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異世界生活のはじまり
しおりを挟むふと目を覚ませば僕は、白くて丈の長いまるで魔法使いのようなローブをまとって森のなかにいた。
風が肌を撫で、髪をゆらし、木々の匂いが鼻をくすぐる。
外気を思いっきり吸いこんで、僕はポツリと呟いた。
「外だ……」
パッと見は普通の森のようだったけれど、まわりを見わたせば空をモンスターらしきものが飛んでいるし、地面には見たこともないような不思議な植物が生えているから、ジワジワと異世界に来たという実感がわいてくる。
「ここが、異世界……」
この世界のことは女神様からだいたい聞いていたけれど、さっそく『知識の書』でこの世界のことを調べてみる。
そうしたら──
『パスフリーデンは、善神である女神リアラフェーメが作った世界にある様々な種族が生存している天体。形状は回転楕円体で、循環性が高く──』
ものすごい量の情報が頭の中に流れこんできた。
頭が破裂するのではないかと思うくらいの情報量に、慌ててスキルの使用を止める。
「これ、神様みならいの身体じゃなかったら死んでたんじゃ……」
多すぎる情報を脳が処理できずに死にそうになっていた異世界ものの主人公を思い出したけれど、考えないように頭を振ってごまかした。
せっかく異世界に来たんだ。
しばらくはこの世界に浸ってよう。
異世界ものの本を読んでからなんど憧れ、なんど夢見てきただろうか。
その世界が今、目の前に広がっている。
僕はそのことに感動して、この地球とは異なる世界にうっとり見惚れた。
けれどそうすること数分、ハッと我に返った。
「いけない、ちょっと見惚れすぎてた」
いくら異世界移転に感動したからって見惚れすぎだよね。
どうせなら、もっといろいろ見てまわらなきゃ。
そう思って、恐る恐る一歩踏みだす。
「僕、歩けてる……」
なにを当たり前のことをと思うかもしれないけれど、僕は病状が悪化してからは自分の力だけで歩いたことはなかったし、ここ1年はずっと寝たきりで歩いていなかった。
だから身体が神様みならい仕様になってもう健康体だとわかってはいても、誰の力も借りずにひとりで歩けることにものすごく感動したんだ。
そして、僕はその感動のまま身体を思いっきり動かしだす。
「走れてる! 回れるし、踊ったりだってできる! ぃやったーっ!」
興奮して、思うままに逆立ちしたり側転したりいろんな動きをした。
けれど興奮しすぎて思いっきりジャンプしたら、ものすごい高さまで飛んでしまって──
「──ひぇっ!?」
あまりの高さに情けない悲鳴をあげて固まってしまった。
けど、飛んだら落ちるのが自然の摂理でしてね?
「ぎゃぁああああああっ!!」
いったん止まったと思ったら、地面まで一気に落ちてく。
高く飛びすぎて落下とか異世界ものでもよくあった定番じゃん!
興奮しすぎたとはいえ何やってるんだ僕っ!
