神様みならい転生!~異世界転移先でのんびり神様修行~

アケビウイキョウ

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異世界人との初遭遇

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◇◇◇

 あの牢獄ろうごくのような場所を逃げだしてから、どれほどの時間がたったのでしょう。
 体から滴りおちる血を止めるための力はもうなくて、それでも痛む身体に鞭を打って消えそうになる意識を意地で保って、一歩、また一歩と進んでいく。

 ここで死ぬわけには、いかないのです……っ

 すこしでも助かる可能性をあげるため、歯を食いしばってただひたすらにおぼつかない足取りで歩いていく。

「っ、あれ、は?」

 そうしてその先に見えたのは、木のはるか上に建てられた家でした。

『 最果ての森』に、家?
 それに……あれは、結界?

 いろいろと不審に思うけれど、背に腹はかえられません。

 もしかしたら、人嫌いで鼻にもかけてもらえないかもしれません。
 もしかしたら、悪いひとで酷いことをされるかもしれません。

 それでも、助かる可能性がすこしでもあるのなら……

 私は最後の力を振りしぼって歩き、目の前に立ちはだかる結界に懇願こんがんするように触れる。

「ね、が……お、ねがい、しま、す……ど、うか……」

 どうか、私を──

◇◇◇

「それでね、カーブをつけるとことかすっごく難しくてね~」

 アンフィーとのひと悶着もんちゃくも戦利品の物色も終わり、僕はアンフィーに話しかけながらのんびりと家まで帰っていた。
 だけどそのとき、【守護の壁】に反応が。

「これは……家に魔物でも、来た?」

 あの敷地に張ってある守護の壁は、僕と僕が招いたひと以外は入れないようにしてある。
 反応があったということはそういうことだろう。

 あのへんは僕の強い魔力があふれでて弱い魔物はいなくなってたし、来たのはそうとうな魔物だろうなぁ。
 よし、【真実の目】でちょっと見てみよう!

「どんな魔物かなぁ~って、あれ? ちょっと待って、女の子が倒れてるっ!」

 僕のその言葉にアンフィーも驚いてブルブル震える。

「はやく助けてあげないと!」

 そういうやいなや時空の円盤を発動させようとするけれど、ふと疑問に思う。

 あれ? 危険な森のなかに女の子がひとりって、怪しくない?
 えっ、まさか魔物かなにかの罠だったりする?

「でも、助けないっていう選択肢はないよね……よし!」

 もしなにかあっても大丈夫なようにスキルの準備をして、倒れている少女のもとへ【時空の円盤】を使って転移する。
 アンフィーは抱えたままだとなにかあったときに危ないから、白いローブについてる大きなフードのなかに入ってもらった。

 そうすればさすが、効果範囲も広い神みならいのスキル。
 発動ラグもなく、すぐに少女のもとに着いた。

「っ、血だらけで意識がない。すぐに治さないと……よし! ほかに怪我とか異常はないかな?」

 最大限の警戒をしながらそばに膝をつき、すぐに【治癒の手】で治療をすると、いたるところについていた傷は綺麗さっぱり治っていった。

 少女の顔は頬がこけているけれど、血色がよくなったのか白い肌はほんのり色づいているし、さくら色の長い髪もところどころ血がついて固まっているけれど、新しく血がにじんできているようなことはない。
 身体のほうも心配になるほど細いが、怪我は治ってきれいになっている。

 苦しそうな様子もないし、これでひとまずは大丈夫そうだね。

「間にあってよかった~」

 その声に同意するように震えるアンフィーを軽く撫でて、意識を失ったままの少女を抱きあげて家へと帰った。

 少女を抱えたまま寝室に直行して、少女とベッドへクリーンをかけてからやさしく寝かせる。
 そうすれば落ちついたのか、すこし顔つきがやわらかくなったように思う。

「ひとまず落ちついたし、いちおう面倒なことや危ないことがないか鑑定しておこっか」

 物語にありがちの助けた人がやんごとない出身のかたでした~とか、じつは悪いひとでした~とかだったら、知らないとあとあと後悔しそうだからね!

 もしそうだった場合、前者は変な目にあっていなかったら安全な場所へ、後者はふん縛って衛兵のところへ置いてくることにしよう。
 修行に関係ない余計なできごとに巻きこまれることは、できるだけ避けたいんだ。

 権力も悪意もいりません!

