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1週目 [束縛]
第11話 ~拓海Side~
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千秋ちゃんの言葉で熱くなった頬を、まだ水が少し残ったままの冷たい手で冷やす。熱でもあるんじゃないかと錯覚するほど、その温度差は激しかった。
天使だなんて。男友達を形容するのに普通使うだろうか。
そんなことを言われると舞い上がってしまう。希望を持ってしまう。……千秋ちゃんの中でも、僕は少なからず特別ではあるんじゃないかって。
今日のお昼は、甘い卵焼きとみそ汁と、お肉を多めにいれた野菜炒め。男子高校生には少し物足りないかもしれないが、簡単なうえに美味しいので重宝している。
卵焼きが甘いのは、もちろん千秋ちゃんの好みだからだ。
喜んでもらえるだろうか、とワクワクする気持ちを抑えながら階段を上がる。
扉を開ければ、千秋ちゃんは待ってましたとばかりにこちらを見た。
「わっ、美味しそう!」
机に置かれるのも待たずに、千秋ちゃんはトレイの上の食器を覗き込む。
こうやって全身で感情を表すところが、一緒に居て飽きないなと思う。
「やっぱ拓海はすごいなぁ」
これくらいで褒めてもらえるのなら、千秋ちゃんが喜んでくれるというのなら、僕はいつだって彼のためにご飯を作るのに。
「ありがとう」
でも彼は、そこまでは望んでくれないのだ。
トレイを置くのと引き換えに、机の上に置いてあった携帯を手に取った。
もう片方の掌を上に向ければ、意図を汲み取った千秋ちゃんが迷いなく両手を僕の掌の上にのせる。
「なぁ、なんで置いてったの? 忘れてたわけじゃないんだろ?」
その問いに、心臓がトクンと跳ねた。千秋ちゃんにとっては何気ない疑問だったのかもしれないが、この行動の裏には自分の醜い心が隠されているから。
手錠なんてつけておいて説得力はないが、僕は別に千秋ちゃんを閉じ込めたいわけじゃない。無理やり側にいさせることが、いかに意味のないことかを知っているから。
逃げられる状況でも、側にいることを選んでくれることにこそ意味がある。たとえ僕が心配だからという理由であっても、千秋ちゃんが自分で側にいると決めることに意味がある。
……だってそっちの方が、愛されていると感じられるから。
机の上に、鍵が使われないまま置いてあるのが嬉しかった。
お昼ご飯のタイミングなのでどうせ外すことにはなるのだが、付け外しの役目を自分に一任してくれているままだというのが嬉しかった。
千秋ちゃんの性格的に、これが同情ということも分かっている。本当は、こんな試すようなことに意味なんてないということも。
でも、気休めだとしても、僕は愛されているという実感がほしい。
「千秋ちゃんは僕からもう逃げないって信じてるから」
信じてるって言えば、優しい千秋ちゃんは僕のことを裏切れないでしょう? 言外にそんな言葉を匂わせて。手錠よりも重い鎖を、言葉でつけるように。
「こんな大層な手錠まで用意しておいて?」
「あはは、たしかに」
「矛盾してるな」
「……うん、そうかも」
矛盾。たしかに今の自分の気持ちは、矛盾しっぱなしだ。
千秋ちゃんの幸せを願いたいのに、自分が一番じゃなくなるのは怖い。
千秋ちゃんを解放してあげたいのに、千秋ちゃん無しでは生きられない。
……千秋ちゃんとずっとこのまま2人だけの世界で居たいのに、それが千秋ちゃんの幸せにはならないと理解してしまっている。
千秋ちゃんの手から離れた手錠を、少しだけ荒っぽくベッドへと置いた。
こんな気休めにもならないもの、と八つ当たりをしながら。
「いっただきまーす」
それなのに指摘した張本人は、まるでこちらの気持ちなどおかまいなしのようにご飯に気持ちを寄せる。
「うん、美味しい! ほら、拓海も早く食べなよ」
この異常な空間にもっと怒ったっていいのに、美味しいと笑顔で自分の出したものを食べてくれる。そんなの、僕の昔の写真なんかより、千秋ちゃんの方がよっぽど天使だ。
