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彼とあの子
地味な私と人気者の彼
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ふと、立ち止まって誘われるように視線を上げる。
木漏れ日が宝石のように煌めいて、まるで彼の瞳のようだと思った。
私と彼は学生時代の同級と言おうか、つるんでいたグループの一人ともう一人と言おうか。
知り合いってほど他人行儀じゃなくて、でも二人きりでよく話す間柄でもなくて。
友だちの友だち?いや、私たち同士も友だちではあるのだけど。
彼はいつも話の中心のど真ん中辺りを陣取っていた。それがまるで当然のように。
そしてそれを隅で見ていた私に向かって手を差しのべて、君はどう思う?って。当然のように。
確かにそれが普段なのだけど、毎度いつの間に私の近くに来ているのだろう。遠くから傍観者を決め込んでいる私をわざわざ話に参加させる意味はあるのだろうか。
それでも彼は笑顔で惹き込むんだ。あの宝石を嵌め込んだ顔で。
眩しさに翳した手を下ろし、反射でなく目を細める。
強い光に反して優しい暖かさは彼の人柄そのもので、私はそれに包まれている気がしてむず痒くなった。
この時期は彼の季節だ。
そう言ったのは友人の誰かだったか、彼自身だったか。
彼の生まれも確かこの季節だった気がする。いや、次の季節だったかもしれない。
ギラギラと暑く凭れる季節だというのに移り変わりがあっさりとしているところは彼そのもののように思える。
でも次の瞬間には次の季節もその次の季節もなんだか似合っていて、結局は彼であれば私はなんでも良いんだろう。その隣にちゃっかり私が居ればそれは彼の季節になってしまうんだ。
阿呆だなと自分でも思う。でも限りなく盲目なんだ。
葉が揺れて風が来たのだと自覚する。
頬を撫でて前髪を逆立てる。知らずに火照っていた頬が気持ちよくて近くの植え込みの塀に腰掛けた。
ああ、彼もこんな風に時には静かに私の感情の昂りを宥めてくれたな。
親との喧嘩、愛猫の死、決まらぬ進路。
直接何かしてくれた訳じゃない。ただ、隣で寝ているふりをしてくれていた。それだけでも、ただ話を聞いて欲しいだけの私は心が安らいだ。
同意も同調も同情もしてほしくなかった。悩みを解決してほしいわけでもなかった。
ただそこに、聞いているような聞いていないようなあやふやな様子でいるだけであってほしかった。
今思い返すと面倒なやつだったと過去の自分を軽く馬鹿にする。でもそれに付き合ってくれた彼はその頃の私より馬鹿で、それでいて、面倒見がいいやつだった。
いや、面倒見がいいのは今も同じか。
一週間前、私の元に一通の葉書が届いた。私はそれの欠席に丸をつけて返した。
それは高校の同窓会の誘いで幹事は件の彼であった。
欠席にしたのに別段理由はない。ただ何となく、会うべきでないと何かが囁いた気がしたからだ。
恋人でもない癖に何をと自問したがそれ以来何かは答えてくれそうになかった。
私はそれが無性に悔しいような恥ずかしいような居たたまれない心地だった。
ーーもうそろそろ帰ろうか。
先生も院で診察している頃だろう。あの先生なかなか休みたがらないからな。
もうすぐ昼休みも終わり、午後の仕事が始まるまであと数十分。個人病院ながらそれなりに繁盛というと可笑しいが患者は多い。そこの看護師である私もそれなりに忙しい。
本当なら昼休みもあまり長くは取れない筈だが、本人は休まないくせして看護師たちには休ませようとする先生がいるから労働基準は先生以外は守られている。他の看護師たちは先生をお人好しだと言うが、どう見てもあれは暇がもったいないという社畜だろう。何かしていないと無駄な気がするのだ。
私も似たような性分なのでよくわかる。だから昼食後は少し腹ごなしにでもと散歩をしてみたのだが、どうやら失敗だったようだ。
どうしても彼が思い出されてあの葉書がフラッシュバックする。少し歪な半円を描いたあの瞬間が。まるで呪いのように、私の胸を締め付ける。
あのときの私は間違っていたのだろうか。
何度も自問した答えは未だ返ってこない。間違いかそうでないかという枠組みでないことは分かっているというのに。
私は臆病で、本当は答えを知りたくないのだろう。とっくの昔に悟っていた答えを。
