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伯爵令嬢のフレイムハート
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「アムール……大変心苦しいが……婚約を破棄してくれ!」
新しい朝を迎え、挨拶代わりにそう告げられた。もう意味が分からなかった。たった一日で婚約破棄って……。
「何故ですか、理由はなんです」
「理由は簡単だ――」
・
・
・
――半年前、わたくしは誰にも興味がない孤立した存在だった。高嶺の花なんて陰ながら言われていたけれど、事実その通りだった。
でも、運命は突然やって来た。
美術館へ足を運ぶと、彼はいた。
イーガー辺境伯がこれまでに無い独創的な絵を発表し、たくさんの人達や国から讃えられていた。わたくしは、その絵に目を、心を、全てを奪われていた。
はじめて、心臓がトクンと高鳴って、それは次第に燃え上がった。きっと彼こそがわたくしの運命の人だと認識した。
ええ、間違いありません。
だからこそ、わたくしは必死にアプローチした。すると、彼もわたくしを気に留めて下さった。辺境伯は何があっても君を愛すると言ってくれた。わたくしは、その言葉が何よりも嬉しかった。
彼の為なら、わたくしも全力で頑張れる。それから必死で花嫁修業。この国では特に料理が出来ると美しいと認識される。料理のプロから教えて貰い、長い年月を経てようやく婚約を交わした。
――けれども、その夜の日……
料理を振舞ったその日……
彼の様子がおかしかった。
・
・
・
そして現在。
「――理由は簡単だ、アムール……お前の手料理がゲロのように不味かったからだ!! あんな家畜の餌のような料理は食べ物ですらない!! あまりに不味すぎて三日は寝込みそうだった! まだ舌がヒリヒリする! どうしてくれる!」
「そ、そんな……わたくしは愛情を込めて……作ったのに」
「ああ、クソ不味い愛だったよ。もういい、婚約破棄だ!」
恐ろしい形相で迫ってくる辺境伯。さすがのわたくしも堪忍袋の緒がはち切れた。誰の料理がまずいですって!!
「そんなはずないじゃない!! 半年も頑張ってきたのよ!!」
味見だってちゃんとしたし、美味しかった。なのにどうして? 御口に合わなかったというの……!
彼の次の言葉がトドメとなった。
「アムール、俺は芸術家なんだぞ。味にだってうるさいんだよ。料理も芸術だ。宮廷料理並でなくては困るのだよ」
なにそれ?
もう怒った。怒った、本当に怒った。生まれて初めて腹が立った。許せない、絶対に許せない。憤怒すると、心臓がドクドク高鳴った。
許せない、絶対にだ。
ああもうイライラする。
イライラして、ギリギリして、手が震えてきた。わたくしは怒っている。心の底から怒っている。何があってもずっと愛してくれてると思ったのに!!!
「ゆるせなーーーーーーいッッ!!!」
叫ぶと心臓がまたドクンと跳ねて、そして、わたくしの全身に炎が駆け巡った。それはイーガー辺境伯へ伝っていき――
「ギャアアアアアアアアアアアアア…………!!!」
彼を燃やし始めた。
ぼうぼう燃やし、まるでわたくしの怒りを具現化するようだった。炎の勢いは衰えるどころか増すばかり。
「こ、これは……」
「ひぎゃぁぁあああ、ア、アムール……たす、たすけ…………」
パタッと倒れて辺境伯は燃え尽きた。
不思議な事に炎は延焼する事無く、消えてしまった。これは、わたくしの『フレイムハート』って事なのかしら?
こんな魔法が使えただなんて……
知らなかった。
その後、辺境伯は前々から芸術に不安があり焼身自殺――と国によって認定された。
わたくしは新たな生活を始め、また美術館へ。そこまでまた心臓が燃えていく。
あ……わたくし、あの金髪の男性が気になるみたい。次はどうせなら……燃えるような恋をしたいわ。頑張ろう。
新しい朝を迎え、挨拶代わりにそう告げられた。もう意味が分からなかった。たった一日で婚約破棄って……。
「何故ですか、理由はなんです」
「理由は簡単だ――」
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――半年前、わたくしは誰にも興味がない孤立した存在だった。高嶺の花なんて陰ながら言われていたけれど、事実その通りだった。
でも、運命は突然やって来た。
美術館へ足を運ぶと、彼はいた。
イーガー辺境伯がこれまでに無い独創的な絵を発表し、たくさんの人達や国から讃えられていた。わたくしは、その絵に目を、心を、全てを奪われていた。
はじめて、心臓がトクンと高鳴って、それは次第に燃え上がった。きっと彼こそがわたくしの運命の人だと認識した。
ええ、間違いありません。
だからこそ、わたくしは必死にアプローチした。すると、彼もわたくしを気に留めて下さった。辺境伯は何があっても君を愛すると言ってくれた。わたくしは、その言葉が何よりも嬉しかった。
彼の為なら、わたくしも全力で頑張れる。それから必死で花嫁修業。この国では特に料理が出来ると美しいと認識される。料理のプロから教えて貰い、長い年月を経てようやく婚約を交わした。
――けれども、その夜の日……
料理を振舞ったその日……
彼の様子がおかしかった。
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そして現在。
「――理由は簡単だ、アムール……お前の手料理がゲロのように不味かったからだ!! あんな家畜の餌のような料理は食べ物ですらない!! あまりに不味すぎて三日は寝込みそうだった! まだ舌がヒリヒリする! どうしてくれる!」
「そ、そんな……わたくしは愛情を込めて……作ったのに」
「ああ、クソ不味い愛だったよ。もういい、婚約破棄だ!」
恐ろしい形相で迫ってくる辺境伯。さすがのわたくしも堪忍袋の緒がはち切れた。誰の料理がまずいですって!!
「そんなはずないじゃない!! 半年も頑張ってきたのよ!!」
味見だってちゃんとしたし、美味しかった。なのにどうして? 御口に合わなかったというの……!
彼の次の言葉がトドメとなった。
「アムール、俺は芸術家なんだぞ。味にだってうるさいんだよ。料理も芸術だ。宮廷料理並でなくては困るのだよ」
なにそれ?
もう怒った。怒った、本当に怒った。生まれて初めて腹が立った。許せない、絶対に許せない。憤怒すると、心臓がドクドク高鳴った。
許せない、絶対にだ。
ああもうイライラする。
イライラして、ギリギリして、手が震えてきた。わたくしは怒っている。心の底から怒っている。何があってもずっと愛してくれてると思ったのに!!!
「ゆるせなーーーーーーいッッ!!!」
叫ぶと心臓がまたドクンと跳ねて、そして、わたくしの全身に炎が駆け巡った。それはイーガー辺境伯へ伝っていき――
「ギャアアアアアアアアアアアアア…………!!!」
彼を燃やし始めた。
ぼうぼう燃やし、まるでわたくしの怒りを具現化するようだった。炎の勢いは衰えるどころか増すばかり。
「こ、これは……」
「ひぎゃぁぁあああ、ア、アムール……たす、たすけ…………」
パタッと倒れて辺境伯は燃え尽きた。
不思議な事に炎は延焼する事無く、消えてしまった。これは、わたくしの『フレイムハート』って事なのかしら?
こんな魔法が使えただなんて……
知らなかった。
その後、辺境伯は前々から芸術に不安があり焼身自殺――と国によって認定された。
わたくしは新たな生活を始め、また美術館へ。そこまでまた心臓が燃えていく。
あ……わたくし、あの金髪の男性が気になるみたい。次はどうせなら……燃えるような恋をしたいわ。頑張ろう。
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