転生前から生粋の悪役令嬢は、百合ヒロインから逃亡したい!

木東

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第二の試験は危険区域

彼女たちの様子【皇太子視点】

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気がつけば、時間は間も無く0時になろうとしていた。

サバラマ卿との話が長引いたのだ。
無理もない、このような状況だ。

感染症がこんなに広まって仕舞えば、対策に頭を悩ませるのは仕方がない。
しかも彼の苦労はこのあとだろう。

前回の協定で、時間の都合もあるため、
王都から支給品を持って来たときは、一度彼に預けて分配は彼らに任せるという手筈になっていた。

こちらの人員が削減できるし、時間も短縮できるので助かりはするのだが
平等に配るつもりはサバラマ卿にはあるようだが、それをきっと彼らが許さず説得難航した上で成功は難しく
きっとこのあと貴族や富豪たちが彼らの元に押し寄せて、次の支給まで十分な量の食物と薬品を持っていくだろう。

この寒い地域では、貴族ですら食料確保が難しいのだ。

確かに鉄鋼は盛んだが、それで金だけが入ってきても、食糧がこの地域に入って来なければ結局は餓える。


「こんな不作の時に病が流行るなんてな…」


いや、むしろだから流行ったのか…。

一人でそう呟いていると、馬車の動きが止まった。
彼女たちが視察に来た教会についたらしい。

普段だったら幾つも回るのだが、時間がないということと、試験官のハロルドの意向で一箇所で明日まで彼女たちは止まることになったのだ。

一体、どんな思惑があるのやら。

そう思いながら馬車から降りると、ハロルドが迎えに来ていた。


「お待ちしておりました皇太子殿下」

「待たせたな、サバラマ卿との会談が長引いた。」

「事情は皆わかっております、咎めるものはおりません
それより…支給品の分配については?」

「明日、サバラマ卿がそれぞれの場所に分配して配ると言っていた。」

「ここにも?」

「もちろん、だが…貴族、病院の順で優先されるから…」

「…予想を裏切らないということですか」


短い私とのやりとりでハロルドは理解した…というより、本人の言ったとおり予想どりの流れだった…というだけのことだ。

こればかりはどうすることもできない。
とにかく次回は十分な支給品を持ってここを訪れるしかないだろう。

自分の仕事の方はひとまずこれで以上だ。

あとは…


「3人は今どうしてる?」

「見ていただいた方が早いかと」


妃候補の3人の様子を見にいくこととなった。

3人とも古い仲なので、どんな行動をしているのか想像に難しくはない。
しかし、現場は自分の予想以上のことが起こっていた。

いい意味でも、悪い意味でも。


まずリーブだが、


「大丈夫ですよ、明日には薬がここにも届くはずです。
もう少しだけ辛抱してくださいね、絶対に良くなりますから。」


患者一人ひとりに向かってそう声をかけながら、食事の手伝いをしたり、体を吹いたり
一生懸命だけど心のこもった看病を続けていた。
シスターの格好をしていたこと以外は予想通りだ。


次にリリーだが、彼女は教会の隅っこの方でおとなしく箒を持って掃除をしていた。
そして彼女の周りに数人の女性がいて、肩をさすられていた。
何やら励まされているようだ、このような現場がよっぽど怖かったのだろうか…

励まされなければならないほど落ち込むなんて意外だった。
というよりローズとは別の場所にいることが意外だった。


そしてそのローズは…


「あなたね、いつまでメソメソしているの?
あなたがメソメソしていても、お父様は良くならなくてよ!」


君は期待を本当に裏切らないね、想像通りだったよ。

主に、悪い意味で。


「でしたら、お父様の横で泣いていないでこの教会のお手伝いをなさった方が有意義なのではなくて?
わかったら、あちらの方をお手伝いして来なさい!」


患者の家族をそんなふうに怒らなくったっていいじゃないか…。
と心の中では思った。

しかし、ただ厳しい言葉をかけているだけ…というわけではないようだ。


「ローズ様、摩擦草人数分準備できました。」

「なら、速やかにそれを全ての患者に配りなさい。
寒気で窓が空いている以上、ストーブだけではやはり間に合わないわ。」

「はい」

「ちょっとそこの人、氷の手配はどうなったのかしら」

「今出せる有金を叩いてもらえる分だけはもらいましたが、人数分には達しません」

「急ぎだって言ってるのに…しょうがない、医者に聞いて危ない人優先に渡しなさい」


彼女はすれ違う看護師たちに声をかけ私事を的確に出していた。
言葉が厳しいのは変わらないが、彼女が現場を回しているのがその一コマだけで理解ができた。

すると、ふとローズが私の方に気がつき駆け寄ってくる。


「皇太子殿下!よかった…お話がございます」


そして、近づくなりいきなり話を振ってきた。


「何かな」

「まず、薬がないのは承知の上でしたが、食材も思ったより少ないです、今年は特に不作だったようで病人に出せる食事がないようです、早急に食料の支給を多めに要求します
そして氷の方なのですが、明日までに薬が届かなければ危ない方が多くいます、なので応急処置で熱冷ましの薬の代わりに、氷の調達を指示しました。
この費用は皇太子殿下の方で立て替えていただけないでしょうか、ダメでしたらレフレイムで持ちますわ。
それと…」


彼女の捲し立てるような説明は止まらない。
たった数時間でこの現場のことを把握し、理解し的確に説明し、要望を出しているのだ。

彼女が優秀なことはよく知っていたが、まさかここまで実践できるとは思いもしなかった。

全ての説明が終わると、返事をしない私に違和感を感じ「何か?」と聞いてくる。


「君…たった数時間でそこまで…」

「…当たり前のことしかしておりませんわ。
とりあえず、これだけ足りないので検討をお願いしますわ。」


特にその沈黙に意味はなく、同意を得たのだと解釈したローズは、
また教会の中へ戻っていった。

本当は、一次審査はまああんなことになってしまったのでともかく、
ここから先はハロルドに審査は任せ、自分はその合間自分の見たものだけを判断材料にしていろいろ考えるつもりでいた。

しかし、こんな場面を見て仕舞えば、自分のいない時に何があったのか、気にならずにはいられなかった。


「ハロルド、君は今日一日彼女たちを見てどう思った?」

「…そうですね、個人的には」

「あんた、偉い人かい?」


しかし、ハロルドの報告を聞く前に、女性の声がそれを遮った。


「ちょっと、聞いてほしい話があるんだよ。」


振り返ると、そこにはここの教会のシスターと思われる人物がいた。

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