太陽が追い立てる。
仕事か答えか。どちらをかすら分からず、私はすがるように見返した。
木漏れ日が宝石のように煌めいて、まるで彼の瞳のようだと思った。
私と彼は学生時代の同級と言おうか、つるんでいたグループの一人ともう一人と言おうか。
知り合いってほど他人行儀じゃなくて、でも二人きりでよく話す間柄でもなくて。
友だちの友だち?いや、私たち同士も友だちではあるのだけど。
彼はいつも話の中心のど真ん中辺りを陣取っていた。それがまるで当然のように。
そしてそれを隅で見ていた私に向かって手を差しのべて、君はどう思う?って。当然のように。
確かにそれが普段なのだけど、毎度いつの間に私の近くに来ているのだろう。遠くから傍観者を決め込んでいる私をわざわざ話に参加させる意味はあるのだろうか。
それでも彼は笑顔で惹き込むんだ。あの宝石を嵌め込んだ顔で。
眩しさに翳した手を下ろし、反射でなく目を細める。
強い光に反して優しい暖かさは彼の人柄そのもので、私はそれに包まれている気がしてむず痒くなった。
この時期は彼の季節だ。
そう言ったのは友人の誰かだったか、彼自身だったか。
彼の生まれも確かこの季節だった気がする。いや、次の季節だったかもしれない。
ギラギラと暑く凭れる季節だというのに移り変わりがあっさりとしているところは彼そのもののように思える。
でも次の瞬間には次の季節もその次の季節もなんだか似合っていて、結局は彼であれば私はなんでも良いんだろう。その隣にちゃっかり私が居ればそれは彼の季節になってしまうんだ。
阿呆だなと自分でも思う。でも限りなく盲目なんだ。
葉が揺れて風が来たのだと自覚する。
頬を撫でて前髪を逆立てる。知らずに火照っていた頬が気持ちよくて近くの植え込みの塀に腰掛けた。
ああ、彼もこんな風に時には静かに私の感情の昂りを宥めてくれたな。
親との喧嘩、愛猫の死、決まらぬ進路。
直接何かしてくれた訳じゃない。ただ、隣で寝ているふりをしてくれていた。それだけでも、ただ話を聞いて欲しいだけの私は心が安らいだ。
同意も同調も同情もしてほしくなかった。悩みを解決してほしいわけでもなかった。
ただそこに、聞いているような聞いていないようなあやふやな様子でいるだけであってほしかった。
今思い返すと面倒なやつだったと過去の自分を軽く馬鹿にする。でもそれに付き合ってくれた彼はその頃の私より馬鹿で、それでいて、面倒見がいいやつだった。
いや、面倒見がいいのは今も同じか。
一週間前、私の元に一通の葉書が届いた。私はそれの欠席に丸をつけて返した。
それは高校の同窓会の誘いで幹事は件の彼であった。
欠席にしたのに別段理由はない。ただ何となく、会うべきでないと何かが囁いた気がしたからだ。
恋人でもない癖に何をと自問したがそれ以来何かは答えてくれそうになかった。
私はそれが無性に悔しいような恥ずかしいような居たたまれない心地だった。
ーーもうそろそろ帰ろうか。
先生も院で診察している頃だろう。あの先生なかなか休みたがらないからな。
もうすぐ昼休みも終わり、午後の仕事が始まるまであと数十分。個人病院ながらそれなりに繁盛というと可笑しいが患者は多い。そこの看護師である私もそれなりに忙しい。
本当なら昼休みもあまり長くは取れない筈だが、本人は休まないくせして看護師たちには休ませようとする先生がいるから労働基準は先生以外は守られている。他の看護師たちは先生をお人好しだと言うが、どう見てもあれは暇がもったいないという社畜だろう。何かしていないと無駄な気がするのだ。
私も似たような性分なのでよくわかる。だから昼食後は少し腹ごなしにでもと散歩をしてみたのだが、どうやら失敗だったようだ。
どうしても彼が思い出されてあの葉書がフラッシュバックする。少し歪な半円を描いたあの瞬間が。まるで呪いのように、私の胸を締め付ける。
あのときの私は間違っていたのだろうか。
何度も自問した答えは未だ返ってこない。間違いかそうでないかという枠組みでないことは分かっているというのに。
私は臆病で、本当は答えを知りたくないのだろう。とっくの昔に悟っていた答えを。
太陽が追い立てる。
仕事か答えか。どちらをかすら分からず、私はすがるように見返した。
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