 というわけで、さっそく寝ている少女に【真実の瞳】で鑑定をかける。
 けれど──

「っ……鑑定が、はじかれた!」

 神みならいの職業スキルである真実の瞳がはじかれるなんてことは、まずない。
 基本的にこのスキルをはじけるのは、自分より高レベルの鑑定阻害や鑑定系のスキルを持った神みならいか、神様だけだ。

 例外は、ひとつ。
 神様から特別にそういう力をもらったものだ。

 神様や神みならいがこんなところに傷だらけで倒れているわけはないだろうし、十中八九この少女は神様から鑑定を弾くような力をもらったひとだろう。

「な、なんでそんな子がここに?」

 なぜなのかはわからないけれど、神様からそんな力をもらった少女を安全な場所とはいえ放りだすなんてことはできない。
 なぜなら、神みならいのスキルを弾くほどの力をもらっているということは、それだけ神様にとってその人物が重要だということだからだ。

 異世界ものでわかりやすく例えるなら、『神の寵児ちょうじ』とか『愛し子』ってやつだろう。

 そんな神様の重要人物を放りだすなんて僕には怖くてできないよ!
 それにこの女の子が力をもらったのって、とてもやさしいっていわれてたこの世界の亡くなった女神様だろうしね。

 よけい放りだせないよ……
 まぁでも、そんな神様に気に入られてたんだ。
 悪い子ではないでしょ。

 もし知られたくないことがバレてしまっても最悪、神様からの指示とかなんとか言えば黙っていてもらうことはできそうだし、起きて動きまわれるようになるまではしっかり面倒を見ることにしよう。

「っと、その前に──」

【真実の瞳】と【時空の円盤】を発動させる。
 やることは過去視だ。

 相手を見れるのは、鑑定だけじゃないんですよね~。

 というわけで、発動させたふたつりスキルを使って彼女の過去を見ていく。
 もちろん彼女に真実の瞳をかけるとはじかれるから、かけるのは彼女のまわりに、だ。

 家の前で倒れていたときからさかのぼっていくと──

「これは、予想以上に……」

 起きて動きまわれるくらいまではと思っていたけれど、考えを改めよう。
 そう思うくらいには酷いことが起こっていた。

「そうと決まれば、いろいろ準備をしよっか」

 とりあえず準備が終わるまでは起きないように闇魔法でいい夢を見てもらって、さっそくステータス関係の隠蔽を……と思っていたけれど、彼女が与えられたのは鑑定阻害そがいのスキルだとわかったので今回はスルーだ。

 すごい偶然だったけどわかってよかった~。

 というわけで、今は設定を考えて家まわりの偽装をするだけでいいだろう。

 設定はどうしよう。

 俺TUEEEで目立つのは嫌だから僕自身は普通より少し強いくらいで家族TUEEEにして、装備やこの場所に住んでいる理由にしよう。
 なにかするときは『僕じゃなくて家族がすごいんです~』って言えばとんでもなく面倒なことにはならないだろう。

