に戻ったシルビア。
すると友人から、自分が居ない間に婚約者のライオスが別の女に心変わりしたと教えられる。
その相手は元平民のナナリーで、可愛く可憐な彼女はライオスだけでなく友人の婚約者や他の男達をも虜にして居るらしい。
事情を知ったシルビアはライオスに会いに行くが、やがて婚約破棄を言い渡される。
しかしその後、ナナリーのある驚きの行動を目にして──?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ
曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。
婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。
美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。
そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……?
――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる