野猿な悪役令嬢

ルナルオ

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番外編 IF 野猿な囚人 22.老紳士

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 王宮行きの馬車乗り場に向かうリーリア。
 フードを深くかぶり、顔がばれないように歩くリーリアに、行きの時のような絡む輩もおらず、このまま無事に帰れるかなと希望を持った時であった。

 リーリアは、急いでいるので、ややはや足のつもりなのに、足がどんどん重く感じるようになり、気がつけば、のろのろとした歩みになっていた。

(あれ?おかしい……。
 何か、やけに足がしんどいな。
 どうしたんだろう?)

 そう思って、ふと、アグワリーにナイフを投げられた時に、足にかすった傷を思い出した。

(え、嘘!あんなかすり傷で、傷口が膿んだのかな?
 それとも……)

 リーリアが歩いている歩道の近くにちょうど、公園があり、その公園の中には軽く食べられるようなサンドウィッチやお菓子の屋台が数台でているおかげで、ベンチがいくつかあった。
 できれば、リーリアはすぐにでも馬車乗り場に行きたかったが、足の傷を確かめようと、公園の中のベンチに座った。
 早速、傷を見てみて、驚くリーリア。

(ああ!やられた!!
 あのナイフ、毒か、しびれ薬が塗ってあったんだ。
 しくじった……)

 リーリアの傷は、アグワリーのナイフがかすった部分が特に真っ赤に爛れ始めていた。
 その薬は、本来、微量でも効く即効性のしびれ薬であったが、野生児のリーリアは、催眠術ばかりか、薬も効きにくい体質であった。
 そのおかげで、即効性のはずが、まるで遅効性のように今頃になって効いてきた。
 しかし、その薬はゴリラでもいちころの強力なしびれ薬のため、さすがのリーリアも耐えられなかった。

(うう。もう動くのがしんどくなってきた……。
 どうしよう?魔法で連絡もできないし、助けを呼ぶにも、どこに行けばいいの?)

 周囲に見周りの警備や騎士がいないか、探したが、タイミング良く通りがかってくれなかった。
 焦るリーリアがキョロキョロしていたせいで、リーリアと同じように公園で休んでいた老紳士が声をかけてきた。

「お嬢さん?どうかしましたか?
 何やらお困りのようだが……?」
「いえ、その……」

 この老紳士を信じていいのだろうか?とリーリアは悩んだ。

「おや、随分、顔色が悪いね?
 誰か呼んでこようか?」

 親切にも言ってきてくれるこの老紳士は、物腰もやわらかで着ている服は上質であり、少なくともアグワリーの仲間には見えなかった。
 そこで、リーリアは、自分の限界も近く感じたので、この老紳士に賭けることにした。

「あの、アルーテ王宮の警備の方に私がここにいると知らせしていただきたいのですが……」
「ええ?お嬢さんは王宮の関係者なのかい?
 それなら、この近くの騎士団の詰所から連絡してもらおうか?」
「はい、どうか、お願いします……。わたしの名…は……」

 そこで、とうとう意識が保てなくなったリーリアは、名乗る前に、暗い淵に落ちるように気を失った。

 暗い闇の中で、リーリアは悪夢をみていた。
 夢の中では、アグワリーに捕まったことになったリーリア。
「敵に容赦するな!」と遠くで父親の声が聞こえるのに、身体が言うことをきかなくて、リーリアは抵抗しようともがいていた。
 もがきながら、(ああ、お父様がおっしゃる通り、アグワリーをとことんやっつけておけばよかった!)と後悔し、(ああ、いい子にしていなかったから、ルクレナ様はお迎えに来てくれないかも。もうみんなに会えないのは、辛い……)と弱気に考えていた。

 ぐ~ぎゅるぎゅる

 リーリアは、激しい腹音と、吐きそうになるほどの空腹感で、悪夢から目が覚めた。

「こ、ここは……」

 リーリアが目を覚ましたそこは、狭い檻の中であった。
 しかも、両手を拘束されており、魔力封じの腕輪や服もそのままであった。
 特にそれ以外の怪我や異変はなかったが、状況把握をしようと肘で体を何とか起こし、頭をあげて、キョロキョロと周辺を観察してみた。
 薄暗いが、どうやらどこかの地下室のようなところに、その檻は置かれ、リーリアは閉じ込められていた。
 逃げなきゃ!と焦ったリーリアは、両手の拘束をぎゅーっとひっぱって外そうとしたが、そんな簡単に外れず、ピクリともしなかった。