 面倒くさいことはぜんぶ架空の家族に擦りつけだ。

 家族設定って、ごまかさなきゃいけないことが出てきたときにも使いやすし、いいよね!
 まぁ、奇抜なのにしちゃうとかえってつじつま合わせとかが大変そうだけど……

 というわけで家族がいるようにいろいろと置いて偽装していく。
 あと、使っていたプラスチック容器とかもガラスや木とかに変えておいた。

 この世界にない素材は知られないようにしないとね。

「ほかになにかあったかなぁ~? あっ、階段つくらなきゃ!」

 このツリーハウスは今、飛ぶことでしか入ることができないようになっている。
 それでは彼女に不便をかけるし、超人的ジャンプで出入りするのを見られるのもまずい。

「今から階段を一からつくるのも大変だし、木魔法をつかって枝を階段にするか」

 そうしようと自問自答して、さっそく枝の階段をつくるべく薬樹の根元に行く。

「まずは段をつくって、枝先で手すりをつくろっかな」

 階段は丸い枝だと安定感がなくて怖いだろうから上を平らにして、階段の幅や高さは、知識の書によると幅30cmで高さ60cmくらいがいいみたいだ。

 そう具体的なことを考えながら木魔法を薬樹にかけていく。

 そうすれば太めの、上部が平らになった枝が生えてきた。
 それをある程度のびたところで上向きにのばしていったん待機。

 できた段に乗って、つぎの枝を同じように生やす。
 それから待機させてた枝先をつぎの枝先に絡ませて手すりにする。

 これをくり返していけば、木の階段のできあがりだ。
 でもこれで終わりじゃない。

 階段の出入口になる場所の板をきれいに切って、安全のためにツリーハウスのまわりにも枝で手すりをつけて──

「改装完了だ!って、あ……お風呂の階段忘れてた」

 ツリーハウスまでの階段と同じようにと思ったけれど、薬樹を囲うように家が建っているから無理だ。
 しかたないから、露天風呂を支える枝からはしごみたいなかんじで手すりつき階段を木魔法でつくる。

「これで、今度こそ完了だ!」

 できあがった階段を見て、満足気にうなづく。
 これで、準備は大丈夫だろう。

 さっそく、彼女を起こすために家へと戻る。
 魔法で眠らせているから当たり前なのだけれど、彼女は安らかな顔で眠っていた。

「よし、じゃあ魔法を解いてっと……」
「ん……ん、ぅ……」
「あっ、起きたかな?」

 彼女の様子に目を覚ましたかと思いうかがい見る。
 けれど、目を開ける様子はなくて──

「あれ?」

 気配的には起きてるんだけどな……どうしたんだろ?
 あっ! もしかして警戒してるのかな?

 だったらこうしよう。

「まだ寝てるみたいだね。大変な目にあったみたいだし、ゆっくり寝させてあげよう」

 こちらの意志を示して、起きても大丈夫だと彼女が思うまでそっとしておくことにする。
 きっと、これが彼女にとっていいだろうから。

 そうして部屋を出て、アンフィーとまったりしたり風呂の掃除をしたりごはんをつくったりして時間をつぶす。
 もちろんその間、彼女はこっそり起きて色々と調べていた。

 まぁ、気配でばれてるんですけどね!

 調べ終わったのか、ベットへ戻ったことを確認したから作った料理を持って家へと戻る。
 テーブルに料理をおいて、そのまま彼女がいる部屋のドアをノックして声をかける。

「ちょっと入るね」
「──どうぞ」

 返事はまだ返してもらえないかな? と思っていたら、普通に返事がかえってきた。
 そのことにちょっと驚きながら、彼女を怖がらせないように慎重に動くことにしてゆっくりとドアを開く。

「……よかった。目が覚めたんですね」
「はい」

 彼女に起きても大丈夫と思われるくらいには信用されたことにホッとしながら笑顔で話しかける。
 すると彼女は警戒心などまったくかんじられない朗らかな表情で返事をかえしてくれた。
 ドアごしに聞いたときとは違ってクリアに聞こえた声は柔らかく透きとおった声で、耳に心地いい。

 こうしてみると問題は解決したかのように感じるが、そんなことはまったくない。
 なぜならそれは、表面上のものだからだ。

 普通の人だったらわからないだろうが、感じとれる気配はまだこちらを警戒し続けているし、たれ目がちな金色の瞳も笑っているように見えてこちらを探るような色が見え隠れしている。

 今まで酷い目にあっていたみたいだし、助けられたとはいえこんな森の奥に男とふたりきりなんだから警戒するのはわかる。
 ここはまた気づかないふりをして、なるべく刺激しないようにしておこう。

「体調はどうですか? 痛いところや変なところはないですか?」
「はい、大丈夫です。あの……助けていただきありがとうございます」

 彼女は微笑みを浮かべ胸に手を添えながらこちらをまっすぐ見て真摯にそう言った。

「困ったときは助けあいでしょう? あなただって同じことをするはずです」
「そうですね……でも、本当にありがとうございます。あなたのおかげで助かりました」

 僕の返しに、そうしてふたたび感謝をされるが今度は会釈つき。
 またすこし警戒心が解けたみたいだ。

「そんなに何度もいわなくていいのに……でも、どういたしまして」

 せっかくもう一度言ってくれたんだから今度はそう言って感謝を受けとる。
 そうすればすこしホッとしたのか、彼女の口元に小さく笑みが浮かんだ。

 うんうん。いい傾向だ。
 この調子で警戒心を解いていこう。
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