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樋口・織田編
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───四月十四日 午後十六時半。東京都・新聞社前
私、樋口は永井さんに命じられ、織田作先輩と共に芥川先輩が勤務している新聞社前にいます。織田作先輩によるともうそろそろあがる時間だとのことで、それまで織田作先輩と暇つぶし程度に会話をしているところです!
「織田作先輩は何時ごろからこの【クライシス】に加入されたんですか?」
「ん~、あれはな~永井さんに助けられたときやったな~」
「助けられた?」
織田作先輩はこちらをちらっと見て頷いた。
「そうや!俺な、あの三年前の事件の時丁度、治君と安吾と一緒にいたんや。町の中を歩いていた時、偶然テロに巻き込まれてしまってな~」
「それでどうなったのですか?」
「治君が撃たれてしまってな……瀕死状態に陥ったんや。俺や安吾では何もできないところに永井さんが治君を救ってくれたんや。まぁ治君はあの通り今はピンピンしとるけど、未だに後遺症があるんや。あの事件以来あの子は自ら死を望むようになった。不真面目そうな永井さんだけど、治君の後遺症を治そうと今でも奮闘中ってわけや。あの時何もできなかった俺は永井さんの恩返しを含め、治君の後遺症を治すために、治君と一緒に【クライシス】に入ったんや!」
自分のためにではなく、永井さんの恩返しと太宰先輩のために加入した。私とは違うな……。誰かのために戦う。私には到底無理な気がしますね。
「樋口ちゃんは、なんで公安部から【クライシス】に配属されてきたんや?」
「私は……」
私は織田作先輩の問いに応えようとした瞬間、織田作先輩に『危ない!!』と引き寄せられた。織田作先輩が誰かを睨めつけているのを知った私は、織田作先輩の視界に目を向けると、背中まで伸びている黒髪を右側だけみつあみに結び、黒いロングコートに身を包み、光のない濁りのある紫色の瞳が特徴的な青年がいた。その青年の右手は行き場をなくし、その場に立ち尽くしていた。織田作先輩は怒っているのか先ほどとは違う声に低さで、青年に話しかけた。
「あんた、この子に触ろうとしただろう……何のつもりや」
私を護るかのように抱きしめている力が強まった。すると、青年は右手を口に持っていき、クスクスと笑い出した。
「何が面白いんや!!」
「いいえ。ただ、そんなにそのレディが大切なのかと」
青年の綺麗に透き通った声が響いた。織田作先輩は青年の問いに『当たり前や!』と答えた。
「ほほう……それは純愛というものでしょうか?」
「ちゃう。俺がこの子に抱いているのは【先輩としての愛】だ」
「そんな愛も存在するのですね……日本にいると面白い回答が聞けるのでますます居たくなりますね」
何なんでしょう……この感覚。聞いたこともある声で、何となくこの声を聴いていると気持ちが落ち着く。
「あんた名はなんていうんや」
「フョードル・ドストエフスキー。この名を知っているはずですよね?」
確か三年前の事件にいた人物! 首領の右腕として活躍していたと聞いたことがあったはず……。公安部にいたころの資料ではそう書かれていましたけど、会ったことも声を聴いたこともないのに何故知っているのでしょうか?
「知っているに決まってるやろ!俺はあんたを許さへん!!」
織田作先輩は突然、彼の名を聞いた途端声を荒げた。
「僕も貴方をご存じですよ?織田作之助さん」
「あんたに名前を呼ばれたくないねんやけどな!治君を撃った本人になぁ!!」
太宰先輩を撃った張本人!?
「それって本当なのですか!?」
「そうや、そいつが犯人や!」
「犯人呼びとは……悲しいものですね。まぁそんなことは置いときまして、樋口一葉さん貴女が欲しい。首領命令で貴女をいつかこっち側に引き抜きます。今日はそのことをお伝えしに来ました。貴女の【ギフト】は僕たちがいる世界にふさわしいものです。今すぐでもいいのですが、心の整理が必要でしょう。ですから今日は帰ります。ちなみに、僕は常に貴女の御傍にいます。では」
フョードル・ドストエフスキーは私にそう告げ、この場から去っていった。織田作先輩は私を離し、『大丈夫か?』と心配してくださり、私は頷くと、頭を撫で『怖かったな』と言ってくださいました。
「今日のことは永井さんや芥川さんに伝えんとな……樋口ちゃんが狙われるとなれば対策練らんとな」
「あのフョードル・ドストエフスキーという青年。会ったこともないのに、今日が初めてじゃない感じがします」
「樋口ちゃんが気付かなかっただけで、もしかしたらどこかで会っているんじゃないか?」
織田作先輩の言う通りなのかもしれない。
「今日はこの後芥川さんも一緒だから、俺たちから離れんといてな?」
「はい!」
あまり先輩を困らせないよう元気よく返事をすると、また頭を撫でられ、タイミングよく芥川先輩が社から出てきて少しからかわれた後、フョードル・ドストエフスキーのことを話した。
そしてその日のうちに【クライシス】のメンバーと会議が始まったのであった。私は彼の最後の言葉が気になり、会議の内容が耳に入ってこなかったのでした。
───僕は常に貴女の御傍にいます
私、樋口は永井さんに命じられ、織田作先輩と共に芥川先輩が勤務している新聞社前にいます。織田作先輩によるともうそろそろあがる時間だとのことで、それまで織田作先輩と暇つぶし程度に会話をしているところです!
