少年オークは、ツンデレ国王エルフの旦那さまになった。

その２

ようやく声を上げると彼は驚いた表情で自分を見ていた。

「む……。おまえたちオークと私たちとでは、歩幅が違うのだな。――すまぬ」

かぼそい声での謝罪に心臓をぎゅっとつかまれた。
カワイイ。
年齢を考えたら、自分の何倍も長い年月を生きている人なのに、なぜだか無性に可愛い人だと思えてしまう。
しかもぼくが近づくまでちゃんと立ち止まって待ってくれている。
心なしか顔がにやついてしまう。
もう父さんや母さん、それに弟たちに再会できるかも分からないのに。

「えっと。ルシェさんは優しいんですね」
「なっ……！　王たる私に求められるのは威厳であって、優しさなどではない！　さっさとこのようなことは終わらせて、子豚は子豚の住む土地に帰れ」

「ぼく、子豚じゃありません。れっきとしたオークです！　ちゃんとマルメって名前もあります！」

確かに人間の家畜として飼われている豚に外見は似ているが、二本の足で立てるし、言葉も話せるし、きれい好きだ。
ぶーぶーと鳴くだけの豚とは違う。

（おちんちんは豚にそっくりだけど……）

「ふふっ。やはり子どもではないか」

クスクスと笑う顔は大輪の華が咲いたように艶やかで美しかった。
ぼうっと見とれてしまう。
細くて白い手が降りてきて、頭をなでてくれる。
父や母とも違う手つきにドギマギした。
そうしてルシェは自分の手を握るよう、差し出してきた。
ふれた手はなめらかで、丁寧に手入れされた爪が回廊に差し込む光を受けて、ピカピカと光っている。
なんだか子ども扱いされてるようでシャクだったけど、こんなに美しい人が自分に注意を向けてくれるなら、許せた。
ぎゅっと汗ばんだ手で握り返すと、ビクリとルシェの指先が震えた。
白い頬が赤い。一瞬だけ垂れた長耳は先端まで真っ赤で、彼が恥ずかしがっているのが分かった。

「は、早く行くぞ……っ」

大股で歩き始めるも、歩幅の違いに気づいて歩くスピードを下げてくれる。

（やっぱり優しい王さまだ）

長い回廊を二人きりで歩く。
右手からは暖かく柔らかいそよ風が吹いてきて、これから初夜を迎える二人を祝福していた。