文豪たちの鎮魂歌~レクイエム~

桃井桜花

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第四話 ギフト

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───四月十一日 午後十五時。東京都・≪テロ・犯罪組織特殊課~クライシス~≫事務所

 クライシスの事務所で、無理矢理芥川君に書類整理をさせられている私。今すぐにでも抜け出したい。

「芥川君」

「仕事してください」

 先ほどからこのやり取りを三時間ほど行っている。大学から出た後、私は昼食を一時間ほど取り、十二時に事務所へと来たばかりであった。芥川君はちょうど昼食を取ろうと自分で作った手作り弁当を食べようとしたところに来た私は、すこーしだけ、芥川君の好物の汁粉を飲んだのだが、いつの間にか全部飲み切ってしまい芥川君の逆鱗に触れてしまった。そのせいで書類整理をすることになったのだ。

「ごめんって」

「今日という今日は許しません永井さん」

「最近できた喫茶店においしいお汁粉があったんだけど、お詫びに奢るからさ!ねっ?」

 芥川君は私に言葉にぴくっと反応した。お汁粉を私が奢るという誘惑に勝てはしないだろう。

「それと、今日は君を定時で上がらせてあげようではないか!いいや!副長官命令で定時で上がりなさい」

 すると、芥川君は嬉しそうにする場面なのに、体が小刻みに震わせ始めた。そして彼は私にこう言った。

「明日は雪が降るのか……それとも台風か?いや、その割には週末天気が良かった気が」

 いや、酷くない? 私の扱いひどすぎない? 

「永井さんは僕の代わりに今日は徹夜地獄をしてくれるんですね!ありがたい!では、太宰君と樋口さんが来たら僕のも入れて三人分のお汁粉を奢ってもらいましょうかね!」

「三人分はちょっと……」

「書類増やしますよ?」

 芥川君は自分の書類を私のデスクの上にあげようとした。私は『承りました!!』と言うと、芥川君は笑顔で『お願いしますね』と機嫌を直してくれた。徹夜地獄は免れなかったが、書類地獄は何とか免れたので一安心していると、事務室のドアが開いた。藍色の腰まである髪を黄色のリボンで結び、水色のワイシャツに黒いネクタイの上に黒色の外套を身に纏った少女。公安部から配属されてきた新人・樋口一葉君と太宰君が入ってきたのだが、昨日よりも仲が深まった雰囲気が出ていた。やっぱり私の狙い通りだ。そう思っていると樋口君が、私に話しかけてきた。

「永井副長官!太宰先輩を連れてきました!」

「永井でいいよ。それと太宰先輩って?」

「大学でも俺の一つ後輩だと判明したので!」

 うん。まぁ……ほかにもあるんだろうけど、それは聞かないことにしよう。大方芥川君について意気投合したんだろうな~。若いってすごいな……。

「太宰君、報告お願いします」

「報告ですか?」

 樋口君は首を傾げ、太宰君が『さっきのだ』と樋口君に教えた。

「そうでした!」

「ここに来る前に、少しですが中原中也と接触することが出来ました」

 中原中也。三年前に摘発されたテロ組織≪ユグドラシル≫がここ最近になってまた復活しつつある。三年前の大規模なテロ事件私たちはその事件を【殺戮無差別事件】と呼んでいる。現段階の≪ユグドラシル≫に行方不明になっていた中原中也が、再び現れたことを潜入捜査を任せている者から報告があった。太宰君と中原君とは因縁があって、太宰君は自分の立場を隠しながら、中原君と交流している。まぁ捜査の一環でもあるからちょうどいいのかもしれない。

「相変わらず喧嘩っ早い中也でした。樋口のことも気に入られてこの通り」

 太宰君はそう言うと、樋口君が外套のポケットの中から水色の飴玉を取り出した。

「飴玉貰いました!」

 私と芥川君は顔を互いに見合わせた後、同時にため息をついた。

「はぁぁぁぁ……。太宰君も中也君に甘いよね。友人だからかい?任務では私情は挟まないことになっているの覚えているよね?」

「仲良くありません!私情もありませんから!!ただ、中也に樋口と一緒にいるところに遭遇してしまって、樋口が中也に話しかけてしまって、なんだかんだ意気投合して中也が樋口のことを気に入ってしまって……もう嫌です」

 太宰君は顔を両手で隠し、床に転がってしまった。樋口君はそんな太宰君を慰め始めた。太宰君は中原君のことを嫌っているからね~。それでも友人という仲はいつになっても破られない。まぁ、私情がない分まだいい方か。

「樋口君、その飴玉舐めない方がいい。貸してごらん」

 私は樋口君から飴玉を貰い、包み紙から飴玉を取り口の中に放り込んだ。樋口君と太宰君は驚いた顔をし、芥川君は普通に私のことを見ていた。

「な、永井さん!?」

「あ、芥川先輩!!黙ってみていないで吐き出させてくださいよ!!」

「この人、毒耐性持っているから大丈夫だ。それより永井さん、その飴玉矢張り毒ですか?」

 芥川君の言葉に太宰君と樋口君は、私の方に一斉に振り向いた。そんなに驚くことかい? 驚くことか~。

「苦いねえ~。トリカブト毒だ。おいしくないし、苦みが強いからすぐにわかるさ。でもまぁ、普通のトリカブトの苦みより若干弱い。隠すのうまいね」

 私は芥川君に言った後,飴玉をかじって飲み込んだ。樋口君と太宰君は私の行動に驚き、太宰君に至っては半分気絶し始めている。

「太宰くーんしっかりなさいな~。二年在籍しているのにこんなこともわからなかったのかい?」

「説明今までなかったじゃないですか!!」

「ありゃ、教えていなかったっけ?失敗失敗」

 芥川君は私の頭をまた新聞紙で叩いた。昨日から叩かれているんだけど、頭の細胞が減るというと、『あんた脳みそあったんですか』とツッコまれてしまった。

「ひっどーい!」

「五月蝿い。さっさと説明してあげなさい永井さん」

「はいはい。【ギフト】と呼ばれる特殊な能力があるのをご存じかな?」

 樋口君は首を振り、太宰君は何かを思い出したかのように声を上げた。

「あっ!」

「太宰君は気づいたみたいだね。【ギフト】は生まれながら持つ才能みたいなものだ。その才能は色々種類があってね、他人の過去を読み取ることが出来るものや、未来を見ることが出来るもの、身体を強化や回復が出来るもの、他者を支配できるものなどが存在する。私は【すべての毒に耐性がついているギフト】、芥川君は【触った相手の過去が見れるギフト】、太宰君は【他者の精神を崩壊させるギフト】でも、太宰君の場合、ギフトが強力すぎて制限があるんだ。夕日が昇る時間には自動的にギフトが使えなくなり、普通ギフトが使えない一般人になってしまうんだ。尋問するときは夕日が昇る前に終わらせないといけない。精神を崩壊させながらの尋問は太宰君の特技でもあるからね」

「へぇ~!でも私、その【ギフト】というものを持っていませんけど……」

 樋口君はキョトンとした顔でそう言ってきた。私の予想は的中だ。でもそれは勘違いであり、持っていないわけではない。だけ。まだ現時点で彼女に教えるのはお勧めできないからここは、はぐらそう!

「まぁーいいや!堅苦しい話はもうやめ!私の奢りでお汁粉食べに行くよ!芥川君もそわそわしているし、でもまぁ、樋口君これだけは助言しよう!

何としても自分の身は自分で守れ」

「はっはい!!」

 私は樋口君にそう助言をし、書類をデスクの上に放り投げ黒色のコートを羽織り、四人で事務所を出たのであった。
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