「す、すいません、どなたかいらっしゃいませんか~」

 今の時点で、脱出は不可能と思われたリーリアは、声を張り上げて人を呼んでみた。
 すると、その地下室の扉が開いた。

「おやおや、やっと目が覚めたようだね?」

 そう言って、入って来た男は、あの公園で会った老紳士だった。

「あ、あなたは……!」
「やあ、お嬢さん!
 ご機嫌はいかがかな?
 いや~、まさか散歩中に、君みたいな子が手に入るとはね~。
 私もついている!
 くふっくふふふふ~」

 いやらしく笑う老紳士が、リーリアのいる檻を覗き見ていた。
 いや、紳士なんかではなかった。
 人を誘拐するような外道爺であった。

「君がお名前を言う前に、意識がなくなってしまったから、どこの誰か調べられなかったんだよね~。
 君は何者なのかな?」
「……」
「うーん、たぶん、君はこの国の子ではなく、その魔力封じの腕輪から、おそらくランダード王国から来たのだろうね」
「……」

 無言になるリーリアに、苦笑する外道爺。

「まあ、答えなくても大丈夫だよ。
 おそらく、魔力の強いランダート王国の貴族令嬢だと思うのだけど、それにしては、ちょっと粗野なんだよね~。
 まあ、お顔は大変可愛いらしいから、たぶん貴族令嬢としての血統書をつけなくても、高く売れそうだから、いいけどね。
 いい子にしていたら、こちらも手荒な真似をしないし、痛いこともしないし、売るまで、美味しいものを食べさせてあげるよ~」

 まるでリーリアのご機嫌を取るように言い含め、檻の中のリーリアに近づき、しみじみリーリアを観察する外道爺。

「ふむ。よく見れば見るほど、まさに上玉だね。
 君はまるで、天から降って来た、まだ未開封のプレゼントのようだ!
 さてさて、高く売るには、どんな演出でいこうかね~」

 嬉しそうに笑う外道爺に対して、苛立つリーリアであったが、ぷいっとそっぽを向いて無視しようとすると……。

 ぎゅいん、ぐるぐる~。

 リーリアのお腹が盛大に鳴った。

「おやおや、お腹が空いてしまったようだね。
 バーナルに言って、美味しいものを食べさせてあげようかね。
 それまで、いい子でいるんだよ?」

 人身売買をするような外道爺は、リーリアのいる場所から、去って行った。
 リーリアは、どうやら商品にされるみたいである。

(ああ、また囚人に逆戻りだ。
 しかも売られてしまうらしい……。
 今度は助けてくれるミランダもルクレナ様もいない。
 どうしよう……?
 魔力封じの腕輪も外すのに時間がかかるし……。
 セリウス様よりもひどい変態に売られたらどうしよう!?)

 泣きそうになって、俯くリーリア。
 しばらくすると、美味しそうな匂いがして、陽気な声が聞こえてきた。

「あらー?ここかしら?
 お腹を空かした子猫ちゃんがいるのは?」

 そう言って、地下室に入って来たのは、がたいの良い男性であった。
 でも、金髪の長髪は、くるくるの巻き毛にして、それを薔薇色のリボンでくくり、清潔で動きやすい洋服を着ていた。

「こんにちわー!私があなたのご飯担当のバーナルよ。
 よろしくね~。
 何でも暴れるかもって縛られているらしいけど……。
 あらあら、それじゃあ自分でご飯食べれないわね~」

 檻に近づいたバーナルは、檻の中に手を伸ばして、リーリアを撫でようとする。
 狭い檻の中なので、あまり逃げ場はないが、その手から逃れようと、動けないながらも俊敏に避けるリーリア。

「まあ、本当にやんちゃね~。
 でも、かわゆいわね~。
 撫でさせてくれたら、これあーげる」

 バーナルは、持ってきた箱の中から、チキンらしきお肉の入った入れ物を取り出して、スプーンにのせて、リーリアの顔に近づける。
 リーリアは、さっきからするいい匂いに、(これ、絶対美味しい!)と確信して、そのスプーンに食らいついた。

 パクッ
 むっしゃ、むっしゃ
 カパー

 二口目を要求するために口を開けるリーリア。

「やだ、この子!すっごく可愛いわね!!
 美味しそうに食べてくれて嬉しいわ~。
 ああ、この子、私が飼いたいわ~。
 色々とドレスを着せ替えたい!」

 バーナルに二口目をもらったリーリアが大人しくしていたので、チャンスっとばかりに、バーナルはリーリアの髪をなでなでする。

(撫でるな!
 それよりも、さっきのミルククリームソースのチキンを!!)

