愛する人は指輪の中

ルナルオ

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 指輪がまばゆい光を放ち、とうとう封印は解除された。
 けれども、出てきたのは期待の美女かと思いきや、3歳にも満たないような幼女。

「指輪から幼女が現れたのか……?」

 先程は、無念の余り、思わず精一杯、叫んでしまったグレンであったが、冷静になってみて、(まあ、魔物よりはましか?)と考え直した。
 そして、現れた幼女をよく観察してみた。
 魔物を疑うような身体的特徴は、何もないようである。
 まだ赤ちゃんに近く、もちもちぷにぷにしていそうな幼い人間の子供で間違いない。 
 もちろん、容姿は予想以上に可愛い姿をしており、髪は銀色で、瞳は指輪と同じ深海を思わせるような青色、肌は透き通るように美しく、ぷるぷるお肌をしている。
 だって、幼子だし。
 そして、すっぽりかぶるタイプのワンピースを着ている。

(あ~あ、美女じゃなかったか……。
 美少女でもよかったのに、更に若すぎる幼女。
 将来は確かに美人になりそうだけど、まだ幼すぎる。
 すごく可愛いけど、この子と恋はできないな~)

 がっくりorzと床に手をついたグレンに、その幼子は、グレンの姿を認めると駆け寄ってきた。
 そして、小さな手で、落ち込んだグレンの頭をよしよしと撫でてくれた。
 おまけに、グレンに向かって極上の微笑みを浮かべてくれる。

(え、何?この子、優しい?
 しかも、近くでみると、ますます可愛いな~。
 大人だったら、超ドストライクな美女だろうに……。
 そうか!この子は妹だと思えばいいんだ!!)

 グレンは思わず、撫でてくれるその幼子のぷにぷにの手を取った。

「お名前は?可愛いね~。
 もしかして、お姉さんとかいる?」
「おねーしゃん……?」
 
 鼻息も荒く聞いてくるグレンは、傍からみたら、たとえ美形でもちょっと微妙な不審者のようであった。
 そんなグレンの言ったことを、その幼子は意味がすぐ分かったらしく、先程まで天使のように可愛く微笑んでいたが、今は氷のような冷たーい表情になった。

「あ、そういえば、君、指輪からでてきたよね?
 なんでかな?何者なのかな?」

 その幼子の冷たい表情から、グレンは(あ、そういえば!)と聞かないといけないことを、冷静になって思い出した。
 そして、指輪から現れたばかりの子供に何を言っているのかと、グレン自身もちょっと思っている。
 でも、グレンにとって、その子があまりにドストライクな好みの容姿をしていたため、その容姿に似た妙齢の女性がいれば、自分の理想の女性に会える!と思わず先走ってしまった。
 しかも、その子がグレンにとって、初対面と思えず、思わず家族がいるような気がしてしまったのだ。
 そんなグレンの気も知らずに、その幼子は、グレンに握られた手をすっと引き抜くと、グレンからじりじりと距離を取ろうとする。

(ああ、やめ、そんな目で見るな!
 お姉さんを紹介するのは、全面、拒否ですか!?)

 グレンは、幼子が指輪から現れた瞬間から始まった胸の痛みに気づかないふりをしながら、じりじりと離れる幼子に、逆にじりじりと近づき、その幼子と攻防をし始める。
 近づいてくるグレンを、きっと睨みつけた幼子は、くるっと背中をを向けて、走り出した。
 しかし、幼いちまっとした足のせいか、もつれるように転んで、べしゃっと床に侍った。

「あ、大丈夫か!?痛い?泣く?」

 グレンが心配して、駆け寄ると、幼子のワンピースが転んだ勢いで捲れていた。
 そして、ぷりんっとした白桃のようなお尻が丸見えになってしまった。

(あれ?下着、はいていないのか?
 中身みたから、責任とれって言われたらどうしよう!?
 でも、あれって?ちょっと、待て!)

