野猿な悪役令嬢

ルナルオ

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番外編 肉食系貴族令嬢の婚活 2.急展開

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 セリウスは第2王子として国の執務をすることもあるため、王族特権で学院内に個人サロンを持っていて、そこで仕事をしたり、友人達と一緒に過ごしたり、リーリアと過ごしていた。
 そのサロンへ寮の自室に一度戻ったミランダはアーサーの案内で連れて行かれた。

(何故でしょう?憧れの方の呼び出しなのにちっともときめかない。むしろ厄介事の臭いがしますわ)と嫌々ついていくミランダ。

 セリウスのサロンにはセリウス以外に、セリウスより1歳下でミランダよりは1歳上であるディオン・サリッド侯爵子息がいた。

 そして、セリウスはミランダが入室すると、「やあ、待っていたよ、ミランダ嬢」とにこやかに対応したが、何故かディオンは座っていた椅子から勢いよく立ち上がり、勢いよすぎて倒してしまった椅子をあたふたと直していた。

「早速、君の書いた調査書を見せてほしいな」とセリウスに催促され、ミランダは自分の書いたリーリアの周辺にいる人物の調査書をセリウスに渡した。

「ふーん。これが君の書いた調査書か……。
 じっくり読みたいから、そこのソファに座ってお茶でも飲んで、しばらく待っていてくれるかな。ディオン、ミランダ嬢にお茶を頼むよ」と言って、ミランダのまとめた調査書に目を通すセリウス。

(え?侯爵子息にお茶をいれさせるの?)と驚いたミランダは、自分がお茶をいれようとお茶の準備をしているディオンのところまで行き、声をかけた。

「あの、よろしければ私がお茶をいれましょうか?」とミランダがディオンに声をかけると、ディオンは顔を真っ赤にして汗をかき、手があわあわして、ティーカップを割りそうにしていた。

「……や、……いい。私が頼まれたので……」とディオンに言葉少なく、ミランダは断られた。

 そのディオンの様子に、さすがのミランダもあれ?と思った。

 実は、ディオンはサリッド侯爵家の跡取りであったが、まだ婚約者が決まっておらず、ミランダの結婚相手候補の調査対象であった。
 そして、調査の結果、候補としてまだ没にしていない人物でもあった。
 ディオンはセリウスというよりもアーサーと親交が深く、アーサーが将来、王国騎士団長になったら、ディオンが副団長になるのではと言われる程、剣の腕もアーサーに次ぎ強く、今の時点で既にアーサーからも頼りにされるほど、色々な面でサポート上手とも言われていた。
 ただ、男性にありがちな寡黙なタイプのためか、対人対応があまり得意でないため、外交には向かない性格とも言われていた。
 しかも、一時、あのクロエ・ハーシュ侯爵令嬢との縁談があがっていたが、決まる前にディオンがすぐに断わり、クロエ側からもディオンで不満であったからか断わり、話だけで終わったという情報までをミランダはもっていた。

 実際に会ってみるディオンは、寡黙というか赤面症のようである。
 それとも単に女性が苦手なのか……。

 しばらくミランダは大人しくソファに座りながら、さりげなくディオンを観察していた。
 ディオンの顔立ちは、セリウスやアーサーに比べてしまうとやや地味であるが、とても整っており、体格は騎士を目指しているため、筋肉がきれいについてたくましく、ミランダ好みであった。
 寡黙なところでさえも、軽薄なおしゃべりをする男が嫌いなミランダには好ましかった。

 あの後、やや顔は赤いものの、ディオンは落ち着いてきちんとお茶をいれて、しかも下手な侍女がいれるよりも美味しかった。
 ディオンの方もミランダのことをちらちらと見てくるようであったが、なるべく目を合わせないようにされたので、女性が苦手なのか、個人的にミランダが苦手なのか判断しにくいところであった。
 とりあえず、ミランダはディオンの調査書に今日の観察結果と詳細な似顔絵を書き足すことを決めた。


 しばらく、4人とも沈黙していたため、パラパラと書類をめくる音だけがしていた。

 ついに、読み終えたらしいセリウスがふうっと息をついた。
「うーん、さすがだね、ミランダ嬢。
 こんな立派な人物調査書は王宮の文官でも書ける人材はなかなかいないね。
 リーリアから君のことは聞いていたけど、正直、見直したよ」