「織田作先輩は何時ごろからこの【クライシス】に加入されたんですか?」
「ん~、あれはな~永井さんに助けられたときやったな~」
「助けられた?」
織田作先輩はこちらをちらっと見て頷いた。
「そうや!俺な、あの三年前の事件の時丁度、治君と安吾と一緒にいたんや。町の中を歩いていた時、偶然テロに巻き込まれてしまってな~」
「それでどうなったのですか?」
「治君が撃たれてしまってな……瀕死状態に陥ったんや。俺や安吾では何もできないところに永井さんが治君を救ってくれたんや。まぁ治君はあの通り今はピンピンしとるけど、未だに後遺症があるんや。あの事件以来あの子は自ら死を望むようになった。不真面目そうな永井さんだけど、治君の後遺症を治そうと今でも奮闘中ってわけや。あの時何もできなかった俺は永井さんの恩返しを含め、治君の後遺症を治すために、治君と一緒に【クライシス】に入ったんや!」
自分のためにではなく、永井さんの恩返しと太宰先輩のために加入した。私とは違うな……。誰かのために戦う。私には到底無理な気がしますね。
「樋口ちゃんは、なんで公安部から【クライシス】に配属されてきたんや?」
「私は……」
私は織田作先輩の問いに応えようとした瞬間、織田作先輩に『危ない!!』と引き寄せられた。織田作先輩が誰かを睨めつけているのを知った私は、織田作先輩の視界に目を向けると、背中まで伸びている黒髪を右側だけみつあみに結び、黒いロングコートに身を包み、光のない濁りのある紫色の瞳が特徴的な青年がいた。その青年の右手は行き場をなくし、その場に立ち尽くしていた。織田作先輩は怒っているのか先ほどとは違う声に低さで、青年に話しかけた。
「あんた、この子に触ろうとしただろう……何のつもりや」
私を護るかのように抱きしめている力が強まった。すると、青年は右手を口に持っていき、クスクスと笑い出した。
「何が面白いんや!!」
「いいえ。ただ、そんなにそのレディが大切なのかと」
青年の綺麗に透き通った声が響いた。織田作先輩は青年の問いに『当たり前や!』と答えた。
「ほほう……それは純愛というものでしょうか?」
「ちゃう。俺がこの子に抱いているのは【先輩としての愛】だ」
「そんな愛も存在するのですね……日本にいると面白い回答が聞けるのでますます居たくなりますね」
何なんでしょう……この感覚。聞いたこともある声で、何となくこの声を聴いていると気持ちが落ち着く。
「あんた名はなんていうんや」
「フョードル・ドストエフスキー。この名を知っているはずですよね?」
確か三年前の事件にいた人物! 首領の右腕として活躍していたと聞いたことがあったはず……。公安部にいたころの資料ではそう書かれていましたけど、会ったことも声を聴いたこともないのに何故知っているのでしょうか?
「知っているに決まってるやろ!俺はあんたを許さへん!!」
織田作先輩は突然、彼の名を聞いた途端声を荒げた。
「僕も貴方をご存じですよ?織田作之助さん」
「あんたに名前を呼ばれたくないねんやけどな!治君を撃った本人になぁ!!」
太宰先輩を撃った張本人!?
「それって本当なのですか!?」
「そうや、そいつが犯人や!」
「犯人呼びとは……悲しいものですね。まぁそんなことは置いときまして、樋口一葉さん貴女が欲しい。首領命令で貴女をいつかこっち側に引き抜きます。今日はそのことをお伝えしに来ました。貴女の【ギフト】は僕たちがいる世界にふさわしいものです。今すぐでもいいのですが、心の整理が必要でしょう。ですから今日は帰ります。ちなみに、僕は常に貴女の御傍にいます。では」
フョードル・ドストエフスキーは私にそう告げ、この場から去っていった。織田作先輩は私を離し、『大丈夫か?』と心配してくださり、私は頷くと、頭を撫で『怖かったな』と言ってくださいました。
「今日のことは永井さんや芥川さんに伝えんとな……樋口ちゃんが狙われるとなれば対策練らんとな」
「あのフョードル・ドストエフスキーという青年。会ったこともないのに、今日が初めてじゃない感じがします」
「樋口ちゃんが気付かなかっただけで、もしかしたらどこかで会っているんじゃないか?」
織田作先輩の言う通りなのかもしれない。
「今日はこの後芥川さんも一緒だから、俺たちから離れんといてな?」
「はい!」
あまり先輩を困らせないよう元気よく返事をすると、また頭を撫でられ、タイミングよく芥川先輩が社から出てきて少しからかわれた後、フョードル・ドストエフスキーのことを話した。
そしてその日のうちに【クライシス】のメンバーと会議が始まったのであった。私は彼の最後の言葉が気になり、会議の内容が耳に入ってこなかったのでした。
───僕は常に貴女の御傍にいます
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