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1週目 [束縛]
第10話
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ジュースを一口飲むと、爽やかな酸味が口に広がる。ジャムならイチゴ、ジュースなら100%のリンゴ。それは、僕の好みを見抜いた朝食だった。
「拓海にこのリンゴジュースが好きなんて言ったことあったっけ?」
「言ってたよ、小学校の時。味覚が変わってなくてよかった」
「そんな昔のこと覚えてるの」
「うん。千秋ちゃん特化型記憶力持ってるから」
前から自分にだけ甘えるようなところはあったが、昨日からデレが酷すぎて調子が狂う。でもそれを、可愛いとどこかで感じてしまう自分もいた。
「ごちそうさまでした」
感謝の気持ちを込めてそう言えば、拓海のあとに続けて手を合わせる。
かと思えばすぐさま彼の目線はベッドへと移動して、僕に手を差し出すよう促した。
「はや」
「だって、もうご飯は終わったでしょう?」
別にまったく動けないわけじゃないから文句はないが、そこまで徹底をするものなのかと不思議に思う。そんなことしなくても、僕は拓海のもとから離れようなんてしないのに。
「……まぁいいけど」
「ありがと」
これがご飯を食べる度に毎回行われるのだと思うと、なんだか可笑しかった。
「なんで笑ってるの?」
「なんか、猛獣にでもなった気分だなって思って」
「千秋ちゃんはすぐに餓死しそうだよね」
「失礼な想像だな。運動神経悪いのからかってる?」
「違うよ。優しくて他の動物なんて襲えなさそうって意味」
そんな軽口を交わしているうちに、手にはまた重さが戻る。
「で? 今日は何かする予定あるの?」
「どうして?」
「こんなことまでして、何かしたいことがあったのかなって思って」
「……ううん、ただ千秋ちゃんと居たかっただけ」
そんなセリフ、僕なんかよりもっと言うべき相手がいるだろうに。
茶化しながらでもそれを口に出せなかったのは、少なからず自分がその言葉に嬉しさを感じているからなんだろうか。
拓海から注がれる甘い視線に耐えきれなくて、ぐるりと回りを見回した。
「にしても、拓海の部屋は小さいころから変わらないな」
記憶を辿るが、おそらく小学校の頃からほとんど変わっていない。飾りっ気どころか、テレビすら置かれていない部屋。その代わりに、本棚には本がびっしり詰まっている。
その本たちが高校生に似つかわしくないものばかりなのは、きっとお母さんとの思い出を閉じ込めているからなのだろう。
「ごめんね。遊ぶものないし退屈かも」
「いや、そういう意味で言ったわけじゃなくて。落ち着くなって思って」
「うん。僕もここに居るのが一番落ち着く。ここは、母さんと僕と千秋ちゃんしか入ったことのない部屋だから」
穏やかな時間が数時間流れて、再び拓海は1階へと降りていった。
水に濡れないようにか、机の上にはスマホが置かれている。
当然、そこには鍵がついたままなわけで。
「……何考えてんだろうな」
あんなに徹底しておいて、こんな初歩的なミス。今なら手錠を外せるし、鍵を隠すことだってできる。僕がそうするとは、考えないんだろうか。
……まぁ、そんな拓海が傷つくようなこと、僕はできないんだけど。
視線を動かすとふと、さっきは変わっていないと思った本棚に違和感を感じた。一番下の段に並べられているのは、題名のない真っ白な分厚い本たち。
何だろうと思って屈み、その本を引き出そうとする。が、きっちりと隙間なく並べられているためなかなか取り出せない。苦戦しながらもなんとか両手で掴んで引き寄せると、それはシンプルな作りのアルバムだった。
チャリ、と音を響かせながらぎこちなくページをめくっていく。そこには小学校からの、僕と拓海の思い出が詰まっていた。
いつ、何をしている時の写真だと思い出せるものから、記憶にないほどに些細な写真まで。そこにはたくさんの思い出があった。
そうそう、この頃の拓海は本当に天使みたいで。今だって綺麗な顔はしているけれど、この純粋無垢な頃の笑顔には勝てやしない。
そうやって昔の思い出に浸っていると、突然部屋の扉が開かれた。どうやら階段を上がってくる音すら、夢中になっていて聞き逃していたらしい。
「なに、してるの?」それは少しだけ、怯えた声。
「勝手にごめん。懐かしくてつい。よくこんなに写真残ってたな」
「……中学までは母さんが撮ってくれたから。あとは僕が撮ったり、学校の行事でプロが撮ったのを買って集めていっただけ」
「なるほど。だから最近は、2人で写ってる写真が少ないのか」
パラパラとページをめくる僕の動きを、じっと拓海が見守る。まるで、奇異なものを見るかのように。
「……気持ち、悪くないの」
「なんで?」
「自分の写真が勝手にアルバムにいれられてるのって、嫌じゃない?」
「拓海なら気にしないよ。それより見て、この頃の拓海の笑顔。天使みたい」
そう言って、さきほど天使みたいだと感じた写真に指をさす。拓海は安心したのか照れているのか、その写真を見ることなく顔を背けた。
「お昼ごはん運ぶから、それしまっておいて」