「いえ、それほどのものでは……」とミランダは謙遜したが、有能と言われるセリウスに褒められ、内心、とても嬉しかった。

「この調査書が僕用にも欲しいのだけど、写しをとってもいいかな?」

「あ、ではそれをどうぞお使いください。
 一応、書類としてまとめましたが、もうすべて頭に入っているので私の手元になくても大丈夫です」

「いいのかい?ありがとう!
 これがあれば、リーリアを害する輩をかなり効率的に排除できそうだよ」

「まあ、よかったです!
 それがリーリア様のお役に立つなら、幸いです」とミランダとしても自分がやるよりも、セリウスがさっさとリーリアにちょっかいをかけて不快にする輩を抑えてくれた方が、リーリアが傷つかず、もどかしい思いはせずにいられると喜んだ。

「それで、この調査書にあるこの項目についてだが……」とセリウスから更に色々と詳細に説明を求められたり、調査した人物の行動への対策について意見を求められたりした。
 それに対してミランダもリーリアのためなので、下手に貴族令嬢らしい遠回しな言い方もせず、セリウスへ率直に意見を述べたり、予想した内容を伝えたりした。

 そんなミランダとのやりとりを通して、セリウスはミランダという人間を評価し、とうとうミランダをリーリアの友人として信頼することにした。
 そう、実は、セリウスはミランダのことも、婚約者のいないことや、父親が野心家の貴族令嬢であることから、自分狙いでリーリアを害する輩の1人と疑っていた。
 しかも、リーリアの懐き具合から、なかなかしっぽをつかませない、巧妙な知能犯タイプなのではと、誰よりも警戒していた。
 しかし、今までのリーリアの友人と称する令嬢達はセリウスを見る目に熱がこもっていたり、企みがあることがすぐに見抜けたりしたが、今回のやりとりから、色々と鎌をかけてみてもミランダにはその傾向が全く見られず、むしろ野猿なリーリアの魅力に気づいた同志として認めるに至った。

「正直、ミランダ嬢がここまでの実力とは思わなかったよ。
 よかったら、これからも僕の調査の依頼などを受けてくれると嬉しいな。
 女性でなければ、すぐに部下としてスカウトするところだったよ」と微笑むセリウス。

「まあ、光栄ですわ、セリウス殿下。私でお役に立てることでしたら、何なりと」とミランダも快く答えた。

「この調査書のお礼に加えて、これを元に考えた君の行動予想のおかげでリーリアが随分助けられたみたいだし、君に是非、何かお返しをしたいのだけど、何がいい?」

「いえ、そんな恐れ多いですわ。お礼なんて不要です。大事な友人のリーリア様さえ無事に学院で過ごせる手助けができればと思ってのことです」

「いや、それでは僕の気が済まないな。遠慮なく言ってほしい」

「では、これからもリーリア様と仲良くさせていただければ十分です」

「うーん、逆にこちらこそ、これからもリーリアと是非、仲良くしてほしいな。
 リーリアには君みたいな賢いタイプで、僕に興味のない友達と仲良くしてもらいたいと思っているから。それ以外で希望は?」

(ん?今、セリウス殿下は私のこと「賢いタイプ」とか言われましたか?
 すごい!あのセリウス殿下からそんなお褒めの言葉を!!これは早速、お父様に報告せねば!
 あ、でも「僕に興味のない友達」とも言っていましたね。
 牽制かしら?
 まあ、今はリアの方が大事ですわ。
 しかし、しっかり牽制もするとは、さすがは腹黒!)と感心するミランダ。

「えーと、では制限なくリーリア様に私がおやつをあげる許可をください。
 おやつをあげようとしてもリーリア様から『セリウス様にダメと言われているの』とよく断られるので、寂しくて。
 おやつを食べる彼女の笑顔や様子がとても好きなんです」

「うん、うん、わかるよ!
 あのときのリーリアは幼子のように無邪気でとても可愛いよね。
 でも、リーリアの健康(と調教)のためだから、僕も我慢して制限しているんだよ。
 だから許可できないので、それ以外で!」

