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花束と、忍び寄る刺客
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悪い噂というものは、足が速い。
わたしが直接見ていなくても、耳に入ってくる。
望まなくても、勝手に。
「最近、帝国の外れで行方不明者が増えているらしい」
「亡命した騎士が、裏で人を集めているとか……」
「金で傭兵を雇っているって話もある」
使用人たちは、ひそひそと声を潜めて話す。
わたしは、聞こえないふりをしながら、全部聞いていた。
……レイド。
名前は出ない。
でも、分かる。
あの男は、静かに終わるような人間じゃない。
庭に出ると、風が花を揺らした。
土の匂いが、少しだけ胸を締めつける。
「……落ち着かないですね」
独り言みたいに呟いた瞬間。
「そういうときは、花を見るといい」
背後から声がした。
振り向くと、ロナンが立っていた。
そして——。
「……?」
わたしは、思わず瞬きをした。
ロナンの手には、小さな花束があった。
派手ではない。
白と淡い紫の花が、丁寧にまとめられている。
「……もしかして」
「庭の花じゃない」
少しだけ、得意そうに言う。
「街で買った。……その、花が好きだと言ってただろ」
胸の奥が、きゅっと鳴った。
「ありがとうございます」
受け取ると、花の香りがふわりと広がる。
「似合ってる」
「……花が、ですか?」
「どっちもだ」
心臓が、跳ねた。
わたしは視線を逸らし、花束を抱きしめた。
「最近、変な噂が増えています」
話題を変える。
「帝国の外で……人が消えているとか」
ロナンの表情が、引き締まった。
「ああ。俺も聞いている」
「やっぱり……」
「確証はないが、動きは似ている」
ロナンは、低い声で続けた。
「焦っている人間の動きだ」
……レイド。
「あなたなら、どうしますか」
「俺なら?」
「狙われると分かっていても、逃げられない場合」
ロナンは、少し考えたあと、言った。
「相談する」
「相談?」
「一人で抱え込まないことだ」
視線が、わたしを捉える。
「マロナ、君が強いのは分かる。でも……一人で戦うな」
その言葉が、胸に残った。
「……わたし、強くなりましたよ」
「知ってる」
即答だった。
「だからこそ、言ってる」
わたしは、花束を見下ろした。
守られているようで、対等に見られている。
その感覚が、心地いい。
「ロナン」
「なんだ」
「もし、わたしがまた——」
言葉が詰まる。
土の感触が、脳裏をよぎる。
ロナンは、静かに言った。
「その前に、俺が気づく」
……ずるい。
そんなこと言われたら、信じてしまう。
そのとき。
風が、強く吹いた。
花びらが舞い、視界を遮る。
一瞬。
——ほんの一瞬。
背中が、冷たくなった。
「……?」
ロナンも、顔を上げる。
「今、誰か……」
「いや」
庭には、わたしたちしかいない。
けれど。
視線。
確かに、あった。
木々の隙間。
塀の向こう。
見られている感覚。
「屋敷周辺の警備を、強化する」
ロナンが、即座に言う。
「俺も、近くにいる」
「……ありがとう」
その夜。
眠りにつく直前まで、花の香りが残っていた。
——夢を見た。
土の中。
暗闇。
でも、今回は。
遠くで、足音がした。
近づいてくる。
逃げようとしても、身体が動かない。
——目が覚める。
心臓が、早鐘を打っていた。
窓の外は、静かだ。
けれど。
翌朝、屋敷の外壁に、細い傷が見つかった。
まるで、試すような。
探るような。
「……来ていますね」
わたしは、拳を握った。
断罪のドロップキックは、まだ温存だ。
でも。
次は、近い。
花を抱いたまま、わたしは空を見上げた。
曇り空の向こうで、何かが動いている。
静かに。
確実に。
わたしが直接見ていなくても、耳に入ってくる。
望まなくても、勝手に。
「最近、帝国の外れで行方不明者が増えているらしい」
「亡命した騎士が、裏で人を集めているとか……」
「金で傭兵を雇っているって話もある」
使用人たちは、ひそひそと声を潜めて話す。
わたしは、聞こえないふりをしながら、全部聞いていた。
……レイド。
名前は出ない。
でも、分かる。
あの男は、静かに終わるような人間じゃない。
庭に出ると、風が花を揺らした。
土の匂いが、少しだけ胸を締めつける。
「……落ち着かないですね」
独り言みたいに呟いた瞬間。
「そういうときは、花を見るといい」
背後から声がした。
振り向くと、ロナンが立っていた。
そして——。
「……?」
わたしは、思わず瞬きをした。
ロナンの手には、小さな花束があった。
派手ではない。
白と淡い紫の花が、丁寧にまとめられている。
「……もしかして」
「庭の花じゃない」
少しだけ、得意そうに言う。
「街で買った。……その、花が好きだと言ってただろ」
胸の奥が、きゅっと鳴った。
「ありがとうございます」
受け取ると、花の香りがふわりと広がる。
「似合ってる」
「……花が、ですか?」
「どっちもだ」
心臓が、跳ねた。
わたしは視線を逸らし、花束を抱きしめた。
「最近、変な噂が増えています」
話題を変える。
「帝国の外で……人が消えているとか」
ロナンの表情が、引き締まった。
「ああ。俺も聞いている」
「やっぱり……」
「確証はないが、動きは似ている」
ロナンは、低い声で続けた。
「焦っている人間の動きだ」
……レイド。
「あなたなら、どうしますか」
「俺なら?」
「狙われると分かっていても、逃げられない場合」
ロナンは、少し考えたあと、言った。
「相談する」
「相談?」
「一人で抱え込まないことだ」
視線が、わたしを捉える。
「マロナ、君が強いのは分かる。でも……一人で戦うな」
その言葉が、胸に残った。
「……わたし、強くなりましたよ」
「知ってる」
即答だった。
「だからこそ、言ってる」
わたしは、花束を見下ろした。
守られているようで、対等に見られている。
その感覚が、心地いい。
「ロナン」
「なんだ」
「もし、わたしがまた——」
言葉が詰まる。
土の感触が、脳裏をよぎる。
ロナンは、静かに言った。
「その前に、俺が気づく」
……ずるい。
そんなこと言われたら、信じてしまう。
そのとき。
風が、強く吹いた。
花びらが舞い、視界を遮る。
一瞬。
——ほんの一瞬。
背中が、冷たくなった。
「……?」
ロナンも、顔を上げる。
「今、誰か……」
「いや」
庭には、わたしたちしかいない。
けれど。
視線。
確かに、あった。
木々の隙間。
塀の向こう。
見られている感覚。
「屋敷周辺の警備を、強化する」
ロナンが、即座に言う。
「俺も、近くにいる」
「……ありがとう」
その夜。
眠りにつく直前まで、花の香りが残っていた。
——夢を見た。
土の中。
暗闇。
でも、今回は。
遠くで、足音がした。
近づいてくる。
逃げようとしても、身体が動かない。
——目が覚める。
心臓が、早鐘を打っていた。
窓の外は、静かだ。
けれど。
翌朝、屋敷の外壁に、細い傷が見つかった。
まるで、試すような。
探るような。
「……来ていますね」
わたしは、拳を握った。
断罪のドロップキックは、まだ温存だ。
でも。
次は、近い。
花を抱いたまま、わたしは空を見上げた。
曇り空の向こうで、何かが動いている。
静かに。
確実に。
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