 すぐに幼子は捲れたワンピースを直したが、グレンにはワンピースの中がばっちり見えてしまった。

「おぅお~、お、お……」

 そう、グレンにはすべて見えてしまった。
 自分が持っているものと同じものが……。

「お、お、女の子ですらなかった~!!」

 またもやがっくりと床に手をつくグレン。
 その幼子は、そこらの女の子にもまさる可愛さであったが、しっかり男の子であった。

「まあ、いいや、どっちでも。
 お姉さんさえ紹介してもらえれば!」

 すぐに立ち直ったグレンは、「待てー!」と、逃げる幼子を部屋の中でぐるぐると追いかけてみた。
 ようやく捕まえた幼子を抱き上げて、暴れるのを落ち着かせようとしてみる。

「い~や~~!」
「ちょ、ちょっと、大人しく!落ち着いて!
 怖いことしないから!」
「や~!」
「あ、お菓子あるぞ!美味しいよ!!」

 グレンは抱っこした幼子に、机の上にあった小さい焼き菓子を見せる。
 お菓子を口元まで持って行こうとしても、いやいやと首を振るので、1個をグレン自身、口に入れてみた。

「んぐ。ほら、美味しいよ~!食べる?」
「……」

 グレンが美味しそうに食べる姿を見て、幼子も食べたくなったらしく、無言であ~と今度は口を開けてくれたので、お菓子を口にいれてあげる。
 むぐむぐと咀嚼する幼子の様子も可愛いなと思うグレンは、ちょっとデレっとした顔で見ていた。

「美味しい?」

 その子に聞くとコクンと頷き、もう1個と催促するように口を開けるので、追加してあげた。
 お菓子を食べているうちに大人しくなった子供に、グレンが抱っこをしながら、質問してみた。

「君、お名前は?」
「……ルカ」
「ルカ?」
「うん、ルカ」
「ルカくん?」
「うん。ルカよ、パパ」
「え?」
「パパ、ぼく、ルカ」
「は?パパって、もしや……」
「……パパ、ルカのこと、わしゅれちゃった?」

 その男の子は名前を「ルカ」といった。
 そして、グレンのことを……。

「パパ、ルカをわしゅれちゃった?
 ママも?だから、おねーしゃんっていったの?
 ママ、うわき、めって!」
「……もしかしなくても、パパって私のことを言ってる?」
「?パパ?」

 首を傾げるルカに、驚き戸惑うグレン。

「えっと、私はパパじゃないよ~。
 ほら、よく見てごらん?」
「?パパよ?」
「ち、違うよ~!
 お兄さんはグレンっていうだよ。
 パパじゃないよ!」
「?パパのおなまえ『グレン』よ?」
「お、同じ名前なの!?」

(えー!パパが同じ名前とは何たる偶然!
 いや、この国ならよくある名前だけどさ~。
 もっと珍しい名前にしてもらえば良かった?
 いや、そういう問題じゃなかった。
 パパと同じ名前で、幼子だと見分けがつかないってことか?)

「えっと、ルカ君?
 とりあえず、お兄さんのことは『パパ』って呼ばないで欲しいな~」
「パパ、どして?」
「えっと、もし呼ばないでくれたら、本当のパパを探してあげるよ?」
「……パパ、ママは?」
「ん?ママ?」
「ママ、どこ?」
「ルカ君、ママがいるんだね!ママって君に似ている?」
「え、えぐ、ママ……」
「あれ?泣くの?」
「ママ、ママ。マーマー!」

 びえーんと泣き出したルカに、グレンが一生懸命、なだめすかしてみたが、なかなか泣き止まない。
 困ってしまい、また口に、今度は無理矢理のようにお菓子を突っ込んでみる。

「ママ―!んぐっ」
「はいはい、美味しいお菓子を食べて落ち着こうね~」
「むぐむぐ、ひっく、ママ……」
「うん、わかった。ルカ君のママのところに連れていってあげるから、泣かないで?」
「……ママのとこ?」
「うん、ママも探してあげるよ!
 というか、是非、お会いしたいかも~。
 君のママなら、さぞかしお美しいだろうね!」
「……パパ。ルカ、『きみ』って、やっ!
 『ルカ』ってよんで?」
「いいけど……。じゃあ、ルカも私のこと『パパ』って呼ばないでくれる?」
「?パパはパパよ?」
「いや、そのね~」

 グレンが、ルカにどうやってパパじゃないとわからせるか悩んでいると、カールが入ってきた。

「グレン殿下~?さっきから、何を騒いでいらっしゃるのですか……って」
「あ、カール!丁度良いところに!」
「……殿下、とうとう」
「そうなんだ~、あの指輪から「とうとう、幼女誘拐という犯罪に手を染めましたね!!」……は?」