 ちっと心の中で舌打ちするミランダであった。

「まあ、じゃあ、この学院にきた君の一番欲しいものが手に入るように手助けするよ」とセリウスは何かを企むような笑顔で言ってきた。

「はぁ。私の一番欲しいものですか?」とミランダは首をかしげる。

「そう。君はまだ誰とも婚約していないよね?」

「ええ、まあ」

「だから、君の結婚相手にふさわしい相手を僕が責任もって紹介してあげるよ」と親切そうにいうセリウスであった。

(リーリアの友人だから、きちんと幸せになってもらった方がリーリアに影響がなくて安心できる。
 下手な男に引っかかった彼女にリーリアが巻き込まれたり、悲しんだりしないようにしないとね)というのがセリウスの本音で、つまりミランダのためというより、リーリアのためであった。

 一方、それを聞いたミランダは、心の中で喜びと不安の嵐が渦巻いていた。

(すごいわ!セリウス殿下の紹介なら、今まで私が調査して没にした相手なんかきっといないだろうから、理想の相手に効率よく会えるかもしれないわ。
 いや、でも待って。
 嫉妬深いセリウス殿下のことだから、リアと仲良しの私に自分との時間がとられるのが嫌で、私とリアがたまにしか会えないような辺境に送ろうとしている可能性も……)とミランダはまだセリウスを信じ切れず、葛藤していた。

 ガタッゴン

 その時、椅子の倒れる音がして、葛藤するミランダが音の方に目を向けると、ディオンがまたしても急に立ち上がったらしく、椅子を倒していた。
 ただ、今回は倒した椅子を直しもせず、セリウスに何か言いたそうに、焦った顔をむけていた。

 そのディオンの様子を愉快そうに眺めるセリウス。
 楽しんでいるセリウスの様子にため息をつくアーサー。

「……殿下。ディオンを弄ばないでくださいよ」とセリウスをたしなめるアーサー。

「やだなー、そんなことしていないよ~まだね」と笑うセリウスであったが、アーサーの睨みに肩をすくめた。そしてミランダに向かって真面目な顔でディオンを指しながら話しだした。

「まず、僕のおすすめの相手はこのディオン・サリッドだけど、どうかな?
 彼はサリッド侯爵家の嫡男でありながらまだ婚約者がいないんだ。サリッド侯爵領は王都からも割と近いし、結婚した後でもリーリアには会いやすいよ。
 あと、彼自身、将来性もあって、僕は彼ならアーサーの次に王国騎士団を任せられると思っているんだ。
 まあ、たぶん、君ならもうそれくらいは調査済みかな?
 結婚相手候補者の調査もこの調査書並みに高レベルでしていたみたいだしね」

 セリウスからそう言われたミランダは、まさかディオンをいきなり紹介されると思わず、しかも調査していたことを当事者に伝えられて、つい赤面してしまった。

(うー、ディオン様ほどの大物からいきなりすすめられるとは!
 今日、直接お会いしてかなり高評価だったから、気持ちの整理しがてら調査書をまとめようとは思っていましたけど、今、突然、ディオン様を意識したとたん、すごく恥ずかしくなってきましたわ~。
 しかも、結婚相手候補の調査もしていたことを、よりにもよってディオン様の前で言うなんて、セリウス殿下のデリカシーなし!)とミランダはちょっとセリウスをジト目で見てしまった。

 しかし、ディオンの反応は?とミランダが目を向けると、当のディオンはもっと大変な状態に陥っていた。
 ディオンは顔を赤くしたり、青くしたり、汗もさっきの10倍はかいて、「……で、殿下、なんでいきなり……こ、心の準備が……」と緊張と興奮が入り混じった、パニックに近い状態であった。

 人は他人がパニック状態だと、自分は落ち着いてくると言われているが、ミランダはまさにパニックのディオンをみて落ち着いてしまった。

(うん、そうよね。
 いきなり言われたディオン様の方が困った状態になるわよね。
 殿下の紹介とはいえ、さほど面識もない私なんかをいきなり紹介されて、でも貴族令嬢だから相手を気遣わないといけないから、色々と葛藤するわよね)とミランダにしてはやや後ろ向きに考えていた。

「セリウス殿下!どうして注意した途端にやらかしますか!?全くもう!」とセリウスを叱るアーサーに対して、「いやー、いつまでも煮え切らないディオンの後押しをしただけだよ、アーサー」と他人事なセリウス。