心まで綺麗で、こっちまで浄化されるような本物の天使。
「いただきます」と手を合わせる仕草は、彼を拝んでいるようにも思えた。
天使だなんて。男友達を形容するのに普通使うだろうか。
そんなことを言われると舞い上がってしまう。希望を持ってしまう。……千秋ちゃんの中でも、僕は少なからず特別ではあるんじゃないかって。
今日のお昼は、甘い卵焼きとみそ汁と、お肉を多めにいれた野菜炒め。男子高校生には少し物足りないかもしれないが、簡単なうえに美味しいので重宝している。
卵焼きが甘いのは、もちろん千秋ちゃんの好みだからだ。
喜んでもらえるだろうか、とワクワクする気持ちを抑えながら階段を上がる。
扉を開ければ、千秋ちゃんは待ってましたとばかりにこちらを見た。
「わっ、美味しそう!」
机に置かれるのも待たずに、千秋ちゃんはトレイの上の食器を覗き込む。
こうやって全身で感情を表すところが、一緒に居て飽きないなと思う。
「やっぱ拓海はすごいなぁ」
これくらいで褒めてもらえるのなら、千秋ちゃんが喜んでくれるというのなら、僕はいつだって彼のためにご飯を作るのに。
「ありがとう」
でも彼は、そこまでは望んでくれないのだ。
トレイを置くのと引き換えに、机の上に置いてあった携帯を手に取った。
もう片方の掌を上に向ければ、意図を汲み取った千秋ちゃんが迷いなく両手を僕の掌の上にのせる。
「なぁ、なんで置いてったの? 忘れてたわけじゃないんだろ?」
その問いに、心臓がトクンと跳ねた。千秋ちゃんにとっては何気ない疑問だったのかもしれないが、この行動の裏には自分の醜い心が隠されているから。
手錠なんてつけておいて説得力はないが、僕は別に千秋ちゃんを閉じ込めたいわけじゃない。無理やり側にいさせることが、いかに意味のないことかを知っているから。
逃げられる状況でも、側にいることを選んでくれることにこそ意味がある。たとえ僕が心配だからという理由であっても、千秋ちゃんが自分で側にいると決めることに意味がある。
……だってそっちの方が、愛されていると感じられるから。
机の上に、鍵が使われないまま置いてあるのが嬉しかった。
お昼ご飯のタイミングなのでどうせ外すことにはなるのだが、付け外しの役目を自分に一任してくれているままだというのが嬉しかった。
千秋ちゃんの性格的に、これが同情ということも分かっている。本当は、こんな試すようなことに意味なんてないということも。
でも、気休めだとしても、僕は愛されているという実感がほしい。
「千秋ちゃんは僕からもう逃げないって信じてるから」
信じてるって言えば、優しい千秋ちゃんは僕のことを裏切れないでしょう? 言外にそんな言葉を匂わせて。手錠よりも重い鎖を、言葉でつけるように。
「こんな大層な手錠まで用意しておいて?」
「あはは、たしかに」
「矛盾してるな」
「……うん、そうかも」
矛盾。たしかに今の自分の気持ちは、矛盾しっぱなしだ。
千秋ちゃんの幸せを願いたいのに、自分が一番じゃなくなるのは怖い。
千秋ちゃんを解放してあげたいのに、千秋ちゃん無しでは生きられない。
……千秋ちゃんとずっとこのまま2人だけの世界で居たいのに、それが千秋ちゃんの幸せにはならないと理解してしまっている。
千秋ちゃんの手から離れた手錠を、少しだけ荒っぽくベッドへと置いた。
こんな気休めにもならないもの、と八つ当たりをしながら。
「いっただきまーす」
それなのに指摘した張本人は、まるでこちらの気持ちなどおかまいなしのようにご飯に気持ちを寄せる。
「うん、美味しい! ほら、拓海も早く食べなよ」
この異常な空間にもっと怒ったっていいのに、美味しいと笑顔で自分の出したものを食べてくれる。そんなの、僕の昔の写真なんかより、千秋ちゃんの方がよっぽど天使だ。
心まで綺麗で、こっちまで浄化されるような本物の天使。
「いただきます」と手を合わせる仕草は、彼を拝んでいるようにも思えた。
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