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第三は試験と謎解き

ヒントではないヒント

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「校長の話…めぼしいものは何もなかったわね…。」


校長から聞けた話といえば…『カリズ・ルネ』の絵画に興味を持った校長がルネ家の令嬢マルゴットに声をかけた。
すると一つ譲ってもいいという話になって卒業を機にもらったのが、あのアカデミー玄関ホールの絵画でした。

たったそれだけ。

これで何を



「順調かい?」

「あら、皇太子殿下」


校長室を出た直後、皇太子殿下とすれ違いました。
全く、リリー様も神出鬼没な方ですけれど、この方はこの方で神出鬼没ですわね。
暇なのかしら…


「昨日からだったね三次試験。今みんなの進行状況を聞いているところなんだ。」

「ご心配ありがとうございます。
おかげさまで、先生方からはいろいろお話伺えましたわ」

「それはよかった。」

「皆様の様子はいかがでしたか?私のところに来る前にもう様子を見られたのでしょう?」

「自分が最後だということを、悔しそうにしないということは嫉妬とかそういう感情はなさそうだね」


私はその発言を聞いて目を丸くする
まるで嫉妬してほしいとでもいうようですわ。
そんなお願いを私なんぞにしてくださるなんて思いもしませんでしたわ。

彼に憧れる女性なら、泣いて喜ぶでしょうに。


「ご希望であれば、妬きましょうか」


でも、私はそういう人間ではないので、皇太子殿下にお伺いをいたしました。
命令とアラバ聞かねばなりませんので。


「気持ちのこもってない嫉妬は流石に面倒だ」


しかし、そういうことではないらしい。
ならばスルー致しましょう。


「まぁ、冗談はさておきリーブは現場を突き止めてお話を聞きに行ってるよ
リリーの方は街に行かないと進展はないだろうから、まだ動きはないよ。」

「そうですの」

「そっけないねぇ…他に聞きたいこととかないの?」

「他の方の進行状況以外は特に興味ございません。
それに、皇太子殿下にこの話を聞くことは、許されないでしょう?」


一位通過の私が彼に話を聞いてしまうことは、場合によってはルール違反になってしまいますもの。
だからお話しすることは本当にございません。

私はこの事件の真相を探るためにやるべきことがございます。
ですから、ここで無駄話をしている時間はございません。

私は軽くお辞儀をするとその場をさろうとしたのですが


「怪盗ジャックなかなか捕まらないんだよ」


皇太子殿下がそう呟かれました。
思わずそのセリフを聞いて立ち止まってしまう私。


「だいぶ前から出現しているのにまだ捕まってないそうですわね
皇宮の騎士も派遣しているのに、捕まえられないなんて情けないですわ」


意図がわからず、普段どおり一応返事を致しましたが、
その後に彼の意図に気がつきました。

そう、これはヒントではない。
今尚、巷を騒がせている怪盗ジャックについての雑談なのです。

でも、この会話を脈らなく降ってきたということは、
この話の中に、何か意味があるのかもしれませんわ。
私はとりあえず皇太子の話題に食いつくことにいたしました。


「残念ながら、ジャックはなかなかの手練れでね。
おっしゃる通り未だ捕まえられていないんだよ。」

「怪盗ジャックは一人ですか?弟子はいるのですか?」

「まぁ、ジャックを名乗る人間が同一人物かどうかはまだ不明だね。
弟子もいるかもしれないが…どうあったとしても、盗みに来るときは単独行動だね。」

「なぜわかるのです」

「律儀に予告状を出してくれるので、こちらも警備に当たるのですが
物が消えるのは一瞬、人の気配は感じ取れないんだ。
気配をあそこまで消せる人間はそんなに多くないし、人数が少なくないと絶対一人は気づかれる。
足跡も毎回、見つけられる時は一人分しかないしね。」


わざわざ予告状を出して警備を強化している以上
必要最低限以上の人数で盗みを犯す意味がない…ということでしょうか。

でも、やはり複数犯というのはあり得ない…
そうなると…後ジャックで気になる情報は…


「ジャックが起こした盗難事件は一つでも解決しましたか?」

「盗難品を取り返せたかと言う意味であれば、解決した事件はある。
犯人逮捕という意味ではそうだね、解決していない。」

「ジャックがルネ家の絵画を盗んだことは?」

「一度あったよ、昔新聞の記事にもなった。」

「昔?」

「…」


今、このような質問をしたのは、
今回の事件で間違いなくジャックが関わっているかという確信が欲しかったからですわ。
この質問でどちらの答えでも確定するはずでした。
でも『昔』?すごく曖昧ですわね。

その言い方、一年前とか昨年とかいう話ではございませんわ。
しかも、その後何も明確にはおっしゃらない、それをしゃべることはきっとヒントになってしまうということですわ。


「皇太子殿下、今このアカデミーにルネ家の生徒っておりますか?」

「いるよ、美術研究クラブにい所属のはずだけど
『ダレンツ・ルネ』ルネ家の長男坊だよ。」

「ありがとうございます。」


私は今度こそ皇太子殿下にお辞儀をすると、駆け足でそのクラブに向かいました。

アカデミーに贈呈したとはいえ、ルネ家の作品ですわ。
曖昧なことを他人に聞くよりは当事者に聞くほうが手っ取り早い。

きっと、この事件の手がかりになるはずです。




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