「ほら、ディオン。はい、これを使っていいから、ここはもう潔くミランダ嬢にプロポーズしなよ。ね?」とセリウスはサロンに飾ってあった花瓶から薔薇の花を抜き、ディオンに渡した。

「セリウス殿下!ふざけているのですか!?」とアーサーがさらに怒り、真面目にその薔薇を受け取るディオンにも「ディオンもまともに受け取るな!」と叱った。

 しかし、薔薇を持ったディオンは意を決したように、ミランダの前まできて片膝をついた。

 そんなディオンをみて、ミランダは耳にまで鼓動が聞こえるほどドキドキしていた。きっと顔も真っ赤だろう。

「……ミランダ・ローエリガー嬢」と低いよく通る声でディオンがミランダに語りかけた。

「あなたは覚えていないかも知れないが、私たちは以前、会ったことがあり、その時から美しく聡明なあなたのことをずっと想っていた。
 実は、何度かローエリガー伯爵家に求婚の申し込みをしていたが、私が至らないせいか、あなたの父君から全て断られていた。
 でも、こうしてセリウス殿下にせっかくチャンスをいただいたので、あらためて申し込ませてもらう」

 ここで、一息ついて、ミランダの目をじっと見つめたディオンは、
「どうか、私の妻になってほしい」と言って、ミランダに薔薇を差し出した。

「はい、私でよろしければ喜んでお受けします!」とミランダは顔を真っ赤にしながらも、すぐに差し出された薔薇を受け取り、ディオンの求婚を受け入れた。

「ありがとう!ミランダ」と嬉しそうに微笑むディオンと、しばし照れたように見つめあうミランダ。

 一見、照れているが落ち着いているようにみえるミランダだが、実は心の中は怒涛のような感情と疑問、思考で埋め尽くされていた。

(ディオン様の笑顔、初めてみましたわ!
 可愛い!
 かっこいいのに可愛いってどういうことですか!?
 この安堵感と嬉しさが溢れるような笑顔、本当に素敵!素敵すぎる!!
 あら?
 でも、ディオン様は寡黙な性格と思っていたのに、しかもさっきまでパニックで、片言しかしゃべれなさそうだったのに、何故流れるようにプロポーズの言葉はでてくるの?実はプロポーズの練習をしていたのかしら?
 それよりディオン様は本当に私なんかで良いのかしら?
 もうお父様ったら、せっかくのディオン様の求婚を何故断っていらっしゃったのかしら?
 しかも、何度もってディオン様がおっしゃっていたわ。
 どうせ、身の程も知らずに王族や公爵家との縁組を狙っていたのかしらね。
 お生憎様、王族、公爵家の方々はみんな家柄の良いきちんとした婚約者がいるか、婚約者のいない方々は人としてダメなタイプばかりだったわよ!
 娘の苦労もしらずに、あの狸ったら!
 この即席の薔薇でも、もし子供たちが生まれたら、お母様はお父様から薔薇をもらってプロポーズされたのよ!と自慢できるわ。
 あと、ちょっと、そこのひそひそしているギャラリーたち!
 とっても邪魔ね!!)などなど、次々と浮かんでくる感情や思考などにより、やや混乱気味のミランダであった。


 一方、その様子を見守るセリウスとアーサーは、二人の雰囲気を壊さないためか、ひそひそと話し合っていた。
 でも退室するという気遣いのないセリウスとアーサー。

「ほらね。うまくいったよ、アーサー」

「本当に何て無茶ぶりをするのですか、あなたは!
 うまくいったから良いようなもので、もしうまくいかなかったら、長年片思いしていたディオンにどれだけダメージを与えたことか」

「大丈夫だよ。僕が勝算もなく、すすめる訳ないでしょう?」

「……どんな勝算が?」

「ミランダ嬢のディオンに会った反応から、明らかに好意があると見たよ。
 それでいて彼女に野心はないし、父親の言うことを死守するタイプでもないことが話をしてよくわかったからね」

