兄をたずねて魔の学園

沙羅

文字の大きさ
6 / 24

06

しおりを挟む

「ところで」
少しだけ場の雰囲気が柔らかくなったところで、天先輩は俺たちがこんなことになったきっかけを思い出したらしい。
「君と、ハルキって人とはどういう関係?」

真っすぐ向けられる瞳に、今度こそ逃れることはできないと悟る。

「もともと聞く気はなかったんだけどさ。少し君のこと気になってきちゃった」

それは良い意味なのか、悪い意味なのか。それは分からないけれど、天先輩に隠し事が無駄だってことはこの数時間で十分に分かった。それに、天先輩はおそらく朝陽先輩たちの言っていたような異常な性癖を持っているわけではない。
だから、そういう意味では信頼に足るような人なのだろうと信じて、思い切って打ち明けることにした。

「ハルキは……池井春樹は、俺、池井秋弥の兄です」

俺にとっては一世一代の告白のつもりだったが、先輩の反応は薄い。「なるほどね」と小さく呟くだけだった。何が「なるほど」なのかと聞きたくて目を向けると、それを察した先輩が言葉を紡ぐ。

「ハルキ、って言葉の響き、興味が無さ過ぎて忘れてたけど今思い出したよ。真の『サポーター』やってる奴だ」
「真、先輩って」
「さっき君に声をかけた男だよ。現生徒会副会長」

そんな気はしていた。朝陽先輩たちとした会議でも、もし兄を『サポーター』にしている人がいるのであれば必ずこちらに接触があると考えていたから。でも、そうかもしれないという可能性と、実際にそうという証言をもらうのとでは、現実味が全然違う。

「兄は……どういうことをさせられているんですか」
朝陽先輩たちの話では、『サポーター』というのはとても口には出せないような制度だった。でも天先輩のように、『サポーター』がイコール性欲の対象でない人もいる。
そんな一縷の望みをかけて問うも、その希望は無残に打ち砕かれた。

「真はある意味まっとうな『サポーター』の使い方をしてるよ。君の兄は授業に出てないし、なんなら俺たちの前にもそうそう現れない。囲ってるって表現が一番適切だろうね。……そんなんだから、もちろん体の関係だってある。合意かどうかは分かんないけど」
「そ、んな……」

合意なら、自分に口が出せることはない。連絡がないのも、兄が愛する人を見つけて俺たちのことが煩わしくなったらそれでいい。
……でも本当に、無理やりにされているだけだったら?

そう考えると居てもたってもいられなくなって、自分の立場も忘れて彼に縋った。
「助けることは、できないんですか」

「できるよ」
彼が端的に肯定の意を示す。
「俺が今この学園で一番権力を持ってるわけだから、俺なら『サポーター』制度自体をぶち壊すことだってできる」

「じゃあ、」
それで全部解決じゃないか。天先輩の一言で、兄を助けることができるしこれ以上の犠牲者も出なくなる。

そんな簡単なことだったのかと思った矢先、俺は現実を思い知った。

「でも俺に、そうするメリットがないよね」
何を言っているのかと耳を疑う。でもそれは、幻聴なんかではなかった。

「むしろ旧生徒会の先輩たちの怒りを買うことになって、俺にとってはデメリットしかない。そこまでして君のお願いを聞くほど、君に価値があるの?」

少しだけ信頼できるところもあると思ったのに、やっぱりこの人はおかしい。
でも、一切の道徳心を無視するのであれば、天先輩の主張はその通りだった。損得の問題じゃないだろなんて、身内の俺だから言えることに過ぎない。きっと俺だって、兄じゃなかったら見逃している。

今の俺じゃ、説得なんて出来っこない。だから……

「会長にとって、価値のある人間になってみせます」

なんて、宣言をしてやった。

「……そ。期待してるよ」

それは少しも期待してなさそうな、こちらをバカにするような声色だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

従者は知らない間に外堀を埋められていた

SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL 転生先は悪役令息の従者でした でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません だから知らんけど精神で人生歩みます

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

処理中です...