文豪たちの鎮魂歌~レクイエム~

桃井桜花

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第八話 対面

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───四月十八日 午前八時。東京都・《テロ・犯罪組織特殊課~クライシス~》事務所にて

 樋口くんと坂口君。それと芥川君を沖縄へと派遣させた。期間は五日間。理由は樋口君の息抜きと《クライシス》の事務所にが訪問してくるからだ。そのため私は東京都に残り、樋口君のことは彼らに任せることにしたのだ。太宰君と織田君は私と共に残ってもらい、私の補佐をしてもらおうと思う!

「それをなーぜ今言うんですか!!」

「永井さん、あんた毎度遅くなってから喋るのやめてくれませんかい?」

 と現在、織田君と太宰君に説教されている永井荷風【齢二十四】大学教授さ!

「ごめんって~でも、二人だって坂口君を休ませてあげたかったんだからちょうどいいんじゃないかな~って思ってね」

「そうですけど……」

「それで永井さん、《クライシスここ》に奴らが現れるんですか?」

 織田君の問いに私は静かに頷いた。すると、太宰君は一瞬だったが体を小さく震わせた。それを織田君と私は見逃さなかった。

「治君?」

「太宰君、心配することはないよ。君は何もしなくていい、すべて私が終わらせるから」

 太宰君の背中をさすってあげると、安心したのか小さく頷いてくれた。最初は太宰君も沖縄に渡って貰おうかと思ったのだが、彼の後遺症トラウマを克服させるためにわざと事務所に残ってもらった。そのため、太宰君の一番の理解者である織田君にも残ってもらった。この件が終わり次第、連休を与えようかとも考えている。そうなったら、徹夜地獄が回ってくるけどね!! でも、部下のためなら自分の身は削っても構わないから。

「永井さん、長官はどうなっとるん?」

「夏目先生は公安部の方にいるさ。今回の件は長官の夏目先生が出る幕じゃないからね!あくまで、の痴話喧嘩だよ」

 私は二人に言った瞬間、突然事務所のドアが勢い良く開いたのだ。背中まで伸びている黒髪を右側だけみつあみに結び、黒いロングコートに身を包み、光のない濁りある紫色の瞳が特徴の男……【フョードル・ドストエフスキー】と太宰君よりも背が低く、髪色がクリーム色で、ハーフアップの上に黒いソフト帽子を被り、黒いワイシャツに身を包み、右肩に白色の外套を掛けた青年……【中原中也】。

 そして、丸刈りで白色の着物に身を包み、黒色の羽織を肩に掛けた長身の男……【正岡子規】が現れた。織田君はすぐさま、太宰君を自分の背中に隠し、織田君の背中から顔を出した太宰君。私は二人の前に立ち、正岡子規に営業スマイルをかました。

「どうも~正岡さんとその一同」

「荷風さんもお元気で何よりです」

 正岡を後ろに身を隠し、フョードルが私の前に出てきた。紫色の瞳と赤い瞳が交差した。

「やぁ~フョードル・ドストエフスキー君、いつになったらこの日本から帰ってくれるのかな?別に差別じゃないからね?ただ、君が腹立たしいんだよ」

「フェージャと呼んでくださいよ。僕は貴方のことを好んでいるので。親しみを込めてそう呼んでください」

「君の場合、親しみじゃなくて憎しみの間違いじゃないかな?」

「クスッ、違いますよ」

 私とフョードルは声を出して笑った。だが、彼も心の底から笑えないだろう。当然私もだけどね。

「ドス、笑っていないで早く樋口の場所聞き出そうぜ!」

 中原君はフョードルに言うと、『そうですね』と頷いた。私はため息をつき、首を横に振った。

「彼女はここにいないよ。仮に居場所を把握して部下を送っているなら……馬鹿だと思うよ」

「んだと!?」

「私の部下たちは賢いからね~君たちの部下たちを拘束し、軍警に連絡しているさ。頭の回転の悪い中原君にはわからないと思うけど、頭脳派のフョードルや正岡さんならこの意味わかるでしょ?」

 中原君は突如姿を消し、いつの間にか私の右側に姿を現し、左拳で私の顔面を殴ろうとした。だが拳を振りかざそうとした瞬間、その拳はわずか一ミリ単位で止まった。氷以下の冷たい威圧感を感じたからであろう。中原君の拳はかすかに震えていた。そして、正岡さんが口を開いた。

「中也君。彼を今この場で殺しても無意味なだけだ。戻れ」

「はい……」

 中原君は松岡の言うとおりに拳を下ろし、正岡の横に戻っていった。



「正岡さん、彼女は渡さない。今日のところはお引き取りください」

 私と正岡は無言でにらみ合いをし、数秒後正岡は『楽しみにしている』と一言だけつぶやき、事務所から出て行った。中原君は太宰君に舌打ちをした後正岡の後ろを追っていった。フョードルだけが残り、フョードルは静かに笑い、私にこう告げた。

「僕は貴方と樋口さんを手に入れます。たとえ、組織を裏切ってでも

「そう。私には関係のない話だね。やってみれるものならやってみれば?」

「えぇ。それまで大人しくいてくださいね?あぁ、それと太宰君。貴方もよければ……」

 フョードルが太宰君に近寄ろうとすると、織田君が拳銃を胸ポケットから取り、フョードルの眉間に拳銃を突き付けた。

「いい加減にしろ。治君にまた手を出すんだったら今すぐここで殺す」

 織田君はいつものほんわかな雰囲気で大阪弁をしゃべるが、逆鱗に触れると標準語で話す癖がある。今の織田君は物凄くキレているのが分かる。

「お、織田作……」

「フフフ、彼がいないときにまた会いましょう。死にたくありませんからね、ではまた」

 フョードルは笑顔で手を振りながら事務所を去っていった。太宰君は突如、呼吸が出来なくなり、ひゅーひゅーと音を出しながらその場にしゃがみこんでしまった。織田君は太宰君の背中をさすりながら『大丈夫や、深呼吸や。ゆっくりな~』と何時もの大阪弁口調で太宰君を落ち着かせ、次第に落ち着きを取り戻した太宰君はそのまま眠ってしまった。

「寝ちゃったね~そこのソファーに寝かせてあげて」

「そうやな」

 織田君は太宰君を抱きかかえ、事務所のソファーに寝かせた。私は自分の外套を太宰君に掛けてあげた。

「永井さん」

「織田君、樋口君たちが帰ってくるまで気を抜いたら駄目だからね。太宰君を守ってあげなさい」

 私は織田君を横でちらっと見ると、真剣なまなざしで太宰君を見つめながらうなずいた。


 地獄の五日間が今開幕したのであった。
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