「ほー、そうだったのですね。
 ……ちなみに勝率は?」

「うまくいくのは65%くらいと思ってたかな~」

「低っ!ディオンの勝率、低っ!!
 そんなに低いのに煽ったのですか!?
 せめて80%以上ですすめてあげてくださいよ」

「いや、揺れる女心を計算すると大抵そんなものだよ。
 でも、僕のリーリアに対する勝率よりは高いぞ!」

「そうですか、うちの妹がすみません。
 って、婚約しているのに今さらリーリアに対して何の勝率ですか!?」

「え?アーサー、詳しく知りたい?」

「……いえ、結構です。
 でも、何度も言いますが、我がメナード家は、婚前交渉一切禁止ですからね」

「え~、やだな~アーサーってば!」

「……陛下と妃殿下から、もしあなたが妹に無体を働いたら、父と私で制裁する許可を既にいただいております」

「なるほど、合意ならOKということだね?」

「まず、合意はないですし、OKではありません。
 あなたが無駄に作ろうとした婚約者同士の寮の同室可にするという校則のように、絶対阻止します」

「もう、邪魔してくれて!
 僕は少しでも長くリーリアと一緒にいたいだけなのに~。
 その校則があれば、君もスージー嬢ともっと長くいられるメリットがあるよ!
 クリスからは大絶賛だったしね」

「スージーとは節度あるおつきあいをしているので結構です。
 それよりも王族にあるまじき行いは控えてください。
 クリスも無駄なことを……」

「ディオンやクリスみたいに片思いをしていると、大変だよね~」

「……確かに、あなたやクリスをみていると片思いをこじらせると碌なことありませんね」

「やだなー、アーサー!
 僕とリーリアはとっくに両想いだよ♪」

「……そういえば、あのディオンにしてはやけにスムーズにプロポーズできていましたね」

「あー、それは、僕がディオンにずっとマンツーマンでプロポーズ指導をしていたんだ!
 さすが、ディオン!
 特訓の成果がみられたね。
 やればできる男だね~」

「ああ、だからですか……。
 って、あなたはディオンにまで何てふざけたことを教えているのですか!?」

「いや、全然ふざけていないよ。
 僕は真面目に指導したよ。
 現にうまくいったしね!」と、ミランダとディオンが二人だけの世界を築いている横で、ひそひそと話し合うセリウスとアーサーであった。


 しばらくして、片膝をついてミランダと見つめあっていたディオンが、「……ミランダ、ちょっとここで待っていてくれないか? すぐに戻ってくる」とミランダに言って立ち上がった。
 ディオンはセリウス達には「ちょっと自室へものを取りにいきます。私が戻ってくるまでミランダはこちらに」と告げて、すごい勢いでサロンを出て行った。

 ディオンが出て行くのをみて、セリウスとアーサーは、ミランダへ祝いの言葉をかけた。

「いやー、何はともあれ、婚約おめでとう!
 こんなにすぐにうまくまとまってくれて安心したよ。
 うん、ディオンなら大丈夫。君をきっと幸せにしてくれるし、リーリアに迷惑をかけるような男じゃないしね。
 本当に良かった!」

「ミランダ嬢、いきなりな展開であったが、ディオンとの婚約、おめでとう。
 心から祝福する。
 また私からもディオンのことは将来性のあるいい男だと保障するよ」

「はい、ありがとうございます」とミランダは祝福してくれる二人に笑顔で答えた。

 その後、ディオンが戻ってくるまではと、3人で談笑していた。

 そこへコンコンというサロンの扉をノックする音がして、リーリアが扉前の護衛に案内されて入ってきた。

「リーリア、いらっしゃい!」と嬉しそうなセリウス。

「お邪魔いたします、セリウス様。
 ミランダ様はまだこちらですか?」といってサロン内を見渡し、「リア!」「ミラ!」とお互い呼び合うと、リーリアはミランダに駆け寄った。

「ミラ、大丈夫でした?
 セリウス様に何か変なことを頼まれたり、意地悪を言われたりしていませんか?」と心配するリーリア。

「ひどいな、リーリア。
 僕は君の友達なら大切にしてあげるよ。
 本当の友達ならね……」とセリウスが黒く笑うのをスルーしたリーリア。

「あの、リア。私、ディオン様に先程、プロポーズされましたの。
 それでお受けすることにしました。
 この薔薇はその時にディオン様からいただきましたの!ふふふ」とミランダはディオンとの婚約をリーリアに早速、報告した。

