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しおりを挟む天先輩にとって価値のある人間って、なんだろう。
『サポーター』になった後も、天先輩の宣言通り大きく俺の生活が変わることはなかった。敵対勢力みたいなものだと言っていたくせに、朝陽先輩たちとの連絡を止められることもない。連絡どころか先輩や夕斗は頻繁に「大丈夫か」って教室によく遊びに来てくれるけど、大げさな心配と現実とのギャップでこっちの方が驚くくらいだった。
そう。俺にとってはただただ自分の部屋が変わっただけという認識で、特に窮屈だと感じることもなかった。
一方で、それは裏を返せば、何も彼の好感度を上げるイベントが発生していないということを意味する。そのことに、じわじわと焦る気持ちが募っていった。
なんとか自分のことを気に入ってもらって、『サポーター』制度をなくすと宣言してもらわなくてはならないのに。
「会長って、俺にしてほしいこととかないんですか。ほら、『サポーター』って一応表向きは仕事の補佐じゃないですか。それなのに書類整理とか頼まれたことないなって」
悩んでいても仕方がないと思い、何か自分にできることはないのかと本人に聞いてみることにする。
「んー、大体のことは説明するより自分でやった方が早いんだよね」
このセリフは、と言いつつも説明する能力が低かったり人に仕事を振るのが下手だったりする人がよく使うセリフだが、彼の言い分は本当だった。一緒に生活をしてみればボロの1つや2つ出ると思っていたのに、一向にその気配がない。生徒会関係らしい書類仕事をてきぱきとこなし、学校で出されている課題だっていつの間にか終わらせている。うるさいからという理由で食事も自分で作ってここで食べているし、そこまでこなしてなお夜23時には睡眠に入る余裕もある完璧超人だった。
「まぁ、そうですよね」
だから本当に自分にはやれることがない。一緒の部屋に生活するようになってすぐは料理くらいは作ってやろうと思っていたのに、家で包丁も握ったことのなかった俺は会長を怒らせることしかできなかった。「無駄なことはしなくていいから」と冷たく言われ、それ以来はキッチンに入ることもしていない。
「あぁ、でも……」
取りつく島もないのかと思っていた時のことだった。
「今から仕事で真の部屋に行くんだ。面白そうだから君も来る?」
彼は突然、そんな提案をした。
真。それはたしか、副会長の名前だ。そして、俺の兄を閉じ込めている可能性の高いその人。
「それって……」
「鈍いね。お兄さんの顔を見に行ってみない?って聞いてるんだよ」
願ってもないお誘いだった。兄の顔を見るために、俺はこの学校まで来たのだから。
それに、兄が本当に望んで彼のもとにいるのか、無理やりに側に居させられてるのか、早急に確認しておきたいという気持ちもあった。
「行きます、行きたいです」
「じゃあ連れてってあげる。でも、1つだけ約束して」
お兄さんがどんな状況でも、決して行動を起こさないこと。
それが、天先輩から提示された同行の条件だった。
「あくまで今日は見に行くだけ。行動を起こすなら、俺とは関係ないところにして。まだ真とは良い関係で居たいんだ。それが君にできる?」
挑発的な物言いに、この人が親切心から言ったわけではないとすぐに分かった。おそらく俺は、試されている。価値のある人間になってみせると宣言した手前、もし兄を目の前にしても天先輩との約束の方を優先できるのかと。
だから、彼にとっての「面白そう」なのだ。
「でき、ます」
実際の光景を目にして本当に口を出さないことが出来るかは自信がないけれど、このチャンスをみすみす逃すわけにはいかない。
何か事態が好転することを信じて、可能だと返事をした。
「じゃあ行こうか」
脅しておきながら彼はこうなることを望んでいたようで、少し表情が柔らかくなる。副会長と話すために使うのであろう資料を束にして、扉を開いた。
会長と副会長の部屋は比較的近くにあるようで、気持ちを整える時間もないままにそこへとたどり着く。
この扉の向こうに、兄がいるのだ。
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