 リーリアは、撫でられている手を、頭を振って嫌がり、しゃーっと口を大きく開けた。

「あらん?また、ご飯の催促ね?
 この味気に入ったの?
 ふふふ、いい子ね~」

 そう言って、リーリアの大きく開けた口にチキンを放り込んでくれるバーナル。
 それをむっしゃ、むっしゃと食べるリーリアは、その味にちょっと感動していた。

 うまーい!
 なにこのチキンの味付け、本当に美味しいわ!!
 いや、この人、天才だわ。
 あの外道爺のところで働いているなんて、もったいないな~。
 こんなところで出会わなければ、我が家のシェフにスカウトしたのに!
 実に、惜しい!

 リーリアは密かにバーナルを賞賛しながら、もらうご飯を嬉々として食べる。

「子猫ちゃん、お名前は?」
「……」
「言いたくないの?家族に迷惑がかかるから?」
「……」
「せめてあだ名でも教えてくれたら、このパンをあげるわよ?
 このパンはかぼちゃと岩塩が練り込んであって、何もつけずに食べても甘しょっぱくて美味しいのよ?」
「野猿……」
「え?」
「野猿ってあだ名で呼ばれている」
「えっと、あのランダード王国のアレース地方にいる『野猿』かしら?」

 うんうんと頷くリーリアは、バーナルの持つパンに目が釘つけであった。

「まあ、そういえば、そのほわほわの茶髪は似ているかも~。
 子猫よりピッタリで、かわいいわ~!
 はい、パンをどうぞ、野猿ちゃん!!」

 さし出してくれたパンは、きちんとリーリアの口に収まるサイズにちぎって、口に入れてくれた。
 リーリアはそのパンをもぐもぐ、ごっくんと飲み込み、次は?と期待の目でバーナルを見つめる。

「野猿ちゃん、今度はこのバジルサラダ、食べる?」

 コクンと頷くリーリアはまた、大きく口を開ける。
 しゃくしゃくと嬉しそうに食べるリーリアを微笑ましく見るバージルは、つい、大量に餌付けしてしまう。

「野猿ちゃん、美味しい?」
「おいしい……」
「よかった!
 じゃあ、次はデザートを2種類、作ってきたの。
 まだあなたの好みがわからなかったし、こんなにご飯をもりもりと食べてくれると思わなかったから、甘いものしか食べてもらえないかなって予備で持ってきたのよ。
 とりあえず、デザート、どっちが好きか教えてくれる?」

 コクコクと力強くうなづくリーリアに破顔するバーナル。
 デザートは、チーズを使ったふんわりケーキにフルーツを挟んだものと、ワインゼリーとババロアが2層になった口どけ良いデザートであった。

「美味しい?どっちが好き?」
「どっちもおいしい。
 フルーツの入ったケーキの方が好きかな?」
「そう。フルーツも好きなのね。
 おかわりいる?」
「もう、お腹いっぱい」
「そう?じゃあ、また明日も美味しいものを持ってきてあげるわよ~」

 バーナルの言葉にリーリアはキラキラと瞳を輝かせた。
 バーナルが名残惜し気に去って行った後、明日のバーナルの来訪を心待ちにしてしまうリーリアであったが、これではいけないと正気に戻った。

 よし、ご飯を食べて気力も十分になったし、ここを脱出しよう!
 まずは、この拘束はもちろん、この腕輪を解除しよう。
 魔法さえ使えれば、ここから簡単に逃げ出せるはず。
 腕輪の解除の仕方は、よくわかっている。
 ただ、簡単には外せないし、両手拘束されていて、指先くらしか動かせないから時間はかかるな。
 けれども、今回はこの状態からでも解除しないとね。
 きっと私が売られるまで、まだ時間はある!
 それまでに解除できれば、絶対、逃げられる!!

 美味しいご飯を食べると、途端に前向きになるリーリアは、またもや逃亡のために全力を尽くそうとするのであった。
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