兄をたずねて魔の学園

沙羅

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それは、あまりにも突然のことだった。
入学してから約1週間が過ぎた頃。その時にはもうだいぶこの学園のことも分かってきていて、いかに生徒会の人たちが周りからアイドル的存在として見られているかも実感していたところだった。朝陽先輩の言っていた「信者がたくさん」という表現にも納得する。

普段の生徒会のメンバーの周りには他の生徒の壁があるために自分から近づくなんて現実的に不可能で、入学したての俺では手も足も出なかった。
なかなか生徒会の人との接触がなくてもだもだしていたその時、ついに彼らと接触できるチャンスが訪れた。

人通りの少ない廊下でのこと。生徒会メンバー特有の黒色のネクタイをした人たちが2人、正面から歩いてきたのだ。

「あ……」
ネクタイの色を視界にとらえた瞬間、つい声が漏れる。いつもとは違って、人の壁のない状態だった。ただ歩いているだけなのに、よく分からない圧を感じて緊張が高まる。
気付いてほしいのに、このまま何事もなく通り過ぎたい。

自然に、自然に。そう心の中で唱えながら通り過ぎようとしたその時。

「そこの1年、止まれ」と、鋭い声が空間に響いた。

「え」
足が脳を通さず命令をキャッチしたかのように、急に止まる。
何か気に障ることをしたのだろうか。ただ歩いていただけなのに? 理由もわからないのに怒られるのではないかという不安が溢れ出てきて、心臓がバクバクと高鳴る。

明らかな危機的状況なのに、闘争も逃走もできずただただ身体は固まるばかり。
そんな硬直した状態の俺を見て1人の男が近づいてきたかと思えば、急に顎を掴まれて視線を合わせるように仕向けられた。

「似てんなぁ……」
男は、人の顔をじろじろと見ながらそう呟く。目をそらすことも出来ない俺は、そんな男の整った顔を見つめ返すことしかできなかった。

「なぁ、ハルキと知り合い?」
急に出てきた兄の名前に、心臓が飛び出そうになる。平常心が保てていない状態で聞かれたのは、同室のメンバーと作戦会議をしたあの内容だった。
じゃあこの人が、俺の兄を……? いや、違う。俺の方から彼らに質問をするのは危険なんだ。なんとなく似ているな程度で聞かれた時の返答は……こうだったはず。

「いや……、存じ上げないです」
変な沈黙が流れてしまったけれど、きっとなんとか誤魔化せたのだろう。するりと男の手が抜けて、俺の顎は解放された。

「ふーん。似てると思ったんだけどな」
そう言って、男はすたすたと歩いていく。ようやく解放されたとほっとしていた俺は、ここにはもう1人いたことをすっかり忘れてた。

「ねぇ。なんで嘘ついたの?」
声が、真横から聞こえる。咎めるような内容だが、その声は酷く楽しそうだった。
「う、そ……?」
なんで。どうしてバレたのか。内心は焦りながらも、なんとか彼の言葉を繰り返す。

「ハルキ、って人物に心当たりがあるんだよね。明らかに間が不自然だったもん。1年生くんだから俺らのことが怖いのかな~なんて最初は思ったけど、解放された時の安堵の仕方が普通じゃなかった。緊張以外に、やましいことが何かあったんじゃない?」

そこまで言い当てられると、何も言い返すことが出来ない。こんな状況でどうすればいいかなんて話し合えているはずもなく、頭が真っ白になる。

「別にいいんだよ。言わなくても。真に告げ口しようなんて思っちゃいないし。でもさぁ……ただの1年生に嘘つかれたってのはあんまり良い気しないんだよね」

さっきの人も怖かったけれど、この人はもっと怖い。声は全部柔らかくて明るいのに、底知れない怖さを本能で感じる。

「君に入れ知恵した奴らにも一泡吹かせたいし。ちょうど俺の空いてるからこれ、受け取ってよ」

そう言って渡されたのは、黒薔薇があしらわれたネクタイピンだった。それは、『サポーター』に選ばれた者がその証としてつけるもの。

「いや、急に言われても……」
あまりにも予想外の展開に受け取るのをためらっていると、男はころころと笑いだす。
「断れると思ってんのウケるね。君の飼い主に言われなかった? 俺たちを怒らせちゃダメだよ~って」

止める間もなく、ネクタイへと伸ばされる手。
その手は器用にそこに一輪の薔薇を咲かせた。

「会長サマのペットになれるなんて光栄でしょ? これからよろしくね」

俺の学園生活は、平和からぐっと遠のいて、兄に一歩だけ近づいた。
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