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10 勝利宣言 ※
しおりを挟む手渡されたナイフを固く握りしめたあと、意を決してカイルの胸に飛び込む。
妻らしく。
そもそも男として長く生きてきたから、どれが妻らしく見える行動なのか分からない。
だが、娼館の女たちはよく愛くるしい表情で男たちの胸に飛び込んでいた。
おそるおそる、自分からカイルに口づけする。
ふれるだけのキス。
「っ……。これで、どうだ。その……我が…ぉ…夫よ」
恥ずかしくて顔など見られなかった。
耳まで熱い。
この体もあって人とじかにふれあうことを避けてきた。
だからこれが正解なのかも分からない。
「うん。すごくいい。いいな。初々しくて、じゃあ、次は旦那様って呼んでくれ」
「はっ! はぁ!? 調子に乗るな!」
体を離そうとしたが、強力な腕に抱きしめられて抜け出すこともできない。
「簡単だろう。ほら。だ・ん・な・さ・ま」
一つひとつ音を区切って言ってくるから、腹が立つ。
しかし言わなければこの拘束から解放されないのも事実だ。
「ぐっ……ぅぅ! 分かった。言う! 言うから手をどかせ。顔が近い!」
「さっき自ら口づけをかわしてくれたのに、それはないんじゃないか?」
「黙れ!」
カイルの口をふさごうとするが、器用にも口をふさぐ手を舌でなめられた。
「ひっ! …ゃ……どこ、舐めて……っ」
「もう言えるだろう? オレの妻なんだから」
どことなく鼻の下がのびている。その首いますぐひねりつぶしてやりたかったが、約束は約束だ。
「~~っ!!! …………だ、だんなさま……っ……」
今にも消え入るような声でささやくと、今度はカイルからキスされた。
私がやった唇をかわすようなささやかなものではない。
舌をねぶりこんで、きつく舌を吸い上げるディープキスだ。
ぬちぬちと、いやらしい水音が互いの唇から漏れる。
先ほどスライムに責め上げられた体はいとも簡単に彼のキスに反応する。
(っ! こいつ、こんなにキスがうまかったか……!?)
肩に手をついて勢いを弱めるよう伝えるが、余計に燃え上がるだけだった。
唇をしゃぶられながら、ベッドに押し倒される。
硬い男の手が体じゅうを這いまわり、弱いポイントを探しだそうとする。
(……! 妻にするというのなら、ただ抱けばいいものを……ッ!)
カイルはあの手この手で快楽を引きずり出そうとしてくる。
たくましい体にのしかかられ、汗と涙に濡れた黒髪をかきあげられる。
まるで恋人同士がする仕草に心臓がドキドキする。
(っ……やだ……やっぱり、こいつの妻になるのは……ぃや…だ…怖い)
自分が自分でなくなるような気がしてくる。
だがもう逃げ場はなかった。
「オレのこと……好きになるまで……抱いてやるから、な……!」
自信満々に宣言されて、背筋がぞくりとした。
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