 グレンは、カールにルカが指輪から現れたことを、説明しようとしたが、カールに遮られた。

「グレン殿下は、あんまり女性に興味がないというか、女性の好みがやけに厳しいから、殿下は同性好きかと疑っていましたが、そっちでしたか……。
 いや、俺も美女だけでなく、美少女も好きなので気持ちはわかるのですが、その子はまだ幼すぎますよ?
 しかも、どこから連れて来たのですか?
 さっき、『ママ~』て泣かせてましたね~」
「ちょっと、待て、カール!あのな……」
「お嬢ちゃん、こっちにおいで!」

 そう言うや否や、カールは瞬時にグレンに近づき、軽やかな身のこなしで、さっとグレンが抱っこしていたルカを奪った。
 こういう時、カールは王子付きの護衛になれるだけの実力があるのだなと思われた。

「よーし、よし~。
 お兄さんがあの変態王子から守ってあげますからね~」
「……だれ?」
「ん?」
「おにーしゃん、だぁれ?」
「んん!『おにーしゃん』って可愛すぎか!?」
「おにーしゃん?ぼく、ルカ」
「わ~、ルカちゃんって言うんだ~。
 将来、美人さんになりそうだね!
 お兄さんはカールっていうんだよ~」
「かある?」
「そー!カールだよ。
 『カールお兄さん』って呼んでね!」
「かーるおにーしゃん!」
「うはー!いい!!ルカちゃん、可愛い~!」

 カールがルカを抱っこしながら、デレデレとしていた。

「おーい、カール!お前も十分変態にみえるぞ~。
 あと、その子は、お・と・こ・の・こ!
 『ルカくん』だぞ~」
「は?目でも悪いのですか、殿下」
「いいや。でも、ついているの見たから」
「は?もう手だしてたんですか!?
 ありえない!最低ですね!!」
「だすかっ!!その子が転んだ拍子に見えたんだよ。
 下着つけてないんだ、その子」
「え?まさかそんな……」

 カールは、そう言いつつ、抱っこしているルカをまじまじと観察してみる。

「もう~、グレン殿下ってば、どこからみても可愛い女の子ですよ~。
 ねえ?ルカちゃん、女の子だよね?」
「?ルカはおとこのこよ?」
「は?」
「ぼく、おとこのこ!」
「ええ!?」

 カールは、抱っこしたルカをストンと床に降ろすと、がっくりorzと床に手をついた。

「お、お、男の子だったのか~」
「だから、そういっただろう。
 ……落ち込み方が私と同じだな、カール」
「かーるおにーしゃん、どしたの~?」
 
 床に4つんばいになって、がっくりとしたカールの頭をよしよしとしてあげるルカに、カールは切なくなった。

「こ、こんなに優しくて可愛いのに!なんで?どうして?男!?」
「まあ、しょうがないだろう、カール……」
「この子で、二度目ですよ!
 美幼女もどきに裏切られたのは!!」
「何だ、その美幼女もどきって?しかも、二度目?」
「一度目はグレン殿下、あなたです!
 初めてお会いした幼少時、そこらの幼女顔負けの可愛さだった。
 それなのに、『王子様』と聞いた時の衝撃と絶望は、今でも忘れられない。 
 しかも、『お姫様』のようだった殿下は、今やがっしり系の中身が軽い王子様になってしまって、がっかりですよ~」
「誰が中身が軽いだ!お前にだけは言われたくないわ!」
「ああ、ルカくんもこうなっちゃうんだろうな~。
 美少女を得て美女になってほしかったのに、もったいないな~」
「もったいながるな!」
「パパ?けんか、めっよ?」

 グレンとカールが言い合っていると、ルカが止めに入った。
 一瞬、ほっこりした二人であったが、それ以上のインパクトがある言葉をルカが言ってしまった。
 
「……パパ?今、ルカ君、殿下のこと『パパ』って言った?」
「あ~、違うぞ、カール。人違いだ!」
「殿下なら、いつかやるっと思っていたけど、やっぱり、やりやがりましたね!
 この子は責任とるように押し付けられたんでしょう!?」
「だから、違うっていっているだろう!?」
「けんか、めー!」