はーい、と子どもみたいな返事をしてアルバムをもとに位置に戻す。
鍵がアルバムの下敷きになっていたことに、この時初めて気が付いた。
「拓海にこのリンゴジュースが好きなんて言ったことあったっけ?」
「言ってたよ、小学校の時。味覚が変わってなくてよかった」
「そんな昔のこと覚えてるの」
「うん。千秋ちゃん特化型記憶力持ってるから」
前から自分にだけ甘えるようなところはあったが、昨日からデレが酷すぎて調子が狂う。でもそれを、可愛いとどこかで感じてしまう自分もいた。
「ごちそうさまでした」
感謝の気持ちを込めてそう言えば、拓海のあとに続けて手を合わせる。
かと思えばすぐさま彼の目線はベッドへと移動して、僕に手を差し出すよう促した。
「はや」
「だって、もうご飯は終わったでしょう?」
別にまったく動けないわけじゃないから文句はないが、そこまで徹底をするものなのかと不思議に思う。そんなことしなくても、僕は拓海のもとから離れようなんてしないのに。
「……まぁいいけど」
「ありがと」
これがご飯を食べる度に毎回行われるのだと思うと、なんだか可笑しかった。
「なんで笑ってるの?」
「なんか、猛獣にでもなった気分だなって思って」
「千秋ちゃんはすぐに餓死しそうだよね」
「失礼な想像だな。運動神経悪いのからかってる?」
「違うよ。優しくて他の動物なんて襲えなさそうって意味」
そんな軽口を交わしているうちに、手にはまた重さが戻る。
「で? 今日は何かする予定あるの?」
「どうして?」
「こんなことまでして、何かしたいことがあったのかなって思って」
「……ううん、ただ千秋ちゃんと居たかっただけ」
そんなセリフ、僕なんかよりもっと言うべき相手がいるだろうに。
茶化しながらでもそれを口に出せなかったのは、少なからず自分がその言葉に嬉しさを感じているからなんだろうか。
拓海から注がれる甘い視線に耐えきれなくて、ぐるりと回りを見回した。
「にしても、拓海の部屋は小さいころから変わらないな」
記憶を辿るが、おそらく小学校の頃からほとんど変わっていない。飾りっ気どころか、テレビすら置かれていない部屋。その代わりに、本棚には本がびっしり詰まっている。
その本たちが高校生に似つかわしくないものばかりなのは、きっとお母さんとの思い出を閉じ込めているからなのだろう。
「ごめんね。遊ぶものないし退屈かも」
「いや、そういう意味で言ったわけじゃなくて。落ち着くなって思って」
「うん。僕もここに居るのが一番落ち着く。ここは、母さんと僕と千秋ちゃんしか入ったことのない部屋だから」
穏やかな時間が数時間流れて、再び拓海は1階へと降りていった。
水に濡れないようにか、机の上にはスマホが置かれている。
当然、そこには鍵がついたままなわけで。
「……何考えてんだろうな」
あんなに徹底しておいて、こんな初歩的なミス。今なら手錠を外せるし、鍵を隠すことだってできる。僕がそうするとは、考えないんだろうか。
……まぁ、そんな拓海が傷つくようなこと、僕はできないんだけど。
視線を動かすとふと、さっきは変わっていないと思った本棚に違和感を感じた。一番下の段に並べられているのは、題名のない真っ白な分厚い本たち。
何だろうと思って屈み、その本を引き出そうとする。が、きっちりと隙間なく並べられているためなかなか取り出せない。苦戦しながらもなんとか両手で掴んで引き寄せると、それはシンプルな作りのアルバムだった。
チャリ、と音を響かせながらぎこちなくページをめくっていく。そこには小学校からの、僕と拓海の思い出が詰まっていた。
いつ、何をしている時の写真だと思い出せるものから、記憶にないほどに些細な写真まで。そこにはたくさんの思い出があった。
そうそう、この頃の拓海は本当に天使みたいで。今だって綺麗な顔はしているけれど、この純粋無垢な頃の笑顔には勝てやしない。
そうやって昔の思い出に浸っていると、突然部屋の扉が開かれた。どうやら階段を上がってくる音すら、夢中になっていて聞き逃していたらしい。
「なに、してるの?」それは少しだけ、怯えた声。
「勝手にごめん。懐かしくてつい。よくこんなに写真残ってたな」
「……中学までは母さんが撮ってくれたから。あとは僕が撮ったり、学校の行事でプロが撮ったのを買って集めていっただけ」
「なるほど。だから最近は、2人で写ってる写真が少ないのか」
パラパラとページをめくる僕の動きを、じっと拓海が見守る。まるで、奇異なものを見るかのように。
「……気持ち、悪くないの」
「なんで?」
「自分の写真が勝手にアルバムにいれられてるのって、嫌じゃない?」
「拓海なら気にしないよ。それより見て、この頃の拓海の笑顔。天使みたい」
そう言って、さきほど天使みたいだと感じた写真に指をさす。拓海は安心したのか照れているのか、その写真を見ることなく顔を背けた。
「お昼ごはん運ぶから、それしまっておいて」
はーい、と子どもみたいな返事をしてアルバムをもとに位置に戻す。
鍵がアルバムの下敷きになっていたことに、この時初めて気が付いた。
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