文豪たちの鎮魂歌~レクイエム~

桃井桜花

文字の大きさ
9 / 13

樋口・織田編

しおりを挟む
───四月十四日 午後十六時半。東京都・新聞社前

 私、樋口は永井さんに命じられ、織田作先輩と共に芥川先輩が勤務している新聞社前にいます。織田作先輩によるともうそろそろあがる時間だとのことで、それまで織田作先輩と暇つぶし程度に会話をしているところです!

「織田作先輩は何時ごろからこの【クライシス】に加入されたんですか?」

「ん~、あれはな~永井さんに助けられたときやったな~」

「助けられた?」

 織田作先輩はこちらをちらっと見て頷いた。

「そうや!俺な、あの三年前の事件の時丁度、治君と安吾と一緒にいたんや。町の中を歩いていた時、偶然テロに巻き込まれてしまってな~」

「それでどうなったのですか?」

「治君が撃たれてしまってな……瀕死状態に陥ったんや。俺や安吾では何もできないところに永井さんが治君を救ってくれたんや。まぁ治君はあの通り今はピンピンしとるけど、未だに後遺症トラウマがあるんや。あの事件以来あの子は。不真面目そうな永井さんだけど、治君の後遺症トラウマを治そうと今でも奮闘中ってわけや。あの時何もできなかった俺は永井さんの恩返しを含め、治君の後遺症トラウマを治すために、治君と一緒に【クライシス】に入ったんや!」

 自分のためにではなく、永井さんの恩返しと太宰先輩のために加入した。私とは違うな……。誰かのために戦う。私には到底無理な気がしますね。

「樋口ちゃんは、なんで公安部から【クライシス】に配属されてきたんや?」

「私は……」

 私は織田作先輩の問いに応えようとした瞬間、織田作先輩に『危ない!!』と引き寄せられた。織田作先輩が誰かを睨めつけているのを知った私は、織田作先輩の視界に目を向けると、背中まで伸びている黒髪を右側だけみつあみに結び、黒いロングコートに身を包み、光のない濁りのある紫色の瞳が特徴的な青年がいた。その青年の右手は行き場をなくし、その場に立ち尽くしていた。織田作先輩は怒っているのか先ほどとは違う声に低さで、青年に話しかけた。

「あんた、この子に触ろうとしただろう……何のつもりや」

 私を護るかのように抱きしめている力が強まった。すると、青年は右手を口に持っていき、クスクスと笑い出した。

「何が面白いんや!!」

「いいえ。ただ、そんなにそのレディが大切なのかと」

 青年の綺麗に透き通った声が響いた。織田作先輩は青年の問いに『当たり前や!』と答えた。

「ほほう……それは純愛というものでしょうか?」

「ちゃう。俺がこの子に抱いているのは【先輩としての愛】だ」

「そんな愛も存在するのですね……日本にいると面白い回答が聞けるのでますます居たくなりますね」

 何なんでしょう……この感覚。聞いたこともある声で、何となくこの声を聴いていると気持ちが落ち着く。

「あんた名はなんていうんや」

「フョードル・ドストエフスキー。この名を知っているはずですよね?」

 確か三年前の事件にいた人物! 首領の右腕として活躍していたと聞いたことがあったはず……。公安部にいたころの資料ではそう書かれていましたけど、会ったことも声を聴いたこともないのに何故

「知っているに決まってるやろ!俺はあんたを許さへん!!」

 織田作先輩は突然、彼の名を聞いた途端声を荒げた。

「僕も貴方をご存じですよ?織田作之助さん」

「あんたに名前を呼ばれたくないねんやけどな!治君を撃った本人になぁ!!」

 太宰先輩を撃った張本人!? 

「それって本当なのですか!?」

「そうや、そいつが犯人や!」

「犯人呼びとは……悲しいものですね。まぁそんなことは置いときまして、樋口一葉さん貴女が欲しい。首領命令で貴女をいつかに引き抜きます。今日はそのことをお伝えしに来ました。貴女の【ギフト】は僕たちがいる世界にふさわしいものです。今すぐでもいいのですが、心の整理が必要でしょう。ですから今日は帰ります。ちなみに、僕は常に。では」

 フョードル・ドストエフスキーは私にそう告げ、この場から去っていった。織田作先輩は私を離し、『大丈夫か?』と心配してくださり、私は頷くと、頭を撫で『怖かったな』と言ってくださいました。

「今日のことは永井さんや芥川さんに伝えんとな……樋口ちゃんが狙われるとなれば対策練らんとな」

「あのフョードル・ドストエフスキーという青年。会ったこともないのに、今日が初めてじゃない感じがします」

「樋口ちゃんが気付かなかっただけで、もしかしたらどこかで会っているんじゃないか?」

 織田作先輩の言う通りなのかもしれない。

「今日はこの後芥川さんも一緒だから、俺たちから離れんといてな?」

「はい!」

 あまり先輩を困らせないよう元気よく返事をすると、また頭を撫でられ、タイミングよく芥川先輩が社から出てきて少しからかわれた後、フョードル・ドストエフスキーのことを話した。

 そしてその日のうちに【クライシス】のメンバーと会議が始まったのであった。私は彼の最後の言葉が気になり、会議の内容が耳に入ってこなかったのでした。



───僕は常に
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...