 またもや、ルカが止めに入ったところ、カールは再びルカを抱き上げて、聞いてみる。

「ねえ、ルカ君は、お年、いくつかな~?」
「ルカ、もうしゅぐ、3しゃいよ」

 ふんすっと、自慢げに指3本をたてて教えてくれる可愛いルカ。

「そっか~、もうすぐ3歳か~。
 ということは、仕込みは4年前くらいですね、グレン殿下?
 ああ、もう、その頃と言えば、グレン殿下は、婚約破棄ラッシュで、やけになって、お外でやんちゃされていた頃じゃないですか~。もう年齢的にピッタリですね?」
「違う!これでも、一応、王族なんだから、そんなへまはしないし、まず、女性に手を出したりしていない!!」
「そうですか~?俺があれだけ言ったのに、守らなかったから、この子がいるんじゃないのですか?」
「その子は、あの指輪から出てきたんだ!」
「は?指輪?」
「そうだ。どうやら解呪の言葉数が達成して、突然、現れたぞ!
 第一、お前が扉前で護衛しているのに、どうしてこの子が入って来られるんだ?
 ここ3階だぞ?」
「ああ!そうですよね!!
 いや、もう、ルカ君の容姿が殿下の好みドンピシャなので、てっきりそういうことかと思っちゃいました~」
「そういうことって何だ!?
 まあ、美女でも魔物でもなく、あの指輪からこの子が出てきたんだ」
「ええ、殿下の隠し子が出てきましたね~!
 だから、解呪の言葉が『愛している』なのか、納得しました~」
「いい加減にしろよ!違うと言っているだろう~!!」

 カールに対して、苛立ちがピークになったグレンは、カールの頭をゴッと叩いた。

「いった~!殿下までひどい!
 馬鹿になったら、どうしてくれるのですか!?」
「いかれた魔道具も叩くと直ることがあるから、お前もちょっと頭の中、直しておけよ!」
「ひどい!痛いよ~、ルカ君、グレン殿下が酷いんだ~」
「パパ、めっよ!
 かーるおにーしゃん、いたいたい?
 ちょっと、まっててね」

 グレンに叩かれたカールを心配したルカは、カールに抱っこされながらも、叩かれたカールの頭をよしよしとしてあげた。
 そして、ルカが、両手をまるで水をすくうような形にする。
 すると……。

 シューシュルシュル
 コロン

 ルカの両手の中に、氷の塊が出現した。
 ルカは、カールの頭部を冷やすために氷の塊を出して、カールに渡してきた。

「これ、いたいたいは、ひやしゅのよ~」
「こ、氷!?今、無詠唱で氷だしたよね!? ルカ君、氷が出せるの?」
「うん、ルカ、こおり、とくいよ!
 ルカね、パパとおしょろいなの~」
 
 そう言って、嬉しそうに微笑むルカに、カールとグレンは驚愕した。
 ペリクト王国の人々は、程度の差はあるものの、国民のほとんどが、魔力を持ち、魔法が使える。
 ただし、そのほとんどが、水、火、風、土の4種類である。
 けれども、王族や高位貴族の中には、ごくまれに、氷や雷といった珍しい属性の魔法が使える人物が現れる。
 現在、氷の魔法がきちんと使える人間は、この国でいまのところわかっているのは、グレンしかいない。
 だから、まだ3歳にもならないルカが、氷の魔法を、しかも、幼くして必要時に使えるということは、グレンの血縁者の可能性は、かなり高いと判断されることになる。

「……殿下、これは、もう絶対、言い逃れできませんね?」
「嘘だろう!?氷の魔法が使えるだと!?」
「おまけに、ルカ君、『パパとおしょろい』って言ってましたよ。
 つまり、グレン殿下の能力を知っているということですよ?」

 そういうと、カールは抱っこしたルカに、また尋ねる。

「ルカ君、『パパ』が氷の魔法が使えるって知っているんだよね?」
「うん!パパ、しゅごいの~。
 ママやルカにね、こおりのおはなをちゅくってくれるの」
「へー、氷の花ねえ……。
 そういえば、殿下もよくナタリー殿下達にねだられて、氷の花を作られてましたね~」
「うん、しょれでね、パパはうみをじぇんぶ、こおらしぇられるの~!
 ママもしゅごいって!」
「へえ、海をも凍らせるほどの氷の魔法か~?
 ……よく知っているね?」
「ちょっと、待て!
 海を凍らせたのは、全部ではないが、何故この子は、そのことを知っているんだ?
 どういうことだ……?」

 そう、以前、グレンは海から現れた魔物の討伐に行った際、魔物のいる周辺の海ごと凍らせて、退治したことがあった。
 しかし、そのことを知っているのは、グレンの部下や国の防衛関係者と王族しか知らないことである。

(これはどういうことなんだ!?
 何故、この子が軍事機密を知っているんだ?)

 混乱するグレンは、とうとう頭を抱え、この天使のような可愛い幼子が何者なのか、ひどく悩むのであった。
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