なりたい自分が自分

蒸しエビ子

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ザクッザクッ

トントントン

ジュ~~

小気味良いリズムといい香りが

俺を目覚めさせた。

ガラガラガラ

「おはよう。。」

「あ、おはよ。キッチン借りてたよ!」

(何か作ってくれてるのか?)

「ろくに道具も無いけど、平気?」

「へーきへーき。任せて!!」



しばらくすると、

どんぶりが運ばれてきた。

「おおお?!!」

「ご飯と魚肉ソーセージと

じゃがいものミックス丼してみた!!」

「美味そうだな!」

(そういえば小学生の時は、

色んな組み合わせで

丼もの作りを楽しんでたんだっけ?)

「いただきま~す!」





その日から時間を

出来るだけ共有し、

色々な記憶や感情を

えり叶の言動によって思い出した。

こんな日が続くことを

信じていたかったある日。

ピンポーン

「はい、どちら様?」(ガチャ)

「お忙しいところ失礼致します。

私、株式会社トンネルの吉井と申します。」

(誰だ…??)

俺の訝しげな表情から察したのか、

「以前、『あなたの分身送ります』という弊社の

サービスに森戸様よりご応募いただきまして…。」





「…………あぁ、思い出しました!」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1ヶ月程前、商業施設に行った時に

変なトンネルを潜ったのだった。

トンネルを抜けると、男性が話し掛けてきた。

「ただいま弊社の『あなたの分身送ります』という

サービスのコマーシャルを行っておりまして。

お時間いただけないでしょうか?」  

「ええ、まあいいですけど…。」

変な勧誘か?とは思ったが

時間があり機嫌が良くもあった為、

話を聞いてみることにしたのだ。

「ありがとうございます!

それではあちらのお席へどうぞ。」

案内されるがまま座り、

話を聞いたその結果。 

怪しく思えるこのサービスに

俺は応募をしてしまったのだった。

俺がもう一人いたら……

その思考から離れられなくなった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「森戸様の元に、森戸様を名乗る人が

訪ねて来られましたでしょう。

弊社のサービスはいかがでしたでしょうか?」

(もしや、えり叶の事か!)

「ええ。そうですね…。

とても楽しい生活を送ってます。」

吉井から笑みが溢れた。

「左様でございますか!ありがとうございます。

先日のご案内の中でお伝え済みですが弊社の

サービスであるその人との生活は期限付きでして、

※引き取っていただくと引き続き森戸様の

元で共生出来ます。いかがでしょうか?」



忘れていた決断を迫られた。

が、俺の心は揺らがなかった。

「えり叶を引き取ります。」

※引き取る=えり叶になる。

「かしこまりました。

それではこちらの契約書に

ご記入をお願い致します!」

「はい。」

家の中からはえり叶が

こっそりと様子を窺っている。



「確かにご記入いただきましたので頂戴いたします。

それでは、心身を楽になさってくださいね。」

「はい、お願いします。」

すると、えり叶が吸い寄せられるように

俺に近づいてきた。このままではぶつかる…!!

そう思った次の瞬間、何故か痛みを感じなかった。







俺は、森戸幸になった。



俺は俺なりたい自分と生きていく
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