「まあ!まあ、なんて素敵!!
 ディオン様からのプロポーズですか!?
 しかもつい先程ですか?
 では、この薔薇は大事にしないと。
 私が保存の魔法をかけてもいいですか?
 保存魔法をかければ、枯れずにこのままで一週間はもちますよ。
 あと、もしもっと長持ちさせたかったら、保存魔法容器に入れれば、年単位でもちますよ、ミラ」

「まあ!是非、保存魔法を、お願いしたいわ、リア!!あと、もちろん保温魔法容器もほしいわ。リア、一緒に買いにいきましょう?」

「ええ、是非、一緒に行きましょう!
 良いお店を存じておりますわ。
 ……ところで、もしかしてセリウス様とアーサー兄様はディオン様のプロポーズの一部始終をずっとご覧になっていたのですか?」

「うん、ばっちり見ていたよ!
 ディオン、頑張っていたよ~、リーリア」と愉快そうなセリウス。

「……そういえば、席を外すべきでしたかね?」と今さらながら気づくアーサー。

「……そうですわね。
 できれば二人だけにしてさしあげるべきでしたわね、お兄様。
 まあ、セリウス様とご一緒ですものね」とちょっとため息をつくリーリア。

「ちょっと、リーリア、どういう意味かな?
 僕としてはディオンの特訓のせい……むぐっ」とセリウスはリーリアに口を塞がれた。

「特訓の、何ですか?」と気になるミランダ。

「いえ、何でもないですわ、ミラ。
 ディオン様との婚約、本当におめでとう!!
 ところで、そのディオン様はどちらに?」とリーリアが聞いたちょうどその時、ディオンが「失礼いたします」といってサロンへ戻ってきた。

「あ、ディオン様!」

「……ミランダ、待たせたね」と言って、ディオンはまたミランダの前にいくと片膝をつき、今度は手にした小箱を差し出した。

「ディオン様、これは?」と問うミランダに、ディオンは箱を開けて、中身がミランダに見えるようにして渡した。

 それは花の形を模った繊細な銀細工の腕輪で、花の中心に美しい紫の宝石が埋め込まれていた。

「まあ、素敵な銀細工!これを私に?」

「ああ、プロポーズの記念が枯れてしまう花だけではいけないと思って。
 実はこの腕輪を初めて見た時、美しいあなたのことが思い浮かんだので、いつかあなたに渡せたらと思い、ずっと持っていたのだよ」

 そういって、白くて華奢なミランダの手首にその腕輪をつけるディオン。
 確かに美しい銀の髪に紫色の瞳のミランダの容姿に合わせたような腕輪であった。
 腕輪をつけられながら、またもや顔を真っ赤にして照れるミランダ。
 ここで再び、二人だけの世界が展開された。

 その横で、「素敵!素敵!」と貴族令嬢らしからぬリーリアがぴょんぴょん跳ねて興奮していたが、「……殿下。ディオンのあのセリフ、あれも殿下の特訓の成果ですか?」とセリウスにひそひそと聞くアーサー。「うーん、どうかな?あそこまで教えたような、教えていないような……」「もしやディオン、天然のタラシだったか……」とアーサーとセリウスすら、寡黙な性格と思われたディオンの変わりようにとまどっていた。

 色々と落ち着いて、サロンから女子寮までディオンに送ってもらったミランダは、別れ側に「おやすみ、私の愛しいミランダ」とディオンに気障なセリフを自然に吐かれ、今度は顔どころか首まで赤くなったのを自覚した。

(とうとう、私も婚約者もちになれましたのね!
 うーん、あの結婚相手探しの苦労は何だったのかしら。
 いや、でも、そのおかげで調査能力があがって、今回の件につながったと思えば無駄ではなかったということですわね。
 そう、人生に無駄はないのですわ!)と思い、ディオンからもらった腕輪を見つめながら、幸せを噛みしめるミランダであった。

 こうしてディオンとミランダの縁談を、セリウスにより急展開ですすめられ、また、ミランダの父親ローエリガー伯爵の許可をもらわないといけないという問題も、セリウスがディオンをミランダへ直接、紹介した旨を書いた書簡を渡すことで王族公認ということを表明すれば、ミランダの父親ならそれに逆らわないことは確実ということで解決した。
 ミランダはそのことでも、セリウスとリーリアに心から感謝するのであった。

 そんな幸せ絶頂のミランダであったが、世の中、それだけでは済まされなかった。
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