どうにかしなくてはと思うものの、パニックになった頭ではいい考えなんか浮かぶはずはなくて、僕はそのまま地面に激突した。
あ、これ死んだ
そう思ったけれど、さすが神様みならい仕様。
オート設定にしてある守護の壁のおかげで、この身体には傷ひとつついていなかった。
かわりに地面に大きな穴ができてしまったけれど、ジャンプして落ちたから死にましたなんて醜態を晒さずにすんでよかった。
「はぁ~、びっくりした」
自分のせいで開いた穴からよいしょっと這いでて大きく息をつく。
「それにしても、すごい体だなぁ」
そう呟きながら、神様みならいに転生した体をいろいろとたしかめる。
残念ながら鏡がないから顔はわからなかったけれど、髪は黒色のままで長さも変わらずすこし長めのままなのがわかった。
けれど身体つきはものすごく変わっていて、骨と皮ばかりに痩せていた体型はほどよく筋肉のついた健康的なものになっていた。
……身長は小さいまま変わってないみたいだ。
どうせなら身長も伸ばしてくれればよかったのに、とすこし拗ねていたら、ふと自分が落ちて開けてしまった地面の穴が目に入った。
「けっこう深い穴が開いちゃったなぁ」
わざとしたわけではないけれど、改めて見るとその大きさにすこし罪悪感がわいてくる。
「直さなきゃ、いけないよね。よし、やるか!」
そう気合いを入れて、自分が開けてしまった穴に向きなおる。
「こういうときは魔法の出番ですよね! あ、呪文はどうしよう」
異世界についたら使ってみようと思っていたんだけれど──
「サンドショット……だめだ、よけい地面に穴空くよね。サンドストーム、は砂嵐だしなぁ……」
なかなかいい呪文が思い出せない。
新しく考えようにも、穴を埋める呪文なんて考えつかなくて頭を悩ませる。
僕は物語の主人公たちみたいに頭がいい訳じゃないからしかたないね。
「いいや、もう面倒くさい!」
とうとう呪文を考えるのが面倒くさくなって、どうせ呪文なんていらないんだ、とやけくそで両手を穴にむけて叫んだ。
「とりあえず、穴よ塞がれー!」
そのとたん地面が粘土みたいにグネグネと動いて、空いていた穴は跡形もなく綺麗さっぱりなくなった。
「おぉ~っ! すっごい、魔法が使えたよ~っ!」
本当に、イメージして発動を意識するだけで使えちゃいましたよ魔法!
でも、一度はしっかりとした呪文詠唱をしてみたい。
そう思って、僕はどんな魔法にしようかとワクワクしながら考えはじめる。
「やっぱりここは火の攻撃魔法だよね。やっぱファイアーボールかな? でもエクスプロージョンも捨てがたいな……いや、やっぱりファイアーボールからにしよう!」
すこし悩んだけれど、エクスプロージョンではスキルレベルが足らない可能性があるし、以前アニメで見たファイアーボールで無双するのが最高にかっこよかったのを思い出して、ファイアーボールを打つことに決めた。
……呪文もアニメのでいっか。
本当はこの世界の呪文にしたほうがいいんだろうけど、誰かに見られる心配はないし、せっかく呪文詠唱をする必要がないんだから好きにやらせてもらうことにした。
使う魔法を決めてウキウキしながら、異世界ものの定番中の定番『ただのファイアーボールで大火事』みたいなことにならないよう空高くに放つため、両手を上にむける。
「よし、じゃあ──天の光より分かたれし炎よ、我が声に従い炎火せよ。ファイアーボールッ!」
そう呪文詠唱した瞬間、空に向かって想像していたものよりすこし大きめの火の玉が飛んでいって──
「うんうん、いい感じ」
さらに高く飛んでいって──
「う、わぁぁああっ!」
思いっきり爆発した。
風圧が木々をなぎ倒して、抉れた木片が僕のほうに飛んでくる。
守護の壁のおかげで当たる前にどこかへ行ったけれど、当たっていたらただではすまなかっただろう。
「た、た~まや~」
僕はファイアーボールを放ったせいで起きたまわりの惨状に、軽く現実逃避しながらちいさく呟いた。
けれど、すぐ我に返って思いっきり叫ぶ。
「いや……いやいやいやっ! た~まや~じゃないって、なに今の! 僕、ファイアーボールって言ったよね? ぜんぜん思ってたファイアーボールの威力じゃなかったんだけどっ!」
せっかく大惨事にならないよう空高く放ったのになんでこうなったのか、僕は脱力してため息をつく。
「どうなってるんだよ、僕の魔法の威力……」
さすが神様みならいなだけはある。
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「街に行くのは、女神様から与えてもらった力をしっかり制御できてからにしよう」
早く悲しんでいる人たちを笑顔にしたいけど、焦ったっていいことはないからね。
そうと決めたら、両頬を叩いて自分に気合いを入れる。
「よし! 早く制御できるように頑